プランタには花を植えるべきなのか否か
隣の二階堂さんには変な癖がある。
考え事をして煮詰まってくると部屋の壁を叩くのだ。
最初はびっくりしたけど、変な癖だと知ってからは何も怖くはない。
先週は実家のお母さんがやってきて挨拶をしてくれた。
『隣の二階堂です』という言い方が、なんかそっくりで、外見はさほど彼女とは似ていないのだけど、ちょっと風変わりなところなんか、やっぱり親子なんだなと不思議に納得してしまった。
夕凪もあたしみたいになるのだろうか?
どんどんどんどん…
壁を叩く音がする。
調子が良くなったのかな?
夕凪がこちらを向いてニコリと笑う。この一週間は二階堂さんに会えずに残念な顔をしていたからなあ。
甘いもののストックもあるし、久しぶりにお茶にでも誘おう。
あたしは夕凪に言った。
『お姉ちゃん、呼んできてくれる?甘いものでもいかがですかって。』
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この週末は忙しかった。
先週は風邪を引いてしまい、ずっと寝込んでいた。
一週間まるまる会社も休んだので、忙しいというのは少し変な話なのだが……気まぐれな母がサザンオールスターズに影響されて大分から出てきたというのに、5日も看病させてしまったので、良くなった土曜日には感謝の気持ちもこめて一緒に鎌倉に行ってきたのだ。
母は、お隣にも挨拶をしたらしい。
あたしが寝込んでいる間にお隣に行き、手作りの紅生姜を持って挨拶したとのこと。
春海ちゃんが言うには……『隣の二階堂です』という言い方がそっくりで最初、母とは思わなかったそうだ。
たしかに声色は若干似てはいるが……あの母のことだ。面白がってあたしの物真似をしたに違いない。
それに母と思わなかったのはあの外見にもその要因はあるだろう。
背がすらりと高く、足が長い。
身長は175㎝ぐらいだから、あたしなんか見上げる感じになってしまう。
そんでもってぴったりしたジーンズが似合うぐらいにスリムなものだからモデルかなんかと間違われるのだ。
顔もしわ一つない。
はっきり言って魔女である。
いや、本当は大分の農家のおばちゃんなのだが……。
さて……母も無事に大分に帰り、あたしは月曜日の出勤を無事に終えた。
仕事がたまる……ということはなく、後輩の葉山ちゃんがうまいことやってくれたおかげで助かった。
仕事にしてもプライベートにしても、あたしは一人が好きなのだが、それでも一人では何もできないことはよく分かるので人への感謝を忘れないようにしなければ……と常々思っている。
だから、今度、葉山ちゃんにはなんか奢らないと……と思っているのだが、いつにしようか……。
夕空を見ながらゆっくり歩いて帰宅したのはちょうど一週間ぶりだった。
日常がこんなにありがたいものだったと気づいたのは風邪を引いて死にそうなぐらいしんどかったからだろうか。
スーパーに寄って買い物をしようと思ったら、入口のところにプランタと苗が売っていた。
母と姉にマリーゴールドの件でバカにされたのはちょっと悔しかったので、あたしはプランタを購入して何かを植えることにした。
少しかさばる空のプランタを抱えてあたしは自宅のアパートまで歩いた。
夏の暑さは夕方になれば少しは和らぐがそれでも暑いものは暑い。
アパートの玄関を開けて真っ先にやるのは、部屋のエアコンをつけることだ。
ほんの一週間前まで母と姉がいて、わいわい何かを話していたと思うと、静かな部屋がやたらさみしく思える。
あたしは部屋に空のプランタをおいて考えた。
買ってきたのはいいが何を植えようか。
特に好きな花などないし……
マリーゴールドは好きだけど、あれが増えると母と姉に笑われてしまう。
それだけは絶対に避けたい。
今度は何にも影響を受けずにあたしだけのオリジナルのインスピレーションでここに何かを植えて、ベランダを華やかにしたい。
う――ん……
どうしようかな――。
考えが煮詰まったところで玄関のチャイムが鳴る。
あたしは我に返った。気が付けば壁の前に立っていた。
どうやらあたしはまたやらかしてしまったらしい。
あ!そうだ。
あの二人にも相談してみよう。




