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隣の二階堂さん  作者: 阪上克利


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77/201

真夜中に具合が悪くなると子供の頃を思い出すのか否か

 ゆっくりと意識が引き戻されていく感じがする。


 ああ……目が覚める。

 身体は相変わらず重い。

 たぶん、目を開けてもまだ朝ではないだろう。

 意識が戻ると同時にゆっくり自分の身体の調子の悪さも自覚していく。

 できれば起きたくない。

 と……思いながらも仕方なく目を開ける。


 暗い。

 真夜中なんだろうか。

 目が暗さに慣れると見えてくるのはいつもの部屋の天井。


 これを見ながらいつもいろんなこと考えてるんだっけなあ。


 妙なことを考えてしまう。

 同時に意識がはっきりしてくると何か嫌な感じがするのが分かる。


 そう。

 今朝と同じ感じ。

 景色がぐるぐる回るのだ。

 熱が出てるのだろう。


 人間の身体は不思議なもので深夜に悪くなるようにできているらしい。そのメカニズムはよく分からないが、風邪を引いて調子が良くなったと思っても夜になったら熱が出てぶり返すということはよくある話である。


 眩暈が落ち着いたらゆっくり起き上がって病院でもらった薬を飲もう……。


 そう思ってベッドで身を固くしてじっとしている。

 でも景色がぐるぐる回るから、ベッドから落ちそうになる。

 実際には落ちないのだろうけど、ぐるぐる回るからベッドの縁をぎゅっとつかんでいる。

 汗が出ているのが分かる。着替えたいけどこんな状態ではそれどころではない。


 眩暈が止まらないのは本当に怖い。

 ぐるぐる回る景色にとらわれていつしか自分は消えていなくなってしまうかもしれないなんて思ってしまうからだ。

 怖さをこらえながら……暗闇の中であたしはつぶやいた。


『……まいったなあ……』


 本当はもっと大きな声で『助けて!』と叫びたかった。

 でも理性がそれを許さず、自分は平気だと思い込んでしまっている自分が他にいる。子供の頃はもっと素直だったはずなのに、大人になると厄介なものだ。


 いきなり電気がついた。

 急に明るくなったから目がくらんだ。


『起きてるの?』

 懐かしいハスキーボイス。

 今はあたしも同じ声になっている。

 そういえば母がいたんだっけ。そして姉もいたんだっけ。


 苦しいのであたしは母の方を見て首を縦に振る。

 相変わらず景色がぐるぐる回っているから、視線を合わせられない。

『酷そうだね。薬持ってきてあげるよ』

 なんだかんだやはり母である。いくつになっても親子という関係は変わらない。そういえばあたしだって独身ではあるものの、赤ちゃんの頃を知っている隣の夕凪(ゆうな)ちゃんは、いくら大きくなろうとも子供の頃のイメージのままだろう。これが母親ともなるともっと強い感情になるのかもしれない。


 母が薬を持ってきてくれたのであたしは無事に薬を飲むことができた。

 朝になってもう少し調子が良くなればいいなあ……と思いながら天井を見つめた。


『電気、消すよ。麗奈が起きちゃうから』


 この感じ。

 すごく懐かしい。

 子供の頃に戻ったみたいだ。

 熱を出すと母は優しかった。でも姉のことも気遣っていた。

 子供の頃は何かあるたびに『姉ちゃんだけずるい』と言って大泣きしたことがあった。

 大人になった今ははっきりわかるのだけど、母からすれば姉もあたしも娘であり、どちらの方が可愛いということはない。どちらも可愛いのだ。

 世間にはそうでない親もいるのかもしれないけど、少なくとも母に関してはそうだと言い切れる。


『うん。ありがと。おやすみ』

 明かりが消えて周りが暗くなる。


 ゆっくりと眩暈が収まるのが分かる。

 薬を飲んだという安心感からか、ちょっと調子が良くなったような気がする。

 たぶん、気のせいだとは思うが、あながち『病は気から』という言葉は嘘ではないのかもしれない。


 目をつぶると意識が落ちていくのが分かった。

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