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隣の二階堂さん  作者: 阪上克利


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29/201

デートでファミレスというのはありなのか否か

 自宅に帰る道の途中で新しいファミリーレストランができているのを見た。


 今まで忙しすぎて気が付かなかったけど、ファミリーレストランなど、ここ数年まったく縁がない。気楽な女子高生だったあたしは、娘が生まれる前はよく友達と行っていたのだけど、子供ができてそれどころではなくなってしまったのだ。


 そういえば、山盛りポテトのあの味わいが懐かしい。


 我ながら愚かなことをしてしまったものだ。

 まあ、あたしのことはいい。

 それよりもたまには娘の夕凪(ゆうな)を外食に連れて行ってあげたい。


 そんなことを思いながら夕方の見事な夕焼け空を見上げてみると、ちょっと涙が出てきた。


『ママ……どうしたの?』

 不思議そうにこちらを見上げる夕凪(ゆうな)

『あはは……ごめん。なんでもないよ』

 あたしは無理に笑顔を作る。


 考えても仕方ないことは考えないに限る。

 あたしはそういう性格だ。

 自宅のアパートに着くとお隣からシンクを叩く音がする。


 ああ……隣の二階堂さんだ。 


 彼女には変な癖がある。

 考え事をして煮詰まってくると何かを叩くのだ。

 最初はびっくりしたけど、それはただ単に変な癖で彼女自身はとても良い人だと知ってからは何も怖くはない。


 今日は何を考えているのだろうか……。



 ――――――――――



 ここ最近……

 ファミリーレストラン、通称『ファミレス』での食事がやたら美味しい。

 何と言っても低価格だし、それに少し前までは、ファミレスではあまり大手(おおで)を振って飲めなかったお酒が最近ではそんなに抵抗なく飲めるようになった。


 理由はなんでか分からないけど……。


 それであたしの中でのファミレスの評価はここのところ『うなぎのぼり』で、下手な居酒屋チェーンよりも楽しいのではないかと思っている。


 たまに一人でファミレスに行くことがあるが、とても楽しい。

 とにかくサイドメニューが充実しているので酒の肴には困らない。

 基本的に居酒屋ではないので質のいいお酒にめぐりあえるということはないが、それでもそこそこ美味しいお酒が飲める。生ビールなどは冷えていて美味しいし、意外と赤ワインが美味しかったりする。

 ファミレスには肉料理が多いので赤ワインが安価で呑めるのは本当にありがたい。


 この調子だと、他にも美味しいものはたくさんあるのだろうけど、まだ試してはいない。


 今度行った時は何を食べようか……などと考えていると、ついつい顔がにやけてしまうのだが、こんな風に思う人ばかりではないのだ。


 ◆◆◆◆


 会社の昼休み。

 あたしはここのところ『相談室』と呼ばれる部署で先輩の松沢さんと食事をしている。

 この『相談室』はそもそも会社が社員のメンタルヘルスに力を入れて作った部署であり、どんな悩みでも聞いてくれる部署である。新入社員はまずここで新人教育をされつつ、悩みがあればいつでも『相談室』を利用するように言われる。


 まあ、そうは言うものの『相談室』を利用する人はそこまで多くはない。

 今のところ室長の那珂心音(なかここね)さんが一人で回している……そんな部署である。


 松沢さんはいつもランチをここで食べる。

 別にあたしは彼女に合わせてここに来ているわけではないのだけど、心音さんの物柔らかい雰囲気に惹かれて、ここでランチすることが多いのだ。


 『デートでファミレスはないよね――』


 会社の先輩の松沢さんはランチのお弁当を食べながら言った。

 彼女はネットかどこかで拾った恋愛話をネタに話すことが多い。


『ファミレス? いや、そこまで嫌じゃないですよ』

 あたしはそう答えたけど、実は『そこまで嫌じゃない』どころかけっこう嬉しいのが本音だ……。


 だっておごってくれるんでしょ?

 いやおごってくれなくて割り勘だったとしてもリーズナブルだし、酒も肴もそこそこ美味しいし言うことないじゃん。


 ……というようなことを続けて言ったら……力一杯、全否定された。


 『いやいやいや……二階堂ちゃん。そこじゃないから。そこそこ美味しいとかじゃないから』

 『え? 違うの?? てゆうか……それ以外なんかあるんですか?』

 ふとあたしが松沢さんから目をそらすと困った顔をした心音さんと目が合った。

 良かった。

 あたしはどうやらまともな感覚らしい。


 『だって……ドラマのワンシーンみたいな状況に(ひた)りたくない?』


 分からん。


 てゆうか松沢さんはなんか夢見すぎなんじゃないか……と思うことがある。

 デートと言っても状況にもよるだろう。


『それは最初のデートでってことですか?』


 あたしは率直に聞いてみることにした。

 その辺の状況が分からないことにはどうにも言えない。


『違うわよ――。そんなん毎回に決まっているじゃない』


 ランチだからお酒など飲んでいないはずなのに、何かに酔ってる松沢さん。

 あたしは困って一緒にランチしている心音さんを見た。彼女はあたしと目が合うと無言で『いつものことだから気にしないで』というような表情をしていた……。


 ◆◆◆◆


 『ふううう……』


 昼間(ランチの時)のことを思い出すとため息が出る。


 夕方、自宅の台所でお弁当を洗いながらあたしは今日の出来事を思い返した。


 疲れた……。


 まあ……最初のデートはそれなりのお店というのも分かるけど……だとしても、どのタイミングのデートなのかがちょっと分からない。

 告白もまだで、これから告白という段階だったら……ちょっと微妙だ。

 相手の男性のことをこちらも好きなら問題ないが、断らなければならない状況だった場合は申し訳なさすぎる。


 それに付き合い始めて毎回そんな高いレストランに連れていかれるのもちょっと引く……。

 毎回高いところでご飯を食べるということは無駄遣いではないか。いくらデートと言ってもお金を使わずに楽しむことだってできるはずだ。

 その辺の経済観念を疑ってしまう。


 いや……ちょっと待って。

 そういうことを考えたくないからデートとかめんどくさいし、あたしは好きな時に一人で食事するのが好きなのだ。


 食事の時ぐらい難しいことを考えずに楽しみたいものである。


 考えが煮詰まったので、冷たいビールでも飲んで頭を冷やそうと思い、冷蔵庫を見ると、マグネットで貼っておいたファミレスの割引券が目に飛び込んできた。


 ああ。

 そうだ。

 これ……お隣の春海ちゃんに持って行ってあげよう。

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