ポテトチップスの量は多すぎるのか否か
隣の二階堂さんには変な癖がある。
考え事をして煮詰まってくると部屋の壁を叩くのだ。
最初はびっくりしたけど、変な癖だと知ってからは何も怖くはない。
最近では彼女が何かに煮詰まってきている時に、お茶を誘って話を聞くことをあたしも夕凪も楽しみにしている。
どんどんどんどんどんどんどんどん……
今夜も壁を叩く音がする。
4歳になった夕凪と目が合った。
あたしは夕凪に言った。
『お姉ちゃん、呼んできてくれる?お部屋でお茶でもしましょうって。』
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目の前にずらりとならぶカードを見て、あたしはどうしようか考えた。
ゴミにして捨ててしまうのは簡単だが、どうにもこの手のカードを捨てるのは捨てづらいものがある。
ビールを飲むときにいつも少しだけつまみたくなるのがポテトチップスなのだが、どうにも市販のポテトチップスでは量が多すぎる。では残せばいいではないかと言われるがそんなにしょっちゅう食べれるものでもないので残すと必ず湿気てしまうし、それにいくら袋の口をきちんと縛っていても……どうにも不衛生な気がしてならない。
聞けばゴキブリはわずか数ミリの隙間までも、すり抜けることができるとかで、そんなことを聞いてしまっては脂っこいポテトチップスを残すということなどできるわけもない。
かと言って残ったポテトチップスを捨ててしまうのも何か罪悪感がある。
やはりお菓子と言えども食べ物を粗末にしてはいけない。
筒状の入れ物に入っているポテトチップスも美味しいのだが、こちらは袋に入っているポテトチップスと違って、ちょっと油分が足りないような気がする。それにジャガイモ感が強すぎて少しでお腹がいっぱいになってしまうのはビールのお供には少々難があるのだ。
それであたしはスーパーやコンビニに行く度にちょうどいい量のポテトチップスを探していたのだけど、最近、良いものが見つかった。
それが『プロ野球チップス』である。
ただこれにも大きな問題がある。
それが……目の前にずらりと並んでいるカードである。
そもそもプロ野球チップスのメインはポテトチップスではない。おそらくおまけについてくるプロ野球選手の写真付きカードがメインだ。
そういえばあたしが子供の頃にもあったような気がする。
クラスの男の子たちが夢中になって集めていた。そんなに興味もなかったからはっきりした記憶ではない。それよりも少し前に読んだ『博士の愛した数式』という小説に選手カードが出てきていたのが記憶が新しい。
この物語はとても優しい話だった。
決まった時間が来てしまうと記憶がリセットし、すべてを忘れてしまう『博士』と、家政婦である主人公の『わたし』そして主人公の小学生の息子が繰り広げる物語である。
お互いがお互いのことを気遣いあい彼らは日々を過ごしていく。そしてその日常の中に野球がある。
ある日、『博士』の好きな江夏という選手のカードを入手して『博士』に喜んでもらおうと思い
プレゼントしようとするために主人公とその息子が日常生活を送りつつもいろんなところを奔走する。
あたしは野球のことは良く知らないので、『博士の愛した数式』に出てきたカードか……なんて思いながらカードを眺めて100円ショップで購入したカードホルダーに入れていったら……気が付いたらカードホルダーが3冊分ぐらいたまってしまったというわけだ。
コップに注いだ冷たいビールを一口飲んで、テーブルに広げたカードホルダーをめくりながら、あたしは選手カードを一枚一枚眺めた。
それにしてもこんなものを集める人がいるのだろうか。
いや……いるから売っているのだろうし、小説の題材にもなるのだろう。
どのカードを見ても知らない選手ばかりだし、2019年シーズンホームラン王とか書いてあってもあたしからしたら『なんのこっちゃ?』という感じだ。
ホームラン王はまだ分かるのだが、打点王とか首位打者とか……そういうタイトルがなんなのかも分からない。まあ、要はよく打ってるということなんだろう。
ピッチャーの方も最多勝利とかはなんとなく分かるのだが、何をどうしたら勝ち投手になれるのか分からないし、ホールドとかセーブとか余計に分からない。
防御率?
なんだそれ??
これ。
野球知っている人は見てて飽きないんだろうな。
ただあたしにはこんなものあっても何の感動もない。
あえてほしいとすれば『博士の愛した数式』で、何度も出てくる江夏という選手のカードならちょっと興味がある。
誰か喜ぶ人がいればいいのだが……周りに小さな男の子はいないし……
う――ん。
考えが煮詰まったところで玄関のチャイムが鳴る。
ふと我に返るとあたしは壁の前に立っていた。
久しぶりにやらかしてしまったらしい。
そういえばこのカード……。
夕凪ちゃんのお友達でほしい子はいないのかな?




