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隣の二階堂さん  作者: 阪上克利


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16/201

歌を歌うのは楽しいのか否か

 今朝、出かける時にアパートの隣の部屋に住んでいる二階堂さんに会った。

 彼女の出勤時間とあたしの出勤時間がほとんど同じなので朝の時間に会うのは、実は珍しくもなかったりする。


 風邪を引いたのか……

 彼女はひどい声をしていた。


『風邪ですか??』

 あたしは心配になって聞いたけど、彼女は力なく首を振って『体調は悪くないんだけどね……』と答えるだけだった。


 まあ……答えたくないこともあるだろう。

 だけど体調が悪いのでなくて本当に良かった。


 実は…… 

 隣の二階堂さんには変な癖がある。

 考え事をして夢中になると無意識のうちに何かを叩くのだ。


 今朝、ひどい声だったのも、この変な癖と何か関係があるのだろうか。


 どんどんどんどん……


 夕方の時間。

 壁を叩く音がする。


 大丈夫かな?


 あたしは4歳になった夕凪に言った。

『お姉ちゃん、呼んできてくれる? 甘いものでも食べましょうって』



 ――――――――――



 喉が痛い……。

 原因は分かっている……。


 先日、会社の飲み会でカラオケに付き合わされたからだ。


 最近では飲み会に行かない若い人も多い。いや……あたしも若いので会社の飲み会には必ず参加しなればならないという昭和の匂いのする風習にはついていけないのだが、お酒の席が好きなので特に用事がない時は参加するようにしている。

 うちの会社はいい人が多いし、上司も先輩も一緒に呑んでいて楽しい。

 飲み会に関しても原則、参加は自由。強制されることはない。


 なかなかいい環境で仕事しているなあ……と思う。


 飲み会は嫌ではないのだが……実は二次会には参加したくない。

 別に長い時間拘束されたくないとか、二次会になるとお酒がすすんできて絡み酒の同僚がいるとかそういうことではない。


 カラオケが嫌なのだ。


 二次会にカラオケなんて一体誰が決めたのだろう。

 そもそも二次会というのは一次会が物足りないから行うわけだ。

 ……てことは別にカラオケでなくてもいいではないか。

 ビリヤードとかダーツとかの方が面白そうな感じがする。


 いや……なんだろう。

 そうじゃないな。


 一次会が物足りないのなら二次会では一次会の物足りなさをフォローしなくてはいけないはず。

 であれば……二次会も普通に居酒屋に行けばいいのだ。


 てゆうか……歌なんか歌って楽しいのだろうか。

 カラオケなんてうまい人には楽しいのだろうけど、結局、自分の歌う歌しかみんな聞いてないし、他の人が話している最中に何か話すにしてもうるさすぎる上、酔っ払って聴力がバカになっているから会話にならない。


 それに……言いたくないがあたしは音痴だ。

 声に関してはそこまで悪くもないと思うのだが、歌うとなると歌っているのか怒鳴っているのか分からなくなる。だから歌い終わったあとはやたら喉が痛いし……喉が痛いから何か飲もうと思って、またビールなどを飲んでしまうから余計に喉が辛いことになる。


 声を出すだけで喉が痛いから、次の日はできるだけ話をしたくないのだが、お隣さんにあったりするとついつい長話してしまったりもする。

 てゆうか4歳の夕凪(ゆうな)ちゃんが話しかけているのに不愛想に話をするわけにもいかない。

 大人の女子はいつでも笑顔で話ができないといけないのだ。


 そんなに嫌なら断ればいいのに……と言われたことがある。

 いや……そこは断れないのだ。

 あたしだって断れるものなら断りたい。

 でも先輩も上司もいい人だし、みんなが楽しそうにしているのをあたしの一言でぶち壊したくはない。

 だから断れない。

 てゆうか歌わなくていいのなら付き合ってもいいのだけど……


 う――ん……。


 まあ、でも歌わないわけにもいかないか……

 考えが煮詰まったところで玄関のチャイムが鳴った。


 どうやらあたしはまたやってしまったらしい。

 今日は喉が痛いので紅茶には少し砂糖を多めに入れてもらおう……。

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