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隣の二階堂さん  作者: 阪上克利


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バイクの運転は大変なのか否か

 隣の二階堂さんには変な癖がある。

 考え事をして煮詰まってくると部屋の壁を叩くのだ。

 最初はびっくりしたけど、変な癖だと知ってからは何も怖くはない。

 今日は少し帰宅が遅かったようだ。残業でもしたのかな?


 どんどんどんどん…


 今夜も壁を叩く音がする。

 時計は20時を回っているが寝る時間までまだ1時間あることを知っている4歳の夕凪(ゆうな)は、歯磨きもせずにこの瞬間を待ったいたようだ。

 あたしは夕凪(ゆうな)に言った。

『お姉ちゃん、呼んできてくれる? 少し遅いけどお茶でもしませんかって』



 ――――――――――



 満員電車での通勤が嫌なのでスクーターを購入しようと思ったのだけど、風邪を引いたりあれこれしている間にあっという間に1週間が経ってしまった。

 こんなことをしていたらいつになったら購入できるか分からない。

 思い立ったが吉日という言葉もあるように、あたしも母や姉のあの行動力を見倣って行動することにした。


 いろいろ考えたのだが、結局50ccでは遠出には使えないし、楽しみも少なかろうという結論に達して、二輪の免許を取ることにした。言う必要もないので誰にも言っていないのだが、言ったとしても反対されるのがオチなので、極力誰にも言わないように注意している。


 会社帰りに教習所に寄って教習を受けてから帰る。だから今日は家につくのは20時ぐらいになるだろう。


 夜道をとぼとぼと帰途に就くのはちょっと寂しいが、それもこれも免許がとれるまでの我慢である。

 それに貯金をはたいてどんなスクーターを買おうかとワクワクしながらカタログを眺める時間も楽しい。さすがにギア付きの本格的なバイクに乗ろうとは思わないが、少し大きめのスクーターならこんなあたしでも乗りこなせそうな気もするし、ちょっとどこかに行くのでも気楽に使えそうだ。


 そんなこんなで今日が初めての教習だったのだが、これが思ったより大変だった。

 というのも地面に倒してある400ccのバイクを起き上がらせなければならないからだ。

 あれもコツがあるらしい。

 ハンドルを左に切って、前輪が動く力を利用しながら持ち上げると良いらしい。ただ、それにしたってあの重いバイクを起き上がらせるにはそれなりに力がいる。

 あたしのようなチビにそんな力があるわけもない。

 苦労してバイクを起き上がらせたときには、夏の暑い時期ということもあり、汗が玉のように額を伝っていくのが分かった。


 よく考えてみれば、大きなスクーターに乗りたいと言っても400ccのバイクを所持したいわけではなく、100cc程度のものでいいのだから、中型二輪の免許でなくても良かったのだ。


 一体、あたしは何を考えていたのだろう……。


 晩御飯を作るのが面倒なので、自宅近くのスーパーでビールとお惣菜をいくつか購入して、あたしは自宅に着いた。アパートの玄関を開けてすぐに電気をつける。暗い室内が一気に明るくなる。

 できれば暗くなる前に家に帰りたいのだが、まあ、しばらくはそういうわけにも行かないだろう。


 汗が気持ち悪いのですぐにお風呂に入ることにした。

 今日は本当に疲れた。

 明日はもしかしたら筋肉痛かもしれない。

 シャワーを浴びてぬるいお湯を追い炊きしながらゆっくり入り、湯舟のなかで大きなため息をついた。


 大は小を兼ねる……

 確か、申し込んだ時はそう思ったんだっけ。

 少し大きめのスクーターならこんなあたしでも乗りこなせそうな気もする、というのは少し甘い考えだったのかもしれない。


 もうちょっとよく考えればよかったなあ。


 てゆうか小型二輪の免許でもバイクを起こすのはやるんだろうから、やっぱり大変には大変なのかもしれない。そもそも何かをやろうとすればそれなりに壁にぶつかるのは当たり前のことなのだ。


 ちょっと大げさかもしれないが歩きやすい安易な道など人生においてはないのだろう。

 バイクの免許においてもそうだ。バイクが重くて扱いづらいからと言って安易に小さな排気量のバイクにすればいいというものではない。

 これは人に勧められたわけでもなんでもなく自分で選んだことなのだ。


 あたしはお風呂から上がり部屋着に着替えた。

 エアコンで部屋の中を冷たくしておいたので湯上りの身体にはとても心地が良い。

 すぐに冷蔵庫を開けてビールを取り出す。コップに注いで飲む。

 暑い日のビールは誰からも頼まれていないのに一気飲みしてしまう。

 本当に悪い癖だ。


『あ――――っ!美味しいっ!!!』


 誰もいないのに大きな声で言ってしまう。

 まあ、これは仕方のないことだろう。


 それにしても大変だった。

 重かったし、しんどかった。ようやくバイクを起き上がらせて走り出させても、走行中バイクを安定させるのには結構な力とバランス感覚が必要だった。


 辞めよかな……。


 う――ん……。

 でも大きなバイクに乗ることが出来たら、いつもとは違う風景が見れるかもしれない。

 鎌倉の海岸沿いをバイクで走るのも気持ちが良さそうだ。


 それに……良いものも見つけたのだ。


 煮詰まったところで玄関のチャイムが鳴った。


 どうやらあたしはまたやってしまったらしい。

 教習所近くには美味しそうな洋菓子屋がある。

 そう。

 あたしは良いものを見つけてしまったのだ。

 今度はそこでモンブランを購入してお隣に持っていくことにしよう。

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