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隣の二階堂さん  作者: 阪上克利


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12/201

物語はハッピーエンドがいいのか否か

 どうしてこんなに悲しいことがたくさんあるのだろう……。


 ラジオから流れるニュースを聞いていると、ふとそんなことを考えてしまうことがある。

 未婚で子供を産んで、何も分からずにこのアパートに引っ越してきて、それでも周りの人があたしと生まれてきた娘を大事にしてくれた。

 世の中、悲しいことは多いけど、あたしはとても幸せだ。


 どんどんどんどん……


 あたしは音がする方の壁を見た。


 アパートの隣に住んでいる二階堂さんには変な癖がある。

 考え事をして煮詰まってくると部屋の壁を叩くのだ。


 最初は驚いた。

 でも会って話してみるととても良い人だった。

 ただ変な癖だと分かってからは、それをきっかけに、彼女をお茶に誘うことをあたしも夕凪(ゆうな)も楽しみにしている。


 あたしは4歳になった娘の夕凪(ゆうな)に言った。

『隣のお姉ちゃん、呼んできてくれる? 甘いものでも食べましょうって』



 ――――――――――



 暇だったので本を買ってきた。

 たまには読書でもしようと思ったのだ。


 どんな話かと言えば……

 端的に言えば末期がんの少女が最終的に死んでしまうお話だった。


 う――ん……。

 なんだかなあ……。


 世間様(せけんさま)は物語に涙を誘うことを好むらしい。

 映画でも、『感動』とか『涙する』とかそんなコピーが乱立している。

 でもあたしには、それがなんだか納得できないでいる。


 感動するとか、涙するとか……その手の話というのは、大抵、救いようのない現実を目の前にして自分なりに何かを見つけながらなんとか前を向いていく話しだからだ。

 でも救いようのない話というのはどんなにがんばってもやっぱり救いはないのだ。

 たとえ物語の中でも難病が奇跡的に治るということはない。


 物語の中でうまく行かない現実を見せられることを『感動』ととっていいのだろうか。


 現実の世界では本当にうまく行かないことが多い。


 ヒーローは出てこないし、仕事が奇跡的にうまく行くことはない。

 魔法は存在しないし、少女が男を殴り倒すことなど、できはしない。

 ネコはネコであって人間ではない。化け猫などは存在しない。

 探偵は捜査に参加することはないし、警察は必ず犯人を捕まえられるわけではない。

 弱小チームが血のにじむような努力をして、奇跡的に甲子園に行くことなどはあり得ない。いくら練習しても地方大会を勝ち抜くことは難しいし、その努力は現実には報われないことの方が多い。


 こうやって考えると本当に現実とはうまくいかないことだらけだ。

 ただでさえ現実がうまく行かないのなら、物語の中ぐらいうまく行ってほしい。


 だからあたしは現実とは逆のことをお話に求めているのだ。


 ヒーローが出てきて、うまく行かないと思われる仕事が大逆転でうまく行く。

 魔法を駆使して、本来筋力ではかなわないはずの少女が、悪人である大男を殴り倒す。

 ネコが人間に変身して、人間の日常を送る。

 探偵が気持ちよく事件を解決し、犯人は絶対につかまる。

 弱小チームが努力に努力を重ね、並み居る強豪校に連戦連勝しつつ、甲子園に出場し、全国制覇を成し遂げる。


 こうやって考えるだけでも楽しくなる。

 とにかくお話の中だけでいいから奇跡的に物事がうまく運んでほしいのだ。


 それなのにしてもなぜ……こういう悲しい話を喜ぶ人がいるのだろうか。

 泣きたいからか?


 なんで??


 もしかしたら、自分の周りにはそんなに悲しいことがない人が多いのかもしれない。

 いや……あるのかもしれないけど悲しいと感じていない。

 そういう人が悲しい物語を見て非日常を感じているのだろう。


 ちょっとあたしの価値観では分からない。


 う――ん……。


 少し考えに集中したところで玄関のチャイムが鳴ったのであたしは我に返った。


 どうやらまたやってしまったらしい。

 今日もお隣にお茶を誘ってもらえることを考えると、そんなに世の中捨てたものでもないのかもしれない。

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