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隣の二階堂さん  作者: 阪上克利


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恋は冷めるが愛は冷めないのか否か

 安普請なうちのアパートは少し歩くだけでミシミシと音が出る。

 こんなんだから生活音というのは絶えないのだけど、シングルマザーのあたしには他に引っ越すという選択肢はないし、それにご近所がそこで生活しているのがはっきり分かるのはなんとなく心強い。


 特に……うちの隣に住んでいる二階堂さんには変な癖がある。 


 考え事をして煮詰まってくると部屋の壁を叩きだすのだ。

 最初は赤ちゃんだった娘の夕凪(ゆうな)の泣き声に抗議しているのかと思ってビクビクしてたけど、仲良くなってからは変な癖だと分かったので何も怖くはない。


 いつも彼女は何を考えているのだろう。

 疑問に思ったあたしは、ある日、壁をたたいたタイミングで彼女を食事に誘ってみた。


 彼女の悩みは実に日常的。

 誰もが生活の中で少し思案しながら生きているようなそんな小さな疑問。

 だからこそ、話し出すと面白いのだ。


 どんどんどんどんどんどんどんどん……


 今夜も壁を叩く音がする。



 ――――――――――



 『そんなこと言われちゃうと100年の恋も冷めちゃうよね――』


 何かの会話の合間に姉が言った言葉だ。いつもくだらないことばかりを一方的に狂ったように話す姉だが『なるほどな』と思ったのを覚えている。なんで腑に落ちたのかは今一つ思い出せないが……。


 土曜日に家事の合間にコーヒーを飲んだりして休憩をはさむと、ふとそんなことを思い出したりする。気が付けばもう夕方近い。


 そういえば……この話はいつ話したんだっけ。


 てゆうか……100年の恋ってなんだ?

 あんたせいぜい20数年しか生きてないじゃないか。

 100年の恋って100年も恋し続けることなんかありうるのか?


 ……ありうるな……あの姉なら。

 顔はしわくちゃで歩行器でよたよた歩いていても平気でリボンとかつけてそうだしな……。

 とにかく、今はまだ我慢するけど歳をとったらあの姉に近づくのは本気で辞めることにしよう。


 確かこの会話は『恋は冷めるもの』というような話の流れで姉が言った言葉だったような気がする。


 恋……か。

 分からんなあ。

 特にしたいとは思わないしなあ。

 好きな人でもできたら変わるのだろうか。

 好きな人とはどんな人なのだろうか。

 これがよく分からんのだ。


 あんなに恋の話が好きで恋の伝道師みたいな姉だけど、恋愛のことは……たぶんまったく分かっちゃいないに決まってる。大体、乙女ゲームのキャラクターに本気で恋している人にリアルな恋愛など分かるはずもない。

 それにしても乙女ゲームの何が楽しいのかがあたしにはまったく理解できない。

 あんなもの課金すればどうにかなるものだろう。要は金次第ではないか。悪い男に騙されて貢いでしまうバカな女のようだ。実際、姉はそういう意味では決して賢くはない。


 『恋は冷めちゃうけど愛は冷めないのよねえ……』


 姉はうっとりした顔で言っていた。

 話をしたのは昼間で、しかもどこかの喫茶店だったと記憶している。昼間なのに酒でも飲んでいるのかというぐらい酔っ払った発言である。何が『恋は冷めちゃうけど愛は冷めない』だ。

 そもそも……愛と恋の違いって何?


 恋は一時的?

 愛は永遠?


 いや……恋と愛とは別物ではないだろうか。例えば愛は別に異性に対する恋心だけではない。親子の愛や家族の愛、友情……様々だ。冷めるも冷めないもない。その種類が様々なのだから、恋と比較する方がおかしいのだ。

 夫婦は長い時間をかけ、決して離れない絆を作り、親になれば子供に無条件の愛情を注ぐ。年老いても情がわき共に支えあいながら人生を歩んでいく。


 確かに愛は永遠だ。


 そうか……深いなあ……


 考えが煮詰まったところで玄関のチャイムが鳴った。

 またあたしはやらかしてしまったようだ……


 恋も愛も本当の意味ではよく分からないけど……お隣には、昼間のうちに買っておいた甘酸っぱい恋の味がすると評判のストロベリーチーズケーキでも持参しよう。

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