表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
隣の二階堂さん  作者: 阪上克利


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

50/201

オムライスはデミグラスソースで食べるのか否か

 玉子料理は簡単だし美味しい。

 一人暮らしを始めた時にそんなことを思ったことが、記憶に新しい。

 娘の夕凪(ゆうな)が少し大きくなってからも実は同じことを感じている。

 どうにもメニューには玉子に頼りがちだ。


 目玉焼き。

 玉子焼き。

 ゆで卵。


 まあ、他にもたくさんある。

 オムライスも好きなのだけど、あれはどうしてもうまくできないから作らないことにしている。


 今夜は夕凪(ゆうな)に言われて作ったのだけど……


『う――ん……』

 変な顔をしながら、スプーンのお尻でテーブルをコツコツとたたく娘の夕凪。

 4歳ともなるといろんなことを真似したがるのだけど、これはうちのお隣に住んでいる二階堂さんの真似。


 隣の二階堂さんには変な癖がある。

 考え事をして煮詰まってくると部屋の壁を叩くのだ。

 最初はびっくりしたけど、変な癖だと知ってからは何も怖くはない。


『どうしたの?』

『なんか思ったんと違う……』

『まあ、所詮、ママが作ったオムライスだからね』

 普段なら『文句言わずにちゃんと食べなさい』というところだが、このオムライスに関しては彼女の言い分も分かるのであたしは自虐的にそんなことを言った。

 いやいや……

 確かにお世辞にも美味しいとは言えないのだ。


 なんで美味しくないのだろう……

 あたしも夕凪(ゆうな)と同じく首をかしげて考えた。


『う――――ん……』


 どんどんどんどんどんどんどんどん……


 隣の部屋から壁をたたく音がする。

 二階堂さんも何かを考えているのだろうか。


 あたしは目の前でなぜオムライスが美味しくないのかを一所懸命に考えている夕凪(ゆうな)に言った。


『隣のお姉ちゃん、呼んできてくれる? お部屋で一緒にお茶でもしましょうって。』



 --------------



 今日のランチはオムライスだった。


 会社の近くに小さな洋食屋を発見して以来、ずっと気になっていたのだが、ようやく一人で行くことができた。

 蕎麦屋の斜向(はすむ)かいにあるのだが、(たたず)まいは目立たず、下手をすると歩いていて見逃してしまいそうな……そんな小さなお店だ。中に入ると遮光(しゃこう)カーテンで光を遮っているせいか少し薄暗かった。間接照明が雰囲気を出しており、ランチというよりはディナーで来たいお店だった。席数も10人分ぐらいしかなく、『隠れ家』というのがふさわしい。


 メニューを見てもたくさんの品目は書いておらず、エビフライ定食とカレーライス、ハンバーグ定食、そしてオムライスのこの4品だけだった。


『いらっしゃい』

 少し年配の女性がウェイトレスをしており、奥の厨房で同じ年代ぐらいの男性がシェフをやっているようだった。この二人、夫婦に見えるのだがどうなのだろうか。


 お客さんがあまり多くないお店のように見えた。だけどそんなにたくさんのお客さんを入れることができない作りになっているから、繁盛していないわけではなく、静かな雰囲気を壊さないようにするお店側の配慮なのかもしれない。

 こういうお店で読書をするのは(はばか)られるので、あたしは静かに店内に流れるジャズに耳を傾けながら料理がくるのを待つことにした。


 頼んだのはオムライス。


 洋食屋さんではオムライスを食べたい。

 自分で作るとライスが玉子からはみ出たり、たまごに火を通しすぎたりと……ろくなことにならないオムライスだが、外食で食べるオムライスは絶対にそのようなことはない。キラキラと輝いて見えるのがオムライスなのである。


 冷たい水を一口飲むと、厨房の方からじゅーじゅーと料理を作る音がする。

 少しだけそっちに顔を向けると、フライパンを振っているシェフの姿が見える。


 作っている姿が見れるというのはとてもいい。

 まるで何かのお芝居を見せられているような気になる。一つの料理を作るために、料理人が行わなければいけない手間には確かにドラマがある。厨房が見えて、そういうことを感じることができるというのはけっこうな贅沢だ。


『おまたせしました』

 できあがったオムライスにはデミグラスソースがかかっていた。

『たまごは割って食べちゃだめだよ』と厨房から大きくも優しい声でシェフが言ってくれる。押しつけがましい感じはまったくない。とにかく美味しく食べてもらいたいと思って言ってくれている。

 これをどう感じるかは人にもよるかもしれないけど、こういうことを言ってくれるのはちょっと嬉しい。なぜたまごを割ってはいけないか……理由もウェイトレスをしていた女性が言ってくれた。

『うちのオムライスは割って食べちゃうと旨みが逃げちゃうのよ』


 なるほどなるほど。

 あたしは嬉しくなって二人にお礼を言い、オムライスを美味しくいただいた。


 ライスは鶏肉と玉ねぎが入っており、味付けの基本はケチャップ。

 たぶんトマトの味が強く、塩味が少なかったので、自家製のものだろう。

 そして、素晴らしかったのはデミグラスソース。このソースがたまごとライスの味をつなぎとめるのだ。

 なるほど。これはたまごを割って食べては味わえないかもしれない。


 やはりオムライスにはデミグラスソースが一番だ。


 今度はディナーでも行ってみたい。

 でもランチも美味しかったしなあ。


 う――ん……


 考えが煮詰まったところで玄関のチャイムが鳴った。

 またあたしはやらかしてしまったようだ……


 よし。今日は甘い玉子焼きでも持っていくか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