焼き鳥はタレが美味しいのか否か
日曜日の夜は少し憂鬱。
休みが始まったばかりの土曜日と違って日曜日には『次の日は仕事』というプレッシャーがかかるからだ。
こういう憂鬱さは学生時代から感じていたのだけど、夕凪が生まれて一人暮らしをしてみると、そもそも日常生活に自分の時間があまりないので平日であろうが休日であろうがやることはそんなに変わらず、休日はただ仕事が休みであるというだけであり、結局、土曜日も日曜日も忙しいことには変わらないから、いつの間にかそんな憂鬱さはそんなに感じなくなってしまっている。
10代で子供を産んだあたしには独身時代というものがない。
だから日曜日の夜の憂鬱さは少しだけしか分からない。
そういえば……
隣に住んでいる二階堂さんはどうなのだろうか……。
彼女は独身だし日曜日の夜が少し憂鬱に感じてしまうのかもしれない。
あたしは夕飯を作りながら台所から隣の部屋につながっている壁をじっと見つめた。
彼女には変な癖がある。
考え事をして煮詰まってくると部屋の壁を叩くのだ。
ゴツゴツ……
ゴンゴン……
こんな夜はどんなことを考えているのだろうか。
日曜日の夕方に少しお茶しておしゃべりするのも悪くない。
あたしは部屋で一人で遊んでいた夕凪に言った。
『お隣のお姉ちゃん、呼んできてくれる? 甘いものでも食べましょうって』
――――――――――
神奈川県横浜市戸塚区……
JR東海道線と横須賀線の駅がある戸塚は横浜の郊外ではあるが、少し大きい街である。
戸塚区は広く、栄区との区境まで行くと緑もある静かな街並みになるが、駅前はビルが立ち並び、商店街があり、図書館や小学校まである。
大きな川が流れ、そこには鯉が泳いでおり、たまに何の気まぐれか釣り人が釣りをしている。
何を釣ろうとしているかは分からないが、都会の真ん中で釣りをしている姿は若干不思議なものがある。
戸塚図書館の近くには気になるお店が多い。
居酒屋もあれば、和菓子の美味しいお店もある。
バーベキューの帰りに葉山さんがチョイスしてくれたのは、焼き鳥のお店だった。
ちなみに男連中は帰って、松沢さんは一緒に行くことになった。
こう言っちゃなんだがあたしは焼き鳥には目がない。
パンケーキと焼き鳥、どっち食べに行きたい?
そう問われると間違いなく焼き鳥と答えるぐらいだ。
焼き鳥の美味さは反則である。一口で食べられるように工夫してある鶏肉を丁寧にタレで味付けしておき、串に刺して焼く。焼いている時の煙からいい匂いがする。もうこれだけで生ビールがほしくなるではないか。
『あ――。美味しかったなあ』
あたしはアパートの天井を見つめて言った。
楽しかった土曜日の夜はあっという間に終わり、日曜日はなんだかんだと家事をして、一日が終わろうとしている。明日からは仕事だ。
別に仕事が嫌というわけではないのだが、なんだか日曜日の夜は憂鬱で、一人でアパートの部屋で寝転びながらぼ――っとしているのである。
それにしても昨日の焼き鳥は美味かった。
そして葉山さんも松沢さんも飲むわ飲むわ……底なしだったな……。
女子であんなに呑める人、あたしは他には知らない。
少ししか呑まないあたしが一緒であの二人は楽しかったのだろうか。
まあ……楽しいと言ってくれたから良しとしよう。
『焼き鳥は塩ですよね?』
葉山さんがそんなことを言っていた。
いや……塩はない。
タレの方が美味しいでしょ?
そんな話をしたら葉山さんはビールをぐいぐい呑みながらあたしに言った。
『いや素材の味がはっきり分かるのは塩ですよ』
うん。それは分かる。だから焼き鳥を塩で食べること自体に否定はない。
でもね……
焼き鳥屋さんはタレに相当こだわっているわけなんですよ。
たぶん……
まあ……漫画で読んだ知識なんだけど……。
そんな半端な知識があるあたしとしては焼き鳥はまずタレで味わいたいのだ。
でもやはり素材の味という点では、最初は塩の方がいいのだろうか。
味がしっかり分かる塩を最初に食べてその後、タレで食べる……
いやいや……
やっぱりそこは好きに食べたいし……
そもそも塩よりタレの方が好きだし……
これに関しては結論は出ないんだろうな――。
う――ん……。
考えが煮詰まったところで玄関のチャイムが鳴った。
どうやらあたしはまたやってしまったらしい。
よし。今度は一人で呑みに行ってじっくり考えてみよう。




