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隣の二階堂さん  作者: 阪上克利


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30/201

寒い日に暖かいものを食べるのは美味しいのか否か

 隣の二階堂さんには変な癖がある。

 考え事をして煮詰まってくると部屋の壁を叩くのだ。

 最初はびっくりしたけど、変な癖だと知ってからは何も怖くはない。


 『ニンジン、ちゃんと食べなさい』

 ふとあたしが見ると、娘の夕凪(ゆうな)はシチューに入っているニンジンを器用に残している。


 最近、夕凪(ゆうな)は偏食をするようになった。

 子供は大抵野菜が嫌い。

 あたし自身にもそんな記憶がある。

 野菜の独特な匂いは大人になるとむしろ美味しく感じるのだけど、子供の頃は口に入れるのもけっこうしんどい。


 夕凪(ゆうな)の気持ちは分からないわけではない。


 でも……やっぱり……考えてみれば当たり前のこととは思うのだが、栄養バランスを考えると、好き嫌いはない方が良いのだ。


 どんどんどんどん……


 あたしと夕凪(ゆうな)は顔を見合わせる。


『ニツマッタみたい……』


 夕凪(ゆうな)はあたしに言った。

 うまくはぐらかされたなあ。


『じゃあ、そのニンジン、一口だけでもいいから食べなさい。食べたらお姉ちゃんと一緒にデザートにしましょう』



 ――――――――――



 今日は寒いので会社帰りに暖かいうどんを食べて帰ってきた。

 寒い日には暖かいものが身に染みて美味しい。


 いつからそんな嗜好(しこう)になったのだろうか、と思うことがある。


 あたしはアパートの部屋の真ん中であおむけに横になり、満腹になったお腹を撫でながら天井を眺めて、ぼんやりとそんなことを考えてみた。


 ああ……ちょっと眠い。

 お腹いっぱいだ。


 調子に乗って天ぷらを頼んだのは間違いだったような気がする。

 そしてなんだかお腹がプニプニするような気もするのだけど……

 細かいことは気にしないようにしよう。


 病は気からというではないか。


 それにしても、寒い日に暖かいものは確かに美味しい。

 逆に暑い日には冷たいものがほしくなる。


 子供の頃はそんなことも考えずに食べたいものをいつでもねだっていたような気がする。

 寒くてもアイスクリームを食べていたし、暑くてもラーメンを食べていた。子供はそういう感覚が鈍いのだろうか。


 ふと……

 お隣の夕凪(ゆうな)ちゃんの顔が目に浮かぶ。


 そういえば最近はニンジンが食べられないらしく、たまにママに怒られている。

 確かにニンジンはちょっと癖があるから子供のうちは食べるのがきついかもしれないなあ……

 それに子供の味覚と大人の味覚はかなり違う。


 うん。

 やはり子供の味覚は寒暖の差に鈍いのかもしれない。


 いや……ちょっと待てよ。

 あたしは大人になった今でも寒い日に冷たいものが欲しくなる時がある。

 だって、どんなに寒くても最初の1杯は冷たい生ビールではないか。


 あれはなぜか美味しい。


 寒いのだから最初から暖かいお酒にすればいいのだが、何故か暖かいお酒を最初から飲む気にはなれない。本当に不思議だ。


 もちろんそうでない人もいる。

 そういう人を見るとあたしは『すごいなあ……』と思ってしまう。


 逆に、暑い日に関しても熱いものをあえて食べたいと思うことがある。

 たぶんそれは冷たいものを食べすぎていたり、エアコンの下に長時間いたりして身体が冷えている場合が少なくない。

 『暑い時に熱いものを食べる』というのは身体には優しいような気がする。暑い時にはとにかく冷たいものばかり食べるので内臓が冷えて身体を壊しやすいという話も聞いたことがある。


 こうやっていろいろ考えてみると……必ずしも子供の感覚が鈍いわけではないのだろう。


 お腹のプニプニが気になって仕方ないのであたしは起き上がった。

 これは気のせい。

 気のせいだ。

 病は気から……。


 気温と食べ物の関係って案外重要なことなのかもしれない。

 というのも、この考察に対してそれなりの結論が出ると彩り豊かな生活が送れるかもしれないからだ。


 う――ん……

 

 寒い日に何を食べるのか……

 暑い日には何を食べるのか……

 いろいろ考えて時間がどれくらい経っただろうか。


 考えが煮詰まったところで玄関のチャイムが鳴った。


 どうやらあたしはまたやってしまったらしい。


 玄関を開けるといつものようにお隣に住んでいる夕凪(ゆうな)ちゃんがいた。

『お姉ちゃん、今日あたしね、ニンジン食べたんだよ』

『そう、偉いわねえ』

 あたしはなんだか嬉しくなって夕凪(ゆうな)ちゃんの頭を撫でた。


 甘めに味付けした『にんじんしりしり』なら夕凪(ゆうな)ちゃんでも美味しく食べられるだろうから、今度作って持って行ってあげよう。

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