家で寝るのはベッドがいいのか否か
畳に布団を引いて眠るという習慣は、子供を産んでこのアパートにやってくるまではなかった。
実家では自室にベッドが置いてあり、柔らかくて心地よいベッドマットの上で当たり前のように眠っていたのだ。
数年前、ここへ来て、そんな当たり前のことが当たり前でないことに気づいてすごく驚いたのが懐かしい。
布団で眠るようになってから寝つきが悪いなどということはないのだけど、夕方に布団を引いて朝には布団をたたんで押し入れにしまうということをしなければならないのが些かめんどくさい。
そういえば……
先日、お隣の二階堂さんの家に大きなベッドが運び込まれていた。
聞けば彼女も今まで布団で眠っていたらしい。
『このベッド、すごいんだよ。下にモーターがついててね……』
好きなことには脇目も振らず取り組んでしまう彼女らしい説明だった。
脇目も振らず……と言えば
彼女には変な癖がある。
考え事をして煮詰まってくると部屋の壁を叩くのだ。
最初はびっくりしたけど、変な癖だと知ってからは何も怖くはない。
それにしてもベッドを購入すれば、落ち着いてベッドの上で考え事をするようになるだろうし……あの癖も減ってしまうのかな。
――――――――――
家に帰ってくるとまず部屋着に着替える。
部屋着と言ってもジャージとシャツなのだが、仕事に行く時はリクルートスーツを着ているし、履物もそれなりにヒールなので疲れて仕方ない。
足がむくむのはヒールのせいだ……ということに最近気づいたので、これに関してはあたしの不摂生は全く関係ないと結論づけることにした。
とにかく……ヒールとリクルートスーツで1日中、締め付けられた身体は夕方になると悲鳴を上げだす。
だから自宅に帰ると1にも2にもまずは着替え、そして靴下を脱いで、メイクを落とす。
それからお風呂を沸かし、しばらく何もせずにベッドに横になる。
不思議なもので会社帰りに呑みに行くことになると、この身体からの悲鳴は嘘のように消える。
病は気からという言葉はどうやら本当のようだ。
そういえば……
最近、ベッドを購入した。
家具屋で購入した……と言いたいところだが、あたしが働いているのは家具のメーカーなので社員割引で購入したのだ。
しかも少し奮発してモーターがついているものにしてみた。
ベッドを部屋に運び込んでもらっている最中にお隣の晴海ちゃんと夕凪ちゃんが帰ってきたので、挨拶がてら、ベッドの話を長々としてしまった。
ほしいものが手に入るとつい嬉しくなって話してしまうのは、我ながら子供のようである
それにしてもこのベッド……。
なかなか優れもので背上げと足上げ、高さ調整までついている。
ベッドの周りに机などおいて、そこにお気に入りの本とメイク道具、そしてテレビのリモコンも置いた。
トイレとお風呂以外はこれで動かなくて済む。
奮発してベッドにして本当に良かった。
家にいる時ぐらいはゆっくりとリラックスしたいものである。
早速、ベッドに横になってみる。
『ふううう』と深呼吸して天井を眺める。
良い眺めだ。
なんだか眠くなってきた……目をつぶればこのまま眠ってしまいそうだ。
ご飯食べてないけど、まあ……眠いならいいかな?
いや!
ダメだ……ダメだ……。
食べとかないと夜中にお腹がすいてえらいことになる。
あたしはすぐにベッドから飛び起きて、お風呂のガスを止めに行った。
それにしても一人暮らしにはやはりベッドが最適なような気がする。
もう、家に帰ってきたときのリラックス感がまったく違う。
布団に占領されていた押し入れにも他のものを入れることができるし、上げたり引いたりの手間はなくなるし……。
でもなあ……
こんなに動かなくてもいいものなのだろうか。
下手したら仕事終わって、自宅に帰ってきて、ベッドにごろんとしてそのまま起きたら翌朝だった……なんてことも無きにしも非ずというところではないだろうか。
それは些か困る。
起きるのが翌朝ならまだいいが、夜中とかだったらそこからいろんなことをしなくてはならないし、お腹もすくから夜中に何かを食べることになる。これは非常にまずい。
まあ……
よくよく考えれば、まずいも何も……ただ単に自制心を養えばいいだけの話なのだが……。
それが難しかったりもする。
う――――ん……
考えが煮詰まったところで玄関のチャイムが鳴った。
ハッと気づくと目の前には壁。
どうやらあたしはまたやってしまったらしい。
てゆうか……
考え事をするならベッドで寝転んでからすればよかったのかもしれない。




