6.闇の精霊に導かれし者④
オスカーナは三人を城の地下奥深くにある小さな部屋へと連れて来た。
そこは入り口を二人の騎士で厳重に警備し、物々しい雰囲気を纏っていた。
その部屋の中央にある机の上には、この世界の地図が広がっていた。
オスカーナはその地図を指差しながら、
「ここは城内でも私が信頼できる数人しか、入ることのない部屋だ。
この部屋で預言書にある『黒き攻と白き防』の情報を集めておる。
預言書の『黒き攻』はこの先の部屋にある魔剣『テネブラスの剣』、
『白き防』はこの世界に散らばっている四つの光の防具のことを示唆しておる。
我々の調査によると、兜はブリュレ国、靴はジョヌ国、
盾はフロウ国からルミネ国に献上され、
鎧は元々グリン国から我が国に献上されておる。」
と、説明した。それを聞いたダイは、
「ここに兜と靴はあります。
後はルミネ国に行かないとダメみたいですね……」
兜と靴を取り出して言った。
それを見たオスカーナは、
「この防具の回収をお願いしようと思っていたのだが……。
すでに手に入れているとは……」
若干、拍子抜けした声で呟いた。
「……まずはここにある光の鎧と闇の魔剣を見せて貰えないでしょうか?」
しばらく続いた沈黙を破るように、ダイがオスカーナに問いかけた。
その問いに対してオスカーナは言いにくそうな表情を浮かべながら答えた。
「光の防具についてはご存じかも知れませんが、
身につける事は出来ないが触ったり、持ち運んだりは簡単に出来るのだ。
しかし、『テネブラスの剣』は私が知る限り、誰も触ったモノはいない。
しかも、触れたモノは皆、命の危険に晒されているのだ。
だから、安易にそなた達に見せるわけにはいかぬ!」
そう言い放つと、ドスッと椅子に座り、目を閉じた。
その瞬間、シズクがバンと机を叩いて、
「けど、今は預言書を信じるしかないんですよね!
僕がその剣を何とかしないと、この世界は守れないのですよね?」
ダイに問いかけると、ダイは小さく頷いた。
それを見たシズクは、
「じゃあ、僕が何とかします!
闇の精霊に導かれた僕なら何とか出来るかも知れません!」
と、言ってオスカーナ、ダイ、ジュリアの順番に顔を覗きこんだ。
今まで黙っていたジュリアが口を開いた。
「シズク君の気持ちも分かるけど、やっぱり危ないよ……。
この世界を守れても君に何かあったら、それは成功とは言えないよ。
やっぱり、誰かを犠牲にして出来た平和は本当の平和とは
言えないんじゃないかな」
優しい口調で言いながら、ジュリアはシズクの頭を抱えて強く抱きしめた。
「みんなの思う事はよくわかった。
けど、何もしなければ先には進めないのは事実だと思う。
オスカーナ王、取りあえず一度その剣を見せて貰えませんか?
見ても何かが変わるわけではないけど、
何か分かる事があるかも知れないので……」
ダイはシズクを抱きかかえているジュリアの頭をポンポンと叩きながら、
オスカーナの方を見て言った。
オスカーナは、自分の背後の扉を開けて言った。
「分かりました。この扉を入って真っすぐ行くと封印の扉があります。
鍵が掛っていますので、この鍵で開けて下さい。
くれぐれも気をつけて下さいね」
ギーという音と共に、重厚な扉が開いた。その先には紫色に輝く祠のような建物があり、その下に強く輝く剣が刺さっていた。それを見たダイは、
「ジュリア、シズク、絶対に近付くなよ!」
と言って、二人の動きを制した。
『なんて禍々しい魔力だ……』
そう考えていると、頭にヴォーレの声が響く、
『気を付けろ、半端な力じゃないぞ…。
あんな魔力をあの小僧が制御できるわけがない……』
『分かっている、お前の力じゃ何ともならないのか?』
『無理を言うな!あの剣から感じる魔力はお前とそこの女を合わせて、
互角くらいだぞ!
ところであの小僧は本当に闇の精霊に導かれた人間か?
