表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
隣の二階堂さん  作者: 阪上克利


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

45/201

好き嫌いはない方が幸せなのか否か

『ニンジンも食べなさい!』

『えええ……だって美味しくないんだもん』


 夕凪(ゆうな)は最近、ニンジンを食べない。

 確かにニンジンは癖のある野菜だから子供には少し美味しくないと感じるのかもしれない。

 でも、成長して大人の味覚になっていくにつれてあの味も甘くて美味しく感じるようになるはずなのだ。やっぱり子供のうちから好き嫌いを許して『食わず嫌い』にはならないでほしい。


『ちゃんと食べなさい。身体にもいいんだよ』


 つい少し声が大きくなる。

 あまり怒りたくはないのだけど、どうしても譲れないことがあるとどうしても声が大きくなってしまうことがある。


 最近ではそんなことが多くなった。

 娘も成長しているのだろう。いつまでも赤ちゃんではないのだ。自分というものが出てきたのだろう。


『嫌!』

『ダメ!!』

 夕凪(ゆうな)はあたしに負けないぐらいの大声を張り上げて言い返してきた。これは成長の証なのだ。そう思うと……思わず笑いそうになる。だけどそれをぐっとこらえながら厳しい顔を作る。

『食べなさい!』と強く言おうと息を吸い込んだ瞬間だった。


 お隣から、壁をたたく音がした……。


 どんどんどんどんどんどんどんどん……


 つい表情が緩んでしまう。

 ふと見ると、鼻をつまんでニンジンを飲み込んだ夕凪(ゆうな)と目が合う。


『ニンジン食べたのね。えらい! それじゃ夕凪(ゆうな)、お隣のお姉ちゃん、呼んできてくれる? お部屋でお茶でもしましょうって』


 夕凪(ゆうな)は嬉しそうに『うん』と言って隣の部屋に走っていった。

 もしかしたらあたしたち親子は隣の二階堂さんの変な癖に助けられているのかもしれない。


 ―――――――――― 



 何においても好き嫌いというものは少ない方がいい。

 これは好みの問題ではなく、嫌いと決めつけてしまうことの話である。

 好みの問題であるならばあっても特に構わないと思う。

 ただ、好きなものは多い方がいい。好きなものが多ければいろんなことを体験できるし人間の幅も広がっていくような気がするからだ。


 あたしは好きなものが比較的多いような気がする。

 てゆうか他人から誘われると嫌だとは基本的には言わないので好きなものが増えたのだ。

 バーベキューにしても、ドライブにしても、スポーツ観戦にしても誘ってくれればすべて行く。これらは自分一人では行こうとは一切思わなかったものであるが、やりもせずに『興味がない』とか『関心がない』とか言うのはもったいないような気がするからだ。


 実はあんなに嫌だったジョギングも今ではさほど嫌ではない。


 まあ……ジョギングに関しては……

 嫌ではないが継続するほど好きでもないが……


 それでも以前に比べたら走ることへの偏見はなくなったような気がする。


 たまにお隣から『ニンジンも食べなさい!』という春海ちゃんの声がする。

 どうやら夕凪(ゆうな)ちゃんはニンジンが苦手なようだ。そしてこの間はトマトも苦手だということが判明した。


 子供の味覚はまだ成熟していないから大人のそれとは違い、野菜を美味しいと感じることがないのかもしれない。

 食べ物の好き嫌いは子供のうちならまだいい。

 これが大人になってからでは本当に恥ずかしい。


 先日、あたしはまた姉に呼び出されて恵比寿まで行ってきた。

 例のごとく、くだらない用事であったのだが、食事をおごってくれるというので、出向くことにしたのだ。


 ロリータファッションに身を包み、あちらこちらに無駄にリボンのついているフリフリしたワンピースで登場する姉と一緒にいるのははっきり言って恥ずかしいのだが、おごってくれるならそれも百歩ゆずろうと思ったのである。


 入ったお店は少し騒がしめの和食居酒屋だった。

 それでもキチンと奥に個室もあり、ゆっくり飲めるのもありがたい。

 今回は姉と来たがいつか絶対に一人で来ようと思う店だった。


 和食居酒屋なのでお刺身などの魚料理が多いお店で、メニューはどれも美味しかった。


 事件はネギマを頼んだ時に起こった。


『こらこらこら……何やってるの!』

 あたしはネギマを食べる姉を見ていった。

 ここで言うネギマとはネギとマグロが交互に串に刺さって焼いてあるものである。

 姉は事もあろうかネギを抜いてマグロだけ食べようとしていたのである。

『いや、だってネギ嫌いなんだもん』

 意味もなく上目遣いな姉。

 本当に意味がない。

 妹に上目遣い使ってどうする。やるなら男にやれ。男に。

『いい大人が好き嫌い言わないの。ちゃんと食べなさいよ。それにネギマは本来、ネギがメインの料理なんだよ』

 これは本当の話。昔は下魚とされていたマグロをどうやって美味しく出すか江戸の料理人たちが考案したのが、ネギマである。マグロの旨みをネギに吸わせて、ネギをメインにいただく料理だったのだ。

 確か……串には刺さってなかったような気がする……。


 結局、姉は何を言ってもネギを食べなかった。

 隣の夕凪(ゆうな)ちゃんでさえ、お母さんから言われて、がんばってニンジンを食べているのに……。


 残すとお店の人に悪いので、あたしはその日……通常の2倍のネギを食べた。

 美味しいし、ビールも進んだので良かったのだけど、ネギマのネギを外してマグロばかり食べる姉を見て、あたしは、はたしてこの人の妹でいいのだろうか……と本気で考えてしまった。


 それにしても大人の好き嫌いは本当に恥ずかしい。


 う――ん……


 玄関のチャイムが鳴る。

 ふと我に返るあたし。目の前には壁がある。


 どうやらあたしはまたやらかしてしまったようだ。

 お詫びに、恵比寿からの帰りに酔った勢いで購入したヨックモックのシガールを持っていこう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