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隣の二階堂さん  作者: 阪上克利


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家族と言うものは似てきてしまうものなのか否か

 遠くでテレビの音が聞こえる。

 ご飯の炊けるのと、甘い玉子焼きの香りがする。

 ゆっくり目を開けるといつもの天井が見える。

 身体の感覚が戻ってくる。

 眩暈はないようだし、熱も下がったようだ。

 寝汗をかいたみたいで気持ちが悪い。


『お、起きたか。朝ごはん食べる?』


 目の前に母の顔が現れた。


『食欲ない……ごめん』

『おかゆ作ってあげるからそれだけでも食べなさい』

『うん……』


 あたしはゆっくりベッドから起き上がった。少しふらつくけど、昨日の晩よりははるかに調子がいい。


『シャワー浴びてきていい?』


 ただ相変わらず声は母と同じハスキーな声だ。

 気が付けば姉はいない。時計を確認すると10時を過ぎているのですでに出かけたのだろう。


『いいよ。その間に作っとくから』


 母は台所で何やら料理をしている。外見からすれば外食ばかりしているように見える母だが、実は家庭的で料理も得意だ。気まぐれで風変りな母だが、主婦としてはかなり有能である。


 シャワーを浴びて身体を拭いて新しい部屋着に着替える。

 洗濯物がさぞたまったんだろうなあ……と思ってたら、どうやら姉がやってくれた様子だ。というのも柔軟剤の香りが姉のものと同じだからだ。そんな面倒なことをせずとも、うちにあるものを使えばいいようなものだが、こういうこだわりをどこでも貫くのは姉らしいといえば姉らしい。

 このフローラルなバラの香りは、あたしはそんなに好きではないが、それでも清潔な部屋着を着れるのは気分が良い。いつもは面倒な姉だが今回ばかりは感謝しかない。


 たぶん、洗濯洗剤が入っている場所に姉が好きな柔軟剤が入っているに違いない。

 そう思って棚を覗いたら、やっぱり置いてあった。

 おもわず笑いそうになる。

 分かりやすい姉だ。

 たぶん、元気になった折には『あたしのこだわってる柔軟剤、いい匂いだったでしょ』と言ってくるに違いない。


 浴室から部屋に戻ると、おかゆの匂いがする。

 汗を流してすっきりしたら、食欲も出てきた。

 食卓を見るとあたしのおかゆ以外にも、焼きナスとかサラダとか、玉子焼き、それにお味噌汁まであった。さすが母である。

 てゆうか……よく考えてみたら……


『あ!!会社!!!!』


 のんびりシャワーなど浴びている暇はなかった。

 あたしは違う意味で青くなったが母は平然としてあたしに言った。


『ああ、電話しといたよ』

『え?』

『すみません……ちょっと風邪がまだ良くならないみたいで……』

 母はあたしの真似をして言った。

 口惜しいけど気持ち悪いぐらい似てる……。

『まさかあたしの真似して??』

『まさか! ちゃんと母親だって言って伝えたわよ』

『ああ……そうなの。てゆうか洒落にならない冗談やめてよ』

『はははは! そこまで元気になったんなら良かった』


 母の豪快な高笑いにあたしは安心して食卓に着いた。何がともあれ無断欠勤になっていないなら何よりだ。


『で……それどころじゃないから聞き忘れてたけど、なんでまた急に来たの?』

『ああ、実はさ。お見合いの話があってね』

『やだ。断って』

『はや! 即答かい!』

『だって結婚したくないんだもん。姉ちゃんに持っていけばいいじゃん』

『麗奈はダメに決まってるじゃん。恋愛したい人なんだから』

『姉ちゃんとあたしだったらまだ姉ちゃんの方が見込みあると思うけどなあ』

『麗奈も同じこと言ってた……てゆうか、冗談だから忘れて』


 ここまで話を引っ張っておいて冗談とは……母は相変わらずだ。


『母ちゃんさ……もう離婚しようと思って……』

 深刻な顔をして母は言った。

『もういいから、冗談は』

『あは! 分かっちゃった?』

『分かるに決まってんじゃん』

『いや、来た理由ってほどじゃなんだけどさ。観光したくて来たのよ』

『観光?』

『そう。観光。江の島とか鎌倉とか……稲村ジェーンとか……』


 なるほど。

 どうせサザンオールスターズでも聞いたのだろう。

 きっと母のこういうところは姉に引き継がれたのだ。こうやってすぐに影響を受けるところ。

 それにしても大分から横浜まで来てしまうのだから……この行動力はすごいとしか言いようがない。


『サザンでも聞いたの? すぐに影響されるんだから……』

 あたしは心底あきれて言った。

『……咲菜。あんた人のこと言えるの?』

『え? あたしはそんな音楽聞いて分かりやすく影響されないよ』

『ふうん。麗奈と話した通りの反応だね』

 なんだ?

 あたしが寝込んでいる間に何の話をしたんだ?この親子は。


『ベランダを見た……と言えば分かるでしょ』

 母はにやにやしながら言った。


 しまった!

 ベランダのマリーゴールドを見られたのか。

 我ながら単純な人間だなと思いつつも購入したマリーゴールドだけど、黄色やオレンジの可愛い花がお気に入りではある。

 確かに歌の影響を受けたといえばその通りだ。


 う――ん……

 まあちょっと遺憾ではあるものの……例外なくあたしも母や姉に似ているのだな。


 身体が良くなるころには土曜日だろうから、母の観光に付き合ってあげることにしよう。

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