小僧から全く魔力を感じないが……』
『それは俺も気になっていた…。
少なくともこれまでにこの世界で出会った人間は
結構強い魔力を持っていたよな。
シズクからは昨日から何も感じられない』
頭の中で、ヴォーレとそんなやり取りをしている時、
「ダメ!シズク君!それ以上近付くと危ない!」
ジュリアがシズクの腕をつかみながら叫んでいた。
シズクはもの凄い力でジュリアを振り払い、
夢遊病のようにフラフラと『テネブラスの剣』へ近付いて行った。
そして、シズクが禍々しい魔力に触れようと手を伸ばした。
その時、シズクのポケットの部分と魔剣が共鳴するように眩い光を発し、
辺りを包み込んだ。
「何か久しぶりだな……」
目を開くと、真っ白な空間に囲まれていた。
少し離れた場所に意識を失ったシズクと禍々しいオーラを失った
『テネブラスの剣』が倒れていた。
「大丈夫か?」
「シズク君、大丈夫?」
ダイとジュリアは倒れているシズクの元に駆け寄り、抱きかかえた。
そして、ダイが声を張り上げた。
「闇の精霊!いるんだろ?出てこいよ」
背後に気配を感じて振り向くと、魔剣がスーッと宙に浮かび上がった。
そして、頭に声が頭に響く、
『水に導かれし者よ、私がこの世界の闇を司る精霊バーンだ』
剣を持つ美しい黒髪の美女が浮かび上がってきた。
その姿にダイは驚きの声を上げた。
「ウンディー……」
バーンの姿は水の精霊ウンディーそのもので、
髪と目の色が漆黒のような黒であるとこを覗けば瓜二つだった。
驚いているダイにバーンは話しかけた。
「何を驚いている!ウンディーは私が生み出したのだ、
親と娘が似ているのは至極当然であろう?」
「それはそうだが……。そんな事よりシズクは大丈夫なのか?
何が起こったのかがよく分かっていないのだが……」
ダイは落ち着きを取り戻し、バーンに向かって冷静に問いかけた。
「シズクは今、この剣が持つ魔力を受け取り、その衝撃で気絶しているだけだ。
おそらく気付いていたと思うが、シズクには先ほどまで魔力は全くなかった。
それは闇の魔力そのものが強すぎて、
肉体や精神を破壊してしまう可能性があったためだ。
そこで、この剣を魔力の受け皿にして、
必要な魔力をシズクに供給することにしたのだ。
まだ、シズクは魔力が供給されたばかりで、
制御が上手くいかない事があるかも知れぬ、
そこでダイとジュリアの二人にシズクのフォローをお願いしたい」
バーンの説明に対して、ダイは少し納得いかない表情を浮かべていたが、
「言いたい事は何となく分かった。
俺達も出来る限りの協力をするつもりだ。
ところで、どうやって光の精霊の暴走を止めればいいんだ?
単純に力で勝っても何の解決にもならないと思うが……」
と、問いかけた。
「光の精霊の暴走については、
我々精霊内でどうにかするので気にする必要はない。
我々は自らの意思で移動することが出来ないため、
そなた達には6精霊を一か所に集合させて欲しい。
ただ、光の精霊側が全力で阻止してくるだろう。
光の精霊ミスラは他の精霊達と異なり、
自らの意思で直接攻撃を仕掛ける事が出来るため、
4つの光の防具とこの闇の剣が必要なのだ。
それに、6精霊を一か所に集合させるためには、
ダイがウンディーを救出する必要があるのを忘れないように」
バーンが発した最期の言葉に対して、ジュリアが驚いた表情を浮かべて、
ダイに詰め寄った。
「えっ!どういうこと?」
ダイは光の精霊と対峙して敗れた事、元の世界に飛ばされた事、
光の精霊の力が強くなると元の世界が壊れてしまう事、
元の世界には神と呼ばれるモノがいる事、
ウンディーが捕らえられて精霊代行になった事、
この世界のどこかにある精霊の証とウンディーが捕らえられている籠を
見つける必要がある事をジュリアに簡潔に説明した。
ジュリアはあまりの展開に言葉を発することが出来ず、
その場に座り込んでしまった。
「とにかく、俺達がしっかりしないとこの世界だけでなく、
元の世界も破滅の方向に進んで行くんだ。
ところで闇の精霊バーン、精霊の証がどこにあるのか知らないか?
全く手掛かりがなくて途方に暮れているんだが……」
ダイは藁をも掴む思いでバーンに問いかけた。
「それは、私には答える事の出来ない質問だな。
私が言える事は、貴方が本当に必要な時に必ず見つける事が出来るだろう」
と、バーンがダイに答えた。その時、
「うーん!よく寝た……」
ダイの膝の上で、目を覚ましたシズクが大きく伸びをしながら言った。
突然の事にダイはしばらく何も言わずにシズクの様子を見ていた。
そのシズクは、一人すっきりとした様子で、
「えーっと…。何があったの?あっ!
バーンだ。久しぶりだねぇ」
と、とぼけた声でしゃべりだした。
シズクの能天気さに、イラっとしたダイがパシッとシズクの頭をはたき、
「大丈夫か?身体とかは特に問題ないんだな?」
問いかけた。
それを見ていたジュリアが、
「こらっ!何をやっているの?言葉と行動が全く一致していないんだから……」
と、シズクを抱き寄せ、優しく頭を撫でながら言った。
「いや、何かイラっとして……」
ダイは頭を掻きながら、呟いた。




