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隣の二階堂さん  作者: 阪上克利


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有名人に似ているのは得するのか否か

 隣の二階堂さんには変な癖がある。

 考え事をして煮詰まってくると部屋の壁を叩くのだ。

 最初はびっくりしたけど、変な癖だと知ってからは何も怖くはない。

 最近では彼女が何かに煮詰まってきている時にお茶を誘うことをあたしも夕凪(ゆうな)も楽しみにしている。


 どんどんどんどん……


 今夜も壁を叩く音がする。

 4歳になった夕凪(ゆうな)はあたしを見る。

 あたしは夕凪(ゆうな)に言った。

『お姉ちゃん、呼んできてくれる? お部屋でお茶でもしましょうって。』



 ――――――――――



 仕事から帰ってきて、お風呂に入ってから簡単な食事とビールを楽しんで、部屋の中で一人、ぼんやりする時間があたしは好きだ。


 今日もいろんなことがあった……。


 そういえば……

 よく、ある女優さんに似てると言われる。


 誉め言葉なんだか単にからかわれているのかは分からないが嬉しくはない。

 『すごい似てる』とか『そっくり』とかではないのだ。

 『強いて言えば似てる』ぐらいのレベルで言われることが多いからだ。


 強いて言えば似てる……

 もうそれは似てないということではないか。

 しかもその女優さん。芸名なのか本名なのか知らないけど、苗字が『二階堂』なのだ。

 こうなると似てるのは苗字だけではないかとつっこみたくもなる。


 会社でランチしている時にそんな話になった。


『二階堂さんって、ちょっとあの女優さんに似てるよね』

『そうかな?』


 そうかな?と反応したのは気を使ったのである。場の空気を悪くしないためにあたしなりに気を使っているのである。本音を言えば『似てない』とバッサリ斬り捨てたいところなのだ。

 女優さんは女優さんだけあってすごく美人だが、あたしはどこにでもいるような20代の女だ。そしてちょっと変わっているのはもう自覚している。さらには考え事をすると壁を叩いてしまうという悪癖までついている。

 比較することなどあってはならない。

 女優の二階堂さんにも失礼な話だ。


『あ、本当だ。目元とか似てる!』

 と石岡くんが言った。


『あ、本当だ』と言ったのだから今気づいたわけだよね。

 すでに2年以上も同じ会社で働いてて、そこそこ仲良くしているのになんで今更そんなことに気づくわけ? 

 おかしいでしょ。

 それに『目元とか』ってなんだ?

 目元とどこが似てるんだ。

 てゆうか、目元とかが似てるというのは要するに『似てない』ってことでしょ。


『目元が似てるの? てゆうか二重の人ならみんな似てるんじゃ……』

『いや……ほらそれはその全体的にってゆうか……』


 石岡くんはあたしの言葉に困って慌てて一緒にいた松沢さんに助けを求めた。

 なるほど。

 松沢さんの気を引こうと思ってあたしをだしに使ったわけか。

 まあ……あたしのことを女優の二階堂さんに似てると言ったのは松沢さんなわけだし……。


『同じ二階堂さんだしね』

 石岡くんに助けを求められた松沢さんはさらっと言い放った。


 潔いフォローだ。

 あたしは『……そ、そうだね』としか言えなかった。

 松沢さんの言葉には裏はないし悪意もまったく感じられないのだが、少々知性が少ないように思える。

 彼女自身がだれか美人の有名人に少しでも似ていると言われたら喜ぶタイプだからだろう。


 あたしは違うんだよなあ。

 誰かに似てても仕方ない。自分は自分であって、いくら似ていても女優にはなれないのだから。

 てゆうかそもそも名前以外はそんなに似ていないと思うし。

 苗字が一緒ということで似てると言われるぐらいなら改名したいぐらいだ。


 実はこんな時だけ結婚の必要性を感じてしまう。


 あたしの苗字が二階堂ではなく、鈴木とか斎藤とかよくある名前ならこんなことを言われることも少ないだろう。

 名前との相性もいい。

 二階堂咲菜(さな)より、鈴木咲菜とか……斎藤咲菜の方が語呂も良さそうだ。


 まあ、そんなことで結婚するなんて愚かであることは冷静に考えなくても分かることではある。

 それにしても有名人に似ていると言われるのはそんなに嬉しいことなのか?


 う――ん……


 考えが煮詰まったところで玄関のチャイムが鳴る。

 あたしは我に返った。気が付けば壁の前に立っていた。


 う……いつの間に……


 どうやらあたしはまたやらかしてしまったらしい。

 玄関を開けると夕凪(ゆうな)ちゃんがいた。彼女は誰にも似ていないけどとてもかわいい。これが本当の個性というものだろう。

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