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隣の二階堂さん  作者: 阪上克利


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相手が興味のない話を一方的にするのは何か意図あるのか否か

 月曜日の仕事はかったるい。

 ランチを食べたら眠くなる……ということもあって本当にかったるい。


 休日から平日へと脳内を変換し、仕事モードにしなければいけないのだけど、どうやらあたしはそういう変化に弱いらしく、月曜日が苦手である。何をやってもピリッとしないし、下手をするとくだらないミスばかりしている。

 そして最近では新人の葉山ちゃんにまで『大丈夫ですか? 二階堂さん』と心配される始末である。


 へまばかりしているとみんなに迷惑をかけるので、そんな時はしおらしい顔をして、落ち込んでいるようなふりでもしつつ、相談室にいくことにしている。


 3日に1回ぐらいの割合であたしは相談室を利用する。

 さぼりに使わせてもらっているわけだが、おおっぴらにさぼりというわけには行かないし……一応、相談室なので相談を持ち込むようにしている。

 月曜日に相談室を利用する理由は主に『かったるい』という理由が一番多い。悩みの内容はいちいち考えていないのだが、『あのお……気持ちがちょっと』とか言って黙っていると心音さんの一方的な話が始まるのだ。

 まあ……気持ちがちょっと……というのは嘘ではない。


 気持ちがちょっと仕事に向かないのだ。

 要はやる気が出ないということだ。


 最初のうちは心音さんもあたしの話を聞きだして悩みの相談をしようとしてくれていたのだが、あたしに悩みなどなく、ただ単にさぼりに来ていることが分かったのだろう。そんな感じで、いつしか……黙っていると心音さんの話が始まるようになったのだ。

 何とも言えないが……あたしのさぼりを利用して心音さんもうまくさぼっているのかもしれない。


 相手の分からない話を一方的に楽しそうに話すという点では、心音さんもうちの狂った姉に近いものがある。


 聞かされている方はまったくもって興味のない話だから、正直しんどいっちゃしんどいのだけど、心音さんの話は姉の話よりは一方的ではないし、姉とは違い、こちらにも話す余裕も与えてくれているので、月曜日の仕事と天秤をかけて考えるなら間違いなく心音さんの訳の分からない話を聞いている方が楽しい。


 まあ……そもそもだ。

 月曜日など、休日の怠けた心と身体を、平日の空気に慣らすために、全力で仕事をしてはいけない日なのだ。いきなり全力で仕事をすると絶対に身体に悪い。

 車だっていきなり走らすのではなく少しエンジンをかけて暖気運転するではないか。

 アスリートだって身体を動かす際はきっちりアップして身体を温めてからプレーするではないか。

 そうでないと車なら壊れてしまうし、アスリートなら怪我につながる。

 だから月曜日にいきなり全力で仕事をすることなど、愚かであるとしかいいようがない。

 あたしは平日の空気に慣れるために相談室に行っているのだ。


 断じてさぼりではない。

 長く……効率よく……仕事をするために必要なことなのだ。


『あの……月曜日になるとその……』

 相談室に入り、椅子に座るように勧められると、開口一番あたしは煮え切らない感じで話し出す。

『そうなのよねえ……あたしも月曜日はね――。気持ちがちょっとねえ』

『心音さんでもそうなんですか?』

『だって月曜日って試合がないでしょ。昨日嫌な負け方したからなあ。もう気分は最悪よ』


 何の話をしているのかまったくよく分からないが、まあ、たぶん野球の話だろう。

 あたしはこうやって話をされたのが初めてではないので、すぐに彼女が野球の話をしていることが分かるのだが、いきなりこう言われたら何の話か分からないのだろうと思う。


 たぶん彼女はあたし以外にはこんな話はしない。

 あたしがさぼりで相談室に来ているということがはっきりしているからこんな話をするのだ。

 いや……てゆうか……断じてさぼりではない。

 仕事を効率的に行うために必要な行動なのだ。


『昨日ですか?』

『そう。昨日。結局いつものパターンなのよねえ。点が取れなくて負けるパターン。まあね。打てないのはいいのよ。もう分かっているから。5年ぐらい前に新井のお兄ちゃんがカープに帰ったぐらいから打てなくなったんだもんね。だからせめて守備はちゃんとしてほしいわけ。エラーが多いのよ』


 え――と……

 点がとれない? 

 なにが?

 エラーが多いって?

 新井のお兄ちゃんって誰だ??


 いろいろ聞きたいことはあるが、さらに面倒なことになりそうなので、あたしは何も聞かないことにする。彼女はそんなあたしにお構いなく話を続ける。


『打てないと言っても大山は4番から外さないでほしいのよね。結局チームの中では一番打ってるわけだし』

『そうですね……』

『ほら。阪神ファンって勝手でしょ。ネットなんか見ると勝てなくなるすぐに誰かのせいにしたがるのよねえ』

『確かにその傾向にありますよねえ』

『なんだかんだ、4番は我慢して使わないと』

『あたしもそう思います』


 言っておくがあたしは心音さんが何の話をしているのか全く分かっていない。

 姉の相手をしているとこういうことがうまくなるのだ。こうやって訳の分からない話を猛牛の突進を華麗にかわす闘牛士のように聞き流しているうちにあたしの頭はしゃっきっとしてくる。


『明日からお得意の横浜スタジアムだし、なんとかここで勢いに乗ってもらいたいところよね』

『そうですね』

『本当に月曜日は気分が乗らないわ。二階堂さんの悩みもそんなところでしょ』


 まあ……心音さんとはちょっと悩みの質は違うが、あたしが月曜日に気分が乗らないのもそんなところである。全然関係ない話をしているように見えて実はすべて見透かれているのだろうか。

 相談室の扉をノックする前のかったるさは今はない。


 さすがは『相談室の心音さん』だ。

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