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隣の二階堂さん  作者: 阪上克利


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自分の気持ちをはっきり伝えるよりは駆け引きする方がいいのか否か

 金曜日。

 居酒屋は満席に近い。

 次の日が土曜日でお休みだからだ。

 だから金曜日の夜は心行くまでお酒を楽しめるということで居酒屋は賑わうし、心なしか他のお客さんたちの声も明るい。


 そんな中、暗い顔した女3人が奥の座敷の席でお酒を呑んでいる。


 てゆうか……何であたしが……

 と納得いかない気持ちもありながら、あたしは生ビールを呑んでいる。

 あたしの横にはあたしと同じ顔の姉がおり、正面には泣きそうな顔の松沢さんがいる。

 何故か……姉は笑顔で一人機嫌がいい。

 双子の姉妹というのは気持ちも通じ合うものだと言うが、ぶっちゃけあたしはこの姉の考えていることがよく分からない。


『彼の気持ちを確かめるのに一番いいのは直接聞いてみることなんだけど、それはちょっと怖いわよね』


 満面の笑みで姉は言った。

 よく考えてみるとこの姉がしかめ面しながら話すのはあたしの前だけのような気がする。

 案外、人当たりはいいのだ。


『うん。それはちょっと怖いかな……』

 松沢さんは両手でビールのジョッキを持って少し上目遣いでこちらを見ながら言った。

 上目遣いなのは計算しているように見えるが実は彼女の場合は身体が小さいのでどうしてもそうなってしまうのだ。あたしたち姉妹もそんなに身体は大きい方ではないが松沢さんよりは若干大きい。

