7.光の精霊との最終決戦③
元に戻った事を確認したダイは、
「ケイスケ!彼女を頼む。
命に別状はないはずだけど、ジュリアさんに看て貰ってくれ。
そして、戦えない人達を安全な場所に避難させてくれ」
光の少女の方をじっと見つめながら、周りを見ることなく言った。
そして、すっと立ち上がると、
『俺が今できる事……、シズクが来るまで他のみんなを守る事』
そう自分に言い聞かせたその時、頭の中に声が響いた。
それは、いつものヴォーレではない別の男の声だった。
『その考え方は気に入った。
これまで、汝は相手を倒す事のみを考えていた。
その考えには我は共感出来なかった。
しかし、今の汝には我が力を使うに値する。
我はテネブレスの片鱗、守るための力だ』
その声が聞こえると共に、ダイの中で闇の魔力が強くなっているのを感じた。
その力に驚いていると、
「力無き者よ、そなたの力は我が力に勝てないのは分かったであろう。
何故、また立ち上がってくる?
しかし、我が願いの邪魔をすることは許さん!」
光の精霊ミスラはそう言うと、再び光の矢を放ってきた。
しかし、今回は光の精霊の攻撃を真っ正面から受け、
跳ね返すのではなく、避けたり、相殺してなんとか凌いだ。
『倒さなくてもいいって割りきると、かなり気持ちが楽だな。
意外と八割位の力でなんとかなるもんだ……』
そんなことを考えながら、ミスラの攻撃を避け続けていた。
どのくらい、光の精霊の攻撃を避け続けただろうか……。
ダイは徐々に、体力が消耗していくのを感じていた。
『くそ……、これだけ長く続くときつい……。
あの馬鹿、何をもたもたしているんだ。
シズク以外にこの状況をなんとかできるヤツはいないのに……』
シズクが中々、現れない事に若干、焦りと苛立ちを覚えていたが
なんとか持ちこたえていた。
疲れがピークに達したのか、ちょっと集中力が欠けた時に
足がもつれバランスを崩してしまった。
『ヤバい!避けきれない』
ダメージを受けるのを覚悟した。
その時、目の前に黒い物体が立ちはだかり、
白く輝く盾で光の精霊の攻撃を跳ね返した。
そして、光の精霊に支配されている少女に向かって、
「ユイ!お前、こんな所で何をしているんだ?」
と尋ねた。ダイと少女の視線がその黒い影に集中した。
土埃が収まり、姿が浮かび上がってくると、ダイと少女がほぼ同時に、
「シズク!」
「お兄ちゃん!」
と呼び掛けた。その先には光の盾を持ったシズクが立っていた。
シズクは何も言わずにダイの居る方向に向かって歩いてきた。
それをみたユイと呼ばれた少女はシズクに向かって叫んだ。
「その男から離れて!お兄ちゃんはその人に騙されているんだよ!」
シズクはその叫びに対して振り返りもせず、ダイに話しかけてきた。
「父さん、お待たせ」
「いやいや、俺はお前の父親じゃないぞ……。
大体いくつの時の子どもだよ」
ダイはシズクが言った事に対して、笑いながら軽く頭を小突いて、
突っ込みを入れた。その反応を見たシズクは慌てて、
「ごめん、つい言い間違えちゃった……」
と謝った。ダイはさほど気にする様子もなく、
「それよりもお前、何か俺に騙されているらしいけどいいのか?
あの娘はお前とどういう関係なんだ?」
と、現状把握をするために軽口を交えながら問いかけた。
「彼女は僕の幼なじみでユイ、昔から妹みたいな感じで僕に懐いていたんだ。
あいつが騙されているんじゃないかな?
昔から騙され安かったしね」
シズクはダイに対してそう言うと、次はユイに対して、
「ユイ、何を言っているんだ?
僕は騙されてなんかいないよ」
妹を宥めるような口調で問いかけた。
すると、ユイは叱られた仔犬のような表情で、
「だって、お兄ちゃんはその人に騙されてこの光の国を攻めて来たって……」
泣きそうになりながら答えた。
それを聞いたシズクは、少し厳しい口調で問いかけた。
「僕たちは光の精霊と話し合いに来たんだ。
むしろ、光の国の方が他の国へ攻めこんでいるんだよ。
僕と光の精霊のどっちの言うことが信じられるんだ?」
シズクの問いかけに対して、ユイは混乱した表情で、
「分からない……、分からないよ!」
取り乱していたが、突然落ち着いた表情になり、
「ユイよ、我が全て正しいのだ。
この嘘つきどもを倒し、共に平和な世界を創ろうではないか」
ユイに取り憑く光の精霊が顔を出し、ユイ本人に言い聞かせていた。
しかし、また泣き出しそうな表情に戻り、
「嫌だよ!お兄ちゃんと争いたくないよ……。
どうしたら良いのか分からないよ……。誰か私に教えてよ!!」
「我を信じれば、全て丸く収まる。お主は何も考える必要はない。
我の器として存在すればよいのだ」
ユイと光の精霊が交互に現れ、それぞれの思いをぶつけているようだった。
それを見ていたシズクはユイに向かって叫んだ。
「ユイ!僕を信じて、こっちに来い、必ず守るから」
ユイは苦悩の表情を浮かべ、
「分からない……、頭と心がバラバラになっているの。
怖い……、怖いよ、助けてお兄ちゃん」
シズクはユイに対して、さらに優しい口調で諭すように話続けた。
「ユイ、大丈夫だよ。今までと同じように、
これからも僕がユイを守るから……。
勇気を持って光の精霊を拒絶するんだ。
ヤツはユイの心の弱い部分を突いてきているんだよ」
ユイはその言葉に力強く頷いた。
すると、ユイの体が白く輝き、胸の辺りから白い玉のようなものが
飛び出してきた。
するとすぐにユイは慌てて、シズクの元に駆け寄った。
その時、白い塊が強い光を放ち、
「役立たずが!裏切りものには制裁を!」
ミスラの叫び声と共に、光の魔力の玉がユイに襲いかかった。
ユイとシズクは恐怖で足が動かず、その場にしゃがみこんでしまった。
そして、光の塊が二人を直撃した。
「……痛っ!」
「えっ……、なんで……。」
「とう……、ダイさん!」
光の魔力が二人に当たる直前、
ダイが二人を覆い被さるような格好で庇っていた。
シズクは不安気な表情を浮かべ、無言でダイの様子を伺い、
ユイは光の魔力を浴び続けているダイの懐で呟いた。
「なんで、私なんかを助けるの?あんなに酷いことをしたのに……」
その呟きに対して、ダイはユイの頭を胸に抱きながら優しい口調で、
「他人を憎む気持ちが生まれるのには理由があるかもしれないけれど、
誰かを助けたいと思うのに理由は要らないんだよ。
大丈夫、ユイちゃんもシズクも俺が守るから……。俺に任せて」
と言った。それを聞いたユイは、
「ごめんなさい、ごめんなさい……」
目に涙を溜めて、謝っていた。
その涙が一筋こぼれ落ち、頬を伝ってダイの太もも辺りに落ちた。
すると、涙で濡れた部分が淡い光を放った。
それに共鳴して、ダイのポケットから光輝く玉が飛び出てきた。
それはあの黒騎士から託されたものだった。
その玉が三人の真上でパンと弾けると、光のベールが三人を包み込んだ。
「あの娘を守ってくれ……」
あの時の黒騎士の言葉が頭に響き渡った。
そのベールが、光の精霊の攻撃によるダメージをかなり軽減させた。




