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隣の二階堂さん  作者: 阪上克利


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ロミオとジュリエットでも喧嘩をするのか否か

 隣の二階堂さんには変な癖がある。

 考え事をして煮詰まってくると部屋の壁を叩くのだ。

 最初はびっくりしたけど、変な癖だと知ってからは何も怖くはない。

 最近では彼女が何かに煮詰まってきている時に自宅に招くことをあたしも夕凪(ゆうな)も楽しみにしている。


 どんどんどんどん…


 今夜も壁を叩く音がする。

 4歳になった夕凪(ゆうな)はあたしを見る。

 あたしは夕凪(ゆうな)に言った。

『お姉ちゃん、呼んできてくれる? 夕飯でもいかがですかって。』



 ――――――――――



 今日はめずらしく残業した。

 くだらなくて長い会議があったからだ。あたしなんかが同席していても何の意味もない会議である。

 発言は求められないし、発言したところで意見が通るとも思えない。

 そもそも何の会議なのかもよく把握していない。

 たぶん、売り上げと製造ラインの確保に関する会議で営業と製造が火花を散らして何か議論していた。

 いつも仲良く一緒に飲みに行く石岡くんは営業、松沢さんは製造。

 おお!

 よく考えてみればロミオとジュリエットのようだ。


 いっそ会議を抜け出して駆け落ちでもしてくれないかな、と勝手にあたしは盛り上がっていたのだけど、意外なことにこの二人は仕事熱心で、がんがん意見を出して発言しまくり火花を散らしていた。


 じゃあさ。

 もう営業と製造だけで会議すればいいじゃん。

 備品の関係などで総務も関係があるのは分かるけど、そういうことに関しては総務の主任が聞いていればいいわけだし、あたしのような末端の女子社員は関係ないじゃん。

 早く帰らせてほしい。


 いや――本当に疲れた。

 すっかり空は暗くなっている。

 あたしは仕事帰り、夏色の空を眺めながら帰るのが好きなのだ。

 だから今日は見れなかった。どうしてくれるんだ。


『あーあ……』

 がっかりしながらあたしはアパートの玄関を開けて部屋に入った。

 疲れたので着替えもせずにベッドに横になる。天井を見上げながら今日一日を振り返ってみる。

 もう疲れて頭が回らない。


 とにかく午後からの会議が長かった。


 14時から16時までの2時間ということだったので安心して参加したのに終わったのは18時だ。

 なんで時間が守れないのだ。こんなあたしだって始業時刻の9時には会社に到着してちゃんと仕事を始めているのではないか。始まりの時間はちゃんと守るのに終わりの時間は守れないのか?


 それによく言われるのが15分前行動である。

 要は出勤時に何かあってもいいように15分前ぐらいには出勤しておくというものだ。

 確かに途中で何かのトラブルに巻き込まれないとも限らないから、余裕を持った行動は大事だ。

 ただ15分前に来い、というなら15分だけ多くお金をくれるべきではないか。だってそれはもう仕事なのだから。9時スタートなら9時に出勤すればいいのだ。


 15分前に着くようにするというのはあくまで個人の心構えの部分であり、そんなものを強要するものではない。


 こうやって考えると日本人は時間をしっかり守るようでいて、実はルーズである。

 暗黙のルールが多すぎるのだ。ちゃんと最初からルールを透明化して誰の目にも明らかにしておけば新入社員が戸惑うこともないし、あたしがこんなに不満に感じることもないのだ。


 あ……そういえば面倒なことがもう一つ。


『二階堂ちゃん、今日、飲みにいこ!』

 松沢さんは明らかに怒っている。

 嫌だなあ。

 めんどくさいなあ。

 そう思ってたら、あたしの背後で石岡くんが営業の誰かと飲みに行く約束をしている。

『石岡くん』

 あたしが石岡くんを呼ぶと……珍しくしかめっ面して彼はやってきた。

 呼ばれたから仕方なくきたという感じだった。

 そんな石岡くんを一瞥すると松沢さんは彼に聞こえるように少し大きめな声で言った。

『いいよ。二階堂ちゃん、あたし営業の回し者とは飲みたくない!』

『ボクも今日は営業の人と飲みに行くんで』

 なんとまあ……とげのある言い回しだ。

『てゆうか、あんなペースじゃ良いものは作れませんからね!』

『だから悪いものを作れといってるんじゃない! 少し質を落としても安価なものが喜ばれると言ってるんだ!』

『見くびらないでよ! 質なんか絶対に落とさないんだから!』

 どうでもいいが……あたしを真ん中に言い合いするのは本当に辞めてもらいたい。

 もう会議は終わったのだ。

 てゆうかこの二人が言い合いをしていると……話の内容は仕事のことでも痴話喧嘩にしか聞こえない。


 結局……石岡くんは営業の人たちと……松沢さんは製造の人たちと呑みに行った。


 もうとにかく会議であれ……痴話喧嘩であれ……あたしのいないところでやればいいではないか。巻き込まないでほしい。

 あたしは静かに暮らしたいのだ。

 なぜあたしの周りにはこうも騒がしい出来事がついて回るのだろうか……


 う――ん……

 考えが煮詰まったところで玄関のチャイムが鳴る。


 あたしは我に返った。気が付けば壁の前に立っていた。


 どうやらあたしはまたやらかしてしまったらしい。

 よく考えてみると静かに暮らしたいあたしが一番騒がしいのかもしれない。

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