姉は恋愛のスペシャリストなのか否か
夕方……。
家で一人で晩御飯を食べていると電話が鳴った。
嫌な予感がすると思ったが仕方なくでることにした。
『もしもし……』
『ちょっとなんで電話でないのよ』
『今日は一発で出たじゃん』
『あ……そうか』
予想はしていたが……姉だった。
おそらく松沢さんの件だろう。
てゆうか、仲良くなったんだし協力してやってくれ。
あたしの手には負えん。
『聞いた?』
『聞いたも何も今日のお昼に相談受けたわよ』
『そうなの?で。どうするの??』
『いやどうするもこうするもないでしょ。あんなもん自分の問題だし』
『え?何の話??』
『え??』
姉からの電話はてっきり松沢さんの件だと思って話をしたのだが、どうやら違うようだった。
『秋ナスの収穫時期が近いから手伝いに来いって母ちゃんに言われたんだけど……』
『へえ。それは初耳』
『え?じゃああたしだけ??言われたの?』
『そうなんじゃないの?あたし夏野菜の収穫の時に手伝いに帰ったからね』
『え――――』
いや……え――とか言われてもなあ。
『なんなら一緒に行ってもいいけど……』
『一緒に?かわりに行ってくれないの?』
『意味わからん。てゆうか、あんた……ふざけたこと言ってると母ちゃんに怒られるよ』
『だって顔が同じなんだからどっちが行っても分からないじゃん』
姉ちゃんは母親の勘の鋭さを分かっていない。
母親というものは他人が分からない我が子の細部をしっかりと理解していたりする。
双子の子供が姉なのか妹なのか。
一瞬で見分けることなど造作もないことだろう。
『一緒に帰るのはいいけど、変わりに行くのは嫌』
姉には中途半端な言葉は通じないので、はっきり言うことにしている。
『そう……でもまあいいや』
『じゃあ、がんばってね。畑仕事』
『いや、一緒に帰ってくれるんでしょ』
『まあいいやって言ったじゃん』
『それは変わりに帰ってくれなくてもいいっていう意味』
どんだけ図々しいんだ。
『あ……じゃあ、変わりにさあ……』
『何?交換条件出すつもり?』
『てゆうか断るんだったら一人で帰ってよね』
『えええ……』
『ちなみに断ったら母ちゃんに言うよ。姉ちゃんが畑仕事手伝うの渋ってたって』
『ごめんなさい。なんでも言うこと聞きます』
たぶん、そのうち本人から電話があるだろうけど、まあ、せっかくの交換条件だし、松沢さんの件を姉ちゃんにも考えてもらうことにした。
てゆうかこの姉が名案を持っているとも思えないが……。
『え――!嫌よ』
意外な答えだった。
要は人の恋愛の成就はどうでもいいらしい。
勝手なことこの上ないが、他ならぬ松沢さんのためだ。なんとかしなければ。
『そんなこと言わずに力になってやってよ』
『てゆうか、そんなん自分でなんとかするしかないでしょ』
むむ……。
いつもあたしが言っていることを逆に姉から言われるとは……なんだか変な気分だ。
『でもさ。姉ちゃんなら経験も豊富だし、なんとかできるかなって思ったんだけどなあ』
『経験豊富?うん。まあね。それは否定しないけどね』
経験豊富なわけない。
姉の恋愛経験などせいぜい乙女ゲームの中での話だ。
『あたしなんか未だに彼氏の一人もいないわけだし、こういうことはやっぱり姉ちゃんの方が名案を持ってると思うんだよね』
『いや……でも……う――ん』
よし。
もう一押しだ。
『やっぱりこういう恋愛の駆け引きって経験がものを言うじゃない。あたしなんか姉ちゃんに比べると何もないから』
『そ……そう?』
『うん。あと姉ちゃんには黙ってたけど、高校の頃、姉ちゃんってけっこう人気あったんだよ』
人気があったのは近所のおっちゃんたちなんだけどね。
『え?やっぱり??』
『同じ顔してるけど、あたしとはセンスが違うのよ』
『そうよねえ。あんたもお葬式みたいな黒い服ばっかり着てないで少しはあたしを見倣わないとダメよ』
『うん。だからさ。そういう感じで松沢さんの相談にもバシバシ答えてあげてよ』
『よし!お姉さんに任しておきなさい』
ちょっとおだてるとこうだ。
ちょろいもんである。
またまた次話に続く……




