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隣の二階堂さん  作者: 阪上克利


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歌がうまいことはすごいことなのか否か

 従妹(いとこ)の理彩ちゃんが遊びに来たので休みをとって一緒にミュージカルを見に行った。


 姉がついてくると面倒なことになるのだが、呼ばないわけにもいかない。

 てゆうか呼ばないと面倒なことになるし、理彩ちゃんも『あれ? 麗奈(れな)ちゃんは?』と聞いてくる。

『姉は狂ってるから』と本音を言いたいところだが……理彩ちゃんはあの狂ったように面倒くさい姉の話を『ふんふん』とずっと相槌(あいづち)を打ちながら聞いてあげることのできる実に優しい子なのであたしの本音は通用しない。


 そういうわけであたしは姉と理彩ちゃんと3人でミュージカルを見に行くことになった。


 ミュージカルというのは本当に面白い。

 あたしには音楽のことはまったく分からないが、ミュージカル歌手の音域の広さや声量の大きさは特筆すべきものがある。

 歌が上手いというのはそれだけですごいことだ。

 あたしなんか音痴だから特にそう思う。


 理彩ちゃんは目を輝かせながらミュージカルを見ていた。

 二階堂家の女性は、あたしも母親も姉も……そして理彩ちゃんの母親でもある叔母もみんな音痴である。なんで知ったかというと、あたしが小学校の頃に音楽の授業がうまく行かないことを、叔母に話したことがきっかけで知った。

 よくよく考えてみると姉は調子っぱずれの歌を恥ずかしげもなく大きな声で歌っているし、たまに鼻歌を歌っている母親の音程も盛大に外れていることに気づいた。

 世の中、悩んでも無駄なことがあるということをあたしが学んだのはその時だった。


 そんな中……理彩ちゃんは実に歌がうまい。


 あたしたちとは血がつながっていない叔父に似たのだろうと思う。

 叔父のことはよく知らないが叔母が言うには実に歌の上手い人で、その歌声に惚れて結婚したとうっとりした顔で言っていた。

 叔母の話は良い話なのに……そのうっとりとした顔がなんとなく姉に見えてつらかった思い出がある。


 理彩ちゃんは歌手になりたかったのだが、その夢を断念したらしい。

 歌手になるということでやっていた音楽のすべてを生かせる仕事に就きたいと考えた彼女の今の職業は保育士さん。保育士資格の免許取得の際の実技試験では彼女がやってきた音楽が生かされたと喜んでいたのは昨日のことのようだ。


 まあ……歌手なんて誰もがなれる仕事ではない。

 もちろん夢を追いかけてもいいけど、違う仕方で夢をかなえるというのも素晴らしいことではないかと……何も考えずに日々を惰性で過ごしているあたしなどは思ってしまう。


 夕方……

 どこかのお店に行くぐらいならうちに来てもらおうと思ったあたしは理彩ちゃんを連れて家に帰ってきた。不本意ながら姉も一緒である。

 玄関の前で鍵を開けようとしたら透き通った声の『夕焼け小焼け』が聞こえてきた。

 いつも聞こえる歌だがお隣の春海ちゃんと夕凪(ゆうな)ちゃんが手をつないで帰ってきたのである。


『あれ? お姉ちゃんが2人?』

 夕凪(ゆうな)ちゃんが姉を見て言った。

 遺憾だが、あたしと姉は双子の姉妹なので同じ顔をしている。

『お歌上手ねえ』

 理彩ちゃんが言った。さすがは保育士。すぐに小さな子供の心をつかんでしまう。

『うん。保育園でも歌うの』

『じゃあわたしとも歌おうか』

『うん!』


 元気のいい子供の声と理彩ちゃんの心地のいい歌声が夕焼けに見事にはまっていた。

 やはり歌が上手いというのはすごいことだ。


 あたしは春海ちゃんも夕凪(ゆうな)ちゃんも誘って、みんなで家に入ってもらい夕飯をごちそうすることにした。

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