 どうしても彼女は視線が下になってしまうので、誰かと話すときは上目遣いになる。

 それが彼女のチャームポイントであることは間違いない。

『でもさ。どうせ知らないと話にならないんだし、ここは根性入れて聞くしかないじゃん』

『そうやって……二階堂ちゃんは他人事だからそういうことが言えるのよ』

『そうなのかな?よくわからんけど』

 あたしはそう言いながらやってきた焼き鳥を食べた。

 うん。美味しい。今日は焼き鳥を奪われることもなさそうだ。


『志保ちゃん、この人にそういう繊細な話は通じないから気にしなくていいわよ』

 横から焼き鳥に手を伸ばす姉。

 そしてネギだけどけて食べる。

 いい加減、好き嫌い克服しようよ……。


 それにしてもあたしに繊細な話が通じないとは失礼な話である。

 あんたのしょうもない話にこちらは何度付き合ったと思っているんだ。


 まあ……実際、恋愛の機微についてあたしに分かるわけもないし、興味もない。

 だからと言って姉に分かるとは思わないけど、めんどくさいからこの話は姉に任せてあたしは酒と焼き鳥を楽しもう。


『とりあえずさ。彼と話しできてないんでしょ?』

 姉は身を乗り出して言った。

『うん……』

 相変わらず元気のない松沢さん。

 彼女は元気がなくてしょぼんとしているぐらいの方が可愛いような気がするのはあたしだけだろうか。

 それにしてもあんなに嫌がってたくせに姉ときたらめちゃめちゃ乗り気になってる。


 ちょっとおだてすぎたか……


『一回、飲み会に誘ってみるというのはどうかな?あたしも会ってみたいし』

『ええええっ!!!』

 あたしと松沢さんは声をそろえて言った。

 声がそろった理由は、たぶん違う意味だと思うがあたしはあえて何も言わなかった。

『ちゃんと話せるかなあ……あたし……』

 松沢さんは小さい身体をさらに小さくして、ロックの焼酎が入っているグラスを一口飲んだ。

『大丈夫!』

 姉は自信満々で言った。

 ……どこから来るのだろうか。その根拠のない自信は。


 てゆうか彼女は石岡くんが見たいだけなのだ。


『飲み会に姉ちゃんがいたら石岡くんびっくりするよ』

『そうなの?あたしは別に大丈夫よ』

『いや、だから……姉ちゃんが大丈夫でもあたしが大丈夫じゃないの!』

『そうか……じゃあ仕方ないか……』


 おお。

 珍しく素直ではないか。

『あんたのふりして飲み会に行くから、あんたは来なくていいよ』

 なんてこと言うんだ。この姉は。

『いや……本当に無理だって』

『大丈夫よ。同じ顔してるんだから……』

『無理だって。キャラクターが違い過ぎる……』


『ぷっ!ふふふ……』

 あたしたちの言い合いを真ん中で見ていた松沢さんは、笑いをこらえていたようだ。

 そりゃそうだ。こんな同じ顔の狂ったような姉妹の醜い言い争いを間近でみれば誰だって笑いたくもなるだろう。

『てゆうか確かに二階堂ちゃんとお姉さんって同じ顔してるのにキャラが違いすぎだよね。白と黒だよ』

『そうよねえ。あんたは黒いイメージだわ』

 誰が黒いイメージだ。

 人を性格悪いみたいに言わないでほしい。

 話が変な方向に進みそうだが、まあ、元気がなかった松沢さんがちょっと笑えたのならよしとしよう。


『ところでさあ。告白って男からするって誰が決めたんだろうね』

 なんだかんだ姉はこの手の話で核心を突くのが上手だ。

 ただ、告白というのは男性がするものだという世間のイメージはいかがなものだろうか。

 そもそも女性の方が好きになる場合もあるのだ。

 男性の側にまったくその気もないのに『言わせる』というのはいささか難しい話だろうし、こういうことは好きになった方が積極的に言った方が話は進むのだ。

『あたしは好きな人ができたらはっきり『好き』って言うと思うな』

 あたしは自分の意見をそのまま言った。

『またまた――!そういうのってけっこう勇気いるよ。てゆうか二階堂ちゃん、告白したことあるの』

『ないよ。ないけどなんにしても待ちの一手はあたしらしくないから』

 酒の勢いか……

 松沢さんは少し赤い顔しながらも元気になった様子だ。


『この子、昔からこうなのよ』

 姉の意見はどうにも的が外れている。

 あたしはただ変な駆け引きはしないと言っているだけだ。


『う――ん。あたしは自分から言うのはちょっとなあ……』

『そうよねえ。やっぱりちょっと駆け引きしたいところよねえ』


 場が盛り上がるとお酒も進む。

 あたしと松沢さんはいつものように焼酎をロックで頼み、姉はよく分からないピンクのお酒を呑んでいる。

『彼の前でそんなの呑んじゃダメよ』

 姉は松沢さんの芋焼酎を指さして言った。


 ダメなのか?

 いいじゃん。

 焼酎美味しいし……

 相変わらず訳の分からないことを言う。

 先日、母がうちに来た時にはあたしの家で母と焼酎を呑んでいたではないか。


『やっぱり『あたし、お酒弱いんです……』みたいな感じの方がいいのかな?』

 松沢さんは焼酎の入ったグラスを見つめて言った。

『うん。か弱い感じを出した方が良いと思う』

『で……姉ちゃんはいつも外ではそれなの?』

 あたしはかねてから疑問に思っていたことを聞いた。

 姉は呑める方だ。決してお酒は弱くない。にもかかわらず外で呑む時は必ず何か色付きのお酒をゆっくり時間をかけて呑んでいる。

『やだ。あたしはいつもこうじゃない』

 頬に手を当てながら姉は言った。

 いや、女だけの飲み会で品を作ってどうする……

『……よくわかんないけど……少なくともこの間、母ちゃんが来た時には焼酎がぶがぶ呑んでたよね』

『もう……本当にあんたは……そういう身も蓋もないことを言うんだから――!!』

『え――っと……姉ちゃん。変な見栄張るのはやめた方が良いと思う』

『いいのよ!第一印象って大事なんだから!!』


 第一印象が大事だというならその無駄にリボンのついたフリフリの洋服を辞めた方が余程いい。


 ただ松沢さんの心には姉の意見が響いたようだった。

 彼女は少し決心したような顔をして言った。

『じゃあさ。今度、石岡くんを呼んで飲み会をするとして……あたし、ちょっといつもと違う感じで参加してみようかな』

『うん!それがいいよ!!』

 いいのかな……。

 こんな姉の言うことなど聞いて大丈夫なんだろうか。

 これで松沢さんが石岡くんに愛想をつかされたらと思うとあたしはぞっとする。


『大丈夫!当日はあたしも参加するから!!』


 姉はどうしても石岡くんの顔が見たいらしい。

 お酒が入った勢いなのか、それとも松沢さんはもともと姉に似たところがあるからなのか、やたら二人は盛り上がって飲み会の予定を立て始めている。

 もうこうなったらすべて任せよう。服でもなんでも貸すから適当にやってくれ。


 あたしは目の前の焼酎を一口呑んだ。


 松沢さんは腹を括ったのかもしれない。

 後はうまく行くことを祈るばかりだ。

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