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隣の二階堂さん  作者: 阪上克利


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102/201

好きな人がいるということはいけないことなのか否か

 峠の休憩所を出てあたしたちは鎌倉までの少し長い道のりを歩き始めた。


『どうすればいいんだろうね?質問に質問で返すようで悪いんだけど、それって答えは松沢さんにしか分からないと思う』


 あたしは少し考えて……休憩所を出る時に松沢さんにそう答えた。

 この手の問題には他人は答えを出すことはできないのだ。

 ……いや、恋愛だけではない。基本的には悩みの答えは自分で考えるしかない。

 自分で答えを出さずに他人(ひと)に答えを求めても、納得はできない。物事の価値観というのはそれぞれに違うからだ。自分の価値観で人生の答えを見つけていくのは大人としての責任である……とあたしは思う。

 だから、悩みに対する答えを他人が軽々しく言ってはいけないのだ。


 まあ……そもそもの話だが、あたしならまず恋人を作ろうとか、そういうことはまったく思わないので、松沢さんとは問題の根っこから選択肢が違いすぎるということも少なからずある。

 つまり悩みに対する答えがあたしと松沢さんでは180度違うのだ。

 だからここであたしが自分なりの答えを言ったとしてもそれはおそらく彼女にとっては何も役に立たないだろう。


 山道(さんどう)は足場が悪い。

 狭くてクネクネ(めぐ)る登山道は、足元に岩肌が出ていたり、大きな木の根っこが張り出していたりと……気を付けていないと、いとも簡単に転んで怪我をしてしまう。


 あたしは前を行く松沢さんの背中を必死になって追いかけた。

 彼女はゆっくり歩いているつもりなのだろうけど、他に考え事をしているとついつい歩調は速くなってしまうものなのかもしれない。一般的に背が低いあたしよりさらに背が低く華奢な彼女は、学生時代はバレーボールで鍛えたらしく、その足腰は足場の悪い登山道にも負けず、ふらつくこともない。比べてあたしときたら、学生時代を通して今の今までまったくもって鍛えていなかったので、登山道で何度も転びそうになった。


 秋晴れの山はとても気持ちが良い。

 木々は紅葉(こうよう)していて、赤や黄色の葉の色が緑の葉と入り混じってとても綺麗だ。

 身体を動かすのはそんなに好きではないけど登山は楽しいと思う時がある。

 と言ってもハードなコースはダメだ。初心者向けの簡単なコースなら楽しい。

 あらためて円海山ぐらいのコースならちょいちょい歩きたいなあ、などと思ってしまう。


『でもさあ……』

 歩きながら不意に松沢さんは前を見ながら言った。

『変に気持ちを伝えても、迷惑じゃないかな……』

『迷惑?』


 いや。

 そんな……迷惑か否かという話をするならば、なんも関係ないのに楽しくもないこんな相談に乗っているこのあたしに、少しでもいいから気を使ってほしい。


『うん。だってさ。もうそんな好きとか嫌いとか言われても困ると思うんだよね』

『困るかな?まあ喜ぶかどうかは別として困りはしないと思うけど……』

『いや、絶対に困ると思う』

『なんで?』

『なんとなく』

『なんとなく?』


 登山道は山の景色が美しい。

 そんな美しい景色の中であたしたちはこんなにバカげた話をしている。

 自分の気持ちを伝えるのは別に迷惑なことではない。

 でも松沢さんが言いたいことはこんなあたしにもなんとなく分かる。要は、友人としての時間が長すぎたのだ。だから今更、色恋で好きだとか言っても石岡くんには迷惑なのではないかと言いたいのだ。

 本人が『なんとなく』と言ったのは、言わないで済む理由を彼女が探しているに他ならない。


 別に言いたくないなら言いたくないであたしは一向に構わない。

 ただ、それでは気が済まないだろう。

 人間、そんなに自分の気持ちに蓋して生きていけるわけではないのだ。

 ましてこれが許されない恋ならそれもいいだろう。

 例えば、石岡くんが既婚者であったとすれば、それは自分の気持ちに蓋をするべきだ。

 だけど彼は特に結婚しているわけではない。

 それに誰かほかの人と付き合っているわけでもない。

 おまけにあたしが知る限りでは、好きな女の子もいないはずだ。


 ん?

 好きな女の子?

 いや……確か……少し前にそんな話を聞いたような気がするな……。

 なんだっけ。

 なんか名前を言ってたな。

 たいして興味もないから聞き流したのはしっかり覚えている。


 え――と……

 あれはなんだっけなあ……

 あたしは立ち止まって目の前にある大きな木を見上げた。


 コンコンコンコン……


 キツツキのように幹を軽く指でたたくと乾いた良い音がする。

 また悪い癖だ。

 でもこうやると名案が浮かぶような気がするのだ。


 あ。

 思い出した。

 女の子の名前だけは思い出した。


『ヒナタだ……』

『ヒナタ?』


 思わず口について出てしまった言葉は思いのほか大きい声で山道に響いた。そして悲しいことに前を歩く松沢さんの耳に入ってしまった。


 まずい……。

 なんて言い訳しよう……。

すみません。

またまた次話に続きます。

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