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隣の二階堂さん  作者: 阪上克利


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10/201

ネコは可愛い方が良いのか否か

 隣の二階堂さんには変な癖がある。

 考え事に夢中になると、部屋の壁を叩くのだ。


 最近ではこの音にも慣れてきた。

 彼女自身からは『やらかしたら教えてくれ』などと言われているものだから、今日は何を考えてるのかな……なんて考えながら、隣りを訪ねて、お互いに暇だったら一緒に甘いものを食べたりするのも楽しみの一つになりつつある。


 どんどんどんどん……


 今夜も壁を叩く音がする。

 4歳になった娘の夕凪(ゆうな)はあたしを見る。

 ほんの数年前までは赤ちゃんだったのに、子供ってあっという間に大きくなるなあ……なんてちょっと感傷に浸りながらも、あたしは夕凪(ゆうな)に言った。


『お姉ちゃん、呼んできてくれる?甘いものでも食べましょうって』



 ――――――――――



 夕方……

 家に帰ってきてふとネコのことを考えてみた。

 なんでそんなことを考えたかというと……特に理由はない。


 たぶん朝、ごみ捨て場であのネコを見たからかもしれない。


 いつもあたしが家庭ごみを捨てに行く時に、カラスの攻撃をかわしつつ、ごみをかっさらおうとしている……なかなかしたたかなネコがいるのだ。

 おそらくあのしたたかさは野良ネコだろうと思う。

 その身体はネコにしてはけっこう大きく、小型の犬より大きいのではないだろうか……。

 毛並みは三毛で、たぶん……オス。

 そして眼光が鋭い。


 ネコが好き……という人は少なくない。


 犬に比べるとあまりかまわなくていいし、その上、おとなしくて人にもよく慣れる。

 たぶん、あんなに可愛い動物は世の中には存在しないのではないかと思う。

 ペットショップやネットを覗くと愛らしいネコがたくさんいる。

 あたし自身もネコが好きだ。

 やっぱりかわいいし、見てて飽きない。


 ただ……この野良に関してはかわいいという感じはまったくない。

 その眼光の鋭さはすさまじく、あたしはこの野良を勝手に『デューク』と名付けている。


 ゴルゴ13みたいなのでそう名付けた。

 敏腕スナイパーで世界的に有名な殺し屋、ゴルゴ13。

 彼の本名が『デューク東郷』


 眼光鋭いあのネコにはぴったりの呼び名だと思う。


 まあ……勝手な名前で呼ばれて、彼にとってはいい迷惑だろう。


 あたしはかわいいネコよりも、だれにも媚びずに己の力だけで生きているデュークのような野良が好きだ。

 ちなみに目つきが悪くお世辞にも可愛いとは言い難いこのデュークに声をかけるのはあたしと隣の夕凪(ゆうな)ちゃんぐらいしかいない。


『かわいいネコちゃん』

 夕凪ちゃんはそんなことを言っているが、それはひとえにアパートでは動物を飼えないという事情がそう言わせているのだと思う。

 こう言っちゃなんだが……デュークを可愛いと本気で言っているなら美意識がおかしい。


 いつも声をかけられてデュークはちょっと迷惑そうだ。

 ちらりとこちらを一瞥(いちべつ)すると、警戒を怠らないようにしつつ、こちらの出方を確認しながらゆっくりとその場を去る。


 この立ち振る舞いがかっこいいのだ。


 でも飼うのなら可愛いネコちゃんの方がいいかな。

 う――ん……


 考えが煮詰まったところで玄関のチャイムが鳴った。


 どうやらあたしはまたやってしまったらしい。

 飼えないネコの代わりに手のひらに収まるぐらいの小さなネコのぬいぐるみを隣の小さな彼女に持って行ってあげよう。

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