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隣の二階堂さん  作者: 阪上克利


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一人での食事は楽しいのか否か

 急におでんが食べたくなった。

 季節はまだそんな季節でもない。寒くて暖かいものがほしくなるような時期ではなく、むしろ朝顔とか向日葵が咲いている暑い毎日が続くのだが……。


 いつもは土曜日になると実家に帰るのだが、今日は帰らない。

 というのも、あたしが出勤することになったからだ。

 職場は夕凪(ゆうな)が生まれてからずっと働かせてもらっている高齢者向けのグループホームだが、今まで土日はお休みをもらっていた。併設の保育所がお休みだからだ。


 介護業界を取り巻く環境はいつも『人手不足』である。

 主任の川本さんはいつも頭を悩ませている。特に土曜日や日曜日に出勤してくれる職員が少ないのだ。

 正社員なら有無を言わさずシフトに組み込めるのだが、パートとなるとそういうわけにもいかない。そして職員の大半はパートさんなのだ。あたしが職場で川本さんを見かけるときはほとんどと言っていいぐらい、彼女はシフト表を持ってパートさんに頭を下げている。


 それで白羽の矢があたしに立ったのだ。


 だから両親にお願いして、夕凪(ゆうな)のお世話を見てもらうことにした。


 それにしても夕凪(ゆうな)を両親に預けることができるのは助かる。

 あたしは本当に恵まれている。

 周りはあたしを助けてくれる。両親は言うまでもないが、職場の人間関係も良好だ。あたしと同じようなシングルマザーの先輩からも可愛がられている。上司の川本さんも優しくていい人だ。

 住んでいるアパートの大家さんであるおじいさんは少し強面だけど、気さくないい人で女所帯のアパートの住民をいつも気遣ってくれている。

 隣に住んでいる二階堂さんは癖が強めだけど、子供が好きで、暇さえあればおしゃべりをする仲だ。


 この人間関係を幸せと呼ばずして何が幸せなのだろう。


 だからあたしは周りへの感謝の気持ちもこめて自分にできることはなんでもしようと思っている。

 それが今回は土曜日の出勤と相成ったわけだ。


 仕事自体は、いつもはやらない遅番のシフトでの仕事だったが、なかなか新鮮だった。

 夕凪(ゆうな)がもう少し手が離れたら、遅番の仕事もやってみようと思う。


 仕事が終わったのは20時を越えていた。

 夕凪(ゆうな)は実家でお泊りだから、あたしは一人で自宅に帰ることにした。

『泊っていけばいいのに』と母親には言われたが、職場から実家までは地味に遠いし、遅い時間に実家に帰るのも申し訳ない。下手をすれば夕凪(ゆうな)も寝ついているかもしれない。最近はなかなか寝てくれないので寝ついたところで起きてしまうとまた寝るまでに時間がかかる。

 だからあたしは仕事が終わった後は自宅に一人で帰ることにした。


 おでんが食べたいと思ったのは、晩御飯のことを考えながらバス停からアパートに向かって歩いている最中のことである。


 ちょうど、バス停からアパートの間の道の途中でいつも行く小さなスーパーがある。

 あたしはそこでおでんの材料を購入することにした。

 考えてみればおでんという食べ物は子供も食べられることのできる料理である。しかも具材を煮込んでおくだけというそこそこシンプルな料理なので実にありがたい料理だ。

 作る手間はまあ……かかるっちゃかかるけど、その分美味しいし、たくさん作っておけば2食か3食ぐらいは楽しめる。


 おでんがあれば帰ってきたとき、夕凪(ゆうな)も喜ぶだろう。


 そういえば一人で食事をするなんて初めてかもしれない。

 ちょっと楽しみだ。普段は夕凪(ゆうな)がいるからできないこともやってみたい……と悪戯心(いたずらごころ)に火がつく。

 スーパーで具材を購入する。最近はおでんセットなるものがあるから助かる。

 普段は呑まないビールも買ったりした。


 そうだ。

 一人で食事……と言ったけど二階堂さんがいる。

 呼んでみようかな――。


 アパートに着くと隣の電気は消えていた。

 どうやら二階堂さんは留守らしい……。


 残念。


 たまにはお酒でも……と思ったんだけどなあ……。

 今夜は一人を楽しむことにしよう。

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