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隣の二階堂さん  作者: 阪上克利


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11/201

コーヒーに砂糖とミルクを入れるのか否か

 コーヒーのいい香りがする……


 安普請のアパートでは音だけでなく匂いもこちらに伝わってきてしまう。


 今日は夏にしては少し冷えた一日だった。

 夕方、あたしが晩御飯の準備をしているとお隣からコーヒーの香りがしてきた。


 あたしたち親子が住んでいるアパートの隣に住んでいる二階堂さん。

 今、いい香りのコーヒーを淹れているのはきっと彼女。

 

 実は……


 隣の二階堂さんには変な癖がある。

 考え事に夢中になると何かを叩いてしまうのだ。

 以前は部屋の壁だったのだけど、最近は他の場所を叩いていることも少なくない。

 もしかしたら彼女なりにあたしたちに気を使ってくれているのかもしれない。


 今日はコーヒーを淹れている。


 ということはもうしばらくしたら何か考え事をしてしまうだろう。

 コーヒーを飲んでのんびりしているとついついどうでもいいことを妄想してしまうのはきっと誰にでもあると思うし、あたし自身もそうだからだ。

 まあ……最近は娘のことでやることが多くて、なかなか一人でぼ――っとする時間も持てないでいるのだけど……。

 

 こんこんこんこん……


 以前よりは控えめな……何かを叩く音がする。

 4歳になった娘の夕凪(ゆうな)はあたしを見る。

 あたしは夕凪(ゆうな)に言った。


『お姉ちゃん、呼んできてくれる? お部屋でコーヒーでも飲みましょうって』



 ――――――――――



 今日は寒かった。

 いや寒いと言っても所詮(しょせん)夏だし、そこまで寒いと言うほどではないのだけど、夏にしては少し肌寒かった。

 雨が降っていたということもあるかもしれない。

 湿度が高くて空気がまとわりつきそうなそんな感じだったけど、気温自体が夏にしては低かったのだろうと思う。


『寒い寒い……』

 仕事を終えて家に帰ってきたあたしは玄関を開けて部屋の中に入ってから、まずは暖かいコーヒーを飲むことにした。

 お湯を沸かしてコーヒーを入れる。

 コーヒー豆のいい匂いが部屋中に充満する。


 そういえば…

 コーヒーには常に砂糖とミルクがついてくる。

 当り前のように砂糖とミルクを入れる人が少なくないけど……あれはなぜなんだろう。

 というのも砂糖など入れてしまったらコーヒーの味がおかしくなるし、ミルクを入れたらそれはカフェオレであるからしてすでにコーヒーではない。


 でも……邪道が嫌いではないあたしはカフェオレも好きだ。

 ただ、そもそもカフェオレはコーヒーとは別物だと思う。

 コーヒーとミルクを1:1で入れて、砂糖もたくさん入れる。

 優しくて甘い味がするのがカフェオレだ。

 コーヒーを入れるのは少しコーヒーの香りを足すことによって風味がついて、ホットミルクよりは刺激的な味になる。


 コーヒーが大人の味なら、カフェオレは思春期の味。ホットミルクは子供の味……

 そんな感じがする。


 そうやって考えるとコーヒーに砂糖とミルクを入れるというのは大人としてあるまじき行為なのではないかと思う。ブラックのコーヒーが飲めないのなら、紅茶を頼めばいいのだ。


 コーヒーだけ飲むのは苦くてちょっと……という人もいるかもしれない。

 確かにそれは分かる。

 口寂しい時は暖かいコーヒーが美味しくも感じるけど、2杯目からは正直、あの苦みがきつい。

 それでもあたしは砂糖とミルクを入れることはしない。

 口を甘くしたければ、甘いものを少し食べればいいのだ。

 何もコーヒーの味を台無しにしてまで砂糖を入れる必要はない。

 2杯目はブラックがきついと思うならば、しつこいようだが2杯目は紅茶にすればいい。


 なんでコーヒーに砂糖とミルクを入れるのだろう……。

 見栄なのか?

 大人としての……。


 大人の飲み物を飲んでいますよ……という世間に対するアピールをしたいのだろうか。

 わざわざせっかくのコーヒーを不味(まず)くまでして……。

 いや……でも好みの問題もあるしなあ……。

 う――ん。


 考えが煮詰まったところで玄関のチャイムが鳴った。


 どうやらあたしはまたやってしまったらしい。

 そういえばお隣に呼ばれるときは紅茶が多い……。今日はコーヒー豆でも持っていこうかな。

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