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隣の二階堂さん  作者: 阪上克利


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女子はないものねだりをするものなのか否か

 隣の二階堂さんには変な癖がある。

 考え事をして煮詰まってくると部屋の壁を叩くのだ。

 最初はびっくりしたけど、変な癖だと知ってからは何も怖くはない。

 最近では彼女が何かに煮詰まってきている時にお茶を誘うことをあたしも夕凪(ゆうな)も楽しみにしている。


 どんどんどんどん…


 今夜も壁を叩く音がする。

 4歳になった夕凪(ゆうな)はあたしを見る。

 あたしは夕凪(ゆうな)に言った。

『お姉ちゃん、呼んできてくれる?お部屋でお茶でもしましょうって。』



 --------------



 ファッション雑誌に目を通すことはあまりしないが、たまにはやっておかないと自分の感覚がずれていることもあるので、月に1回ぐらいは最近の流行(はやり)を確認するようにしている。


 会社帰りにファッション雑誌を購入しておいたのでベッドに寝転んでコーヒーでも飲みながらページを眺めるのが楽しみだ。

 これがけっこうおもしろい。

 雑誌に出ているようなモデルさんはどの人も美人だから何を着てもキレイに見える。

 そこに騙されないように、自分に似合いそうなものを選択するのは、なかなかハードな間違い探しのようだ。とにかくモデルというのは背が高く足が長い。あたしのように『背の低い女子に似合うもの』という観点から考えるなら、当てはまらないものも少なくない。


 ただ……そういうことも雑誌の側ではちゃんと考えていて、背の低い女子用のコーナーが合ったりもするのだが、残念ながら果たしてこれはあたしに似合うのだろうか……というものがたくさん載っていたりする。


 見た目はとても大事である。

 何といっても人はまず見た目で判断する。ちゃんとした格好をしていれば、見た目だけで『この人はちゃんとした人』というイメージで見てくれるし、洒落た格好をしていれば『センスがいい』と見てくれる。人は見た目じゃなくて心が大事なんだと主張して、見た目に気を配らないような人は心の方もどうかしている場合の方が少なくないのだ。


 とはいうものの、外見を気にしすぎるというのもいかがなものかとあたしは思う。着るものというのは、周りが引くようなものでなく、自分が鏡を見ておかしくないと思うようなものをチョイスできればそれでいいのだ。

 そんなわけであたしは黒いワンピースやズボン、ブラウスなどをたくさん持っている。基本、黒なら大失敗はないからだ。

 『あんたはいつも黒ばかり選んでつまらない。センスないわねえ』と言われることが多いが、いつも無駄にリボンがたくさんついているフリフリのロリータファッションに身を包んでいる姉などには一番言われたくもないセリフであり『あんたこそ、そろそろ歳を考えろ』と言ってやりたい。


 それにしても背が低いというのは損することが多い。


 よく背が低いと可愛らしいとか言われるが、当の本人からすればなにも嬉しくはない。

 背が低いと可愛い……それはテレビに出ているアイドルの話であり、一般的な女には当てはまらないのだ。


 可愛い云々を抜きにしても、小さいというのはいろいろ不便である。


 まず車の運転をするときにクラッチペダルに足が届かず苦労することがある。

 何度それでエンストしたことか……。


 それから、高いところにあるものがとれない。

 実家にいるときに高いところにあるものを取ろうとするたびに転落してちょっとした怪我が絶えなかったというちょっとしたトラウマを抱えているあたしとしては、背が低くて良かったと思った事はない。


『あんたはどんくさいのよ』


 実家の母は容赦ない。

 てゆうか母にあたしの気持ちが分かるはずもない。

 そもそも実家の母は身長が高いのだ。

 足も長く、すらりとして、今でも50代後半とは思えないような体型をしている。都会をちゃんとした格好で歩けば誰もが振り返るだろう。残念ながらそんな母はいつも農作業用の格好をしており、あたしはそんな母を見るたびに……『宝の持ち腐れ』という言葉が頭をよぎる……。


 あたしと姉は背が低い。

 もうこれは完全に足の短い父に似たのだ。


『葉山ちゃんにはうちらの気持ちは分からないよ――』

 すねるようにランチの時に製造の松沢さんが言っていた。彼女はあたしと変わらないぐらい小さい。ぱっと見だが150㎝ちょっとぐらいしか身長しかないように見える。

 にもかかわらず、学生時代はバレーボールをやっていたらしい。


 葉山涼美はこの春に新卒採用で入社してきた総務の新人。あたしの2つ下。

 身長が160㎝をゆうに超える彼女はほっそりとして、肌も白く、リクルートスーツを着て仕事をする彼女はまるでモデルのようだ。世の中の『美人』という称号は彼女のような女性にこそふさわしいものだろう。


『いや……松沢さん。背が高いというのも悩みが深いんですよ。あたしは逆に小さい人にあこがれますよ』

『え?なんで??』

『だって、男の人と歩くとあたしの方が大きく見られちゃうじゃないですか』

『あ……そうか……』


 この女子トークにおいて『いや、だったら男の人と歩かなければいいじゃん』というあたしの意見は却下されたのは言うまでもない。この二人の身長に関するコンプレックスとあたしが持つコンプレックスはちょっと違うのだろうと思う。


 なるほど。確かに背が高いというのも不便なことはあるのかもしれない。

 葉山ちゃんは普段から何かしらに頭をぶつけている。


 いや……

 それは単に彼女がドジなだけか……


 う――ん……

 考えが煮詰まったところで玄関のチャイムが鳴る。

 あたしは我に返った。目の前には壁がある。

 

 ……いつの間に……


 どうやらあたしはまたやらかしてしまったらしい。

 今日はこのファッション雑誌を持って行って、最近の流行についてお隣にも聞いてみよう。


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