6.闇の精霊に導かれし者③
闇の国ノアル国の中心ブラ―グ城の前で小さな兵士達に取り囲まれる、
二人の姿があった。
「怪しい奴……」
「きっと、ルミネ国からの潜入者に違いない」
等と二人を囲んだ兵士たちは口々に勝手な事を言っていた。
その中で、ダイは兵士からジュリアを守りながら、
キョロキョロと周囲を見渡していた。
しばらく騒然としていたが、突如静寂が訪れた。
そして、悠然とシズクが歩いてくるのが見えた。
ダイの視線に気付いたシズクは、手を大きく振り小走りで駆け寄ってきた。
「遅くなって、ごめんなさい。
ここじゃ目立つので城の中に入りましょう。
国王が待っています」
シズクは軽く頭を下げて言うと、回れ右をして城の方へ進んで行った。
その姿にあっけに取られたダイとジュリアは、
一瞬固まったがすぐにシズクを追いかけた。
しばらくの間、三人は口を開く事もなく、城の中を進んで行った。
大きな扉の前で、シズクが二人に話かけた。
「ここが王の間です。昨日あの後、オスカーナ王に二人の話をしたら、
是非とも会って話がしたいと言われたんだ。
この世界のこれからについて話をしたいと言っているから……」
そう言いながら、シズクは扉を開けて王の間に入って行った。
二人もシズクに続いて入ると、広い空間の中にぽつんと王座があり、
そこに小柄な女性が座っていた。
あまりにも装飾がない事に驚いたダイはキョロキョロと周り見渡し、
少し警戒しながらシズクの後を追っていた。
ジュリアは小声でぼそっと呟いた。
「何もない……。なんか怖いな……」
ダイもシズクもその呟きに答えることなく、王座の方を見つめて足を進めた。
部屋の中央で、黒の女王はにっこりと微笑み、手招きをした。
「よく来てくれた。シズクから話は聞いている、
色々話したい事もある故にもっと近こう寄れ。」
三人が王座の前に着くと同時に、
オスカーナはすっと立ち上がり深々と頭を下げた。
その姿に驚いたダイは、慌てて片膝をつき女王の前に平伏した。
「申し訳ありません。
ノアル国王に迎えて頂けるとは思ってもいませんでしたので、
大変失礼しました」
と、言ったダイの姿を見たジュリアとシズクも慌てて膝をついた。
「そんなに畏まらなくともよい。
そなた達は私の友人としてここに来て貰っているのだ。
特にシズクは私と話す時に一度も膝をついたことはないだろう?
普段通りで居て貰えないか……」
オスカーナはそう言うと、三人に頭を上げるように促し、
「この部屋には椅子などはない故、皆で地面に座って話をしよう!
私もそこに座るので、無礼講で遠慮なく話をさせて欲しい」
そう言うと、ドスッと座り込んだ。
続いて、シズクが体勢を崩し、
「この人は言い出したら聞かないから、気楽な感じでいこうよ!」
ダイとジュリアに呼びかけた。
二人は呆れたように視線を交わし、諦めた表情を浮かべた。
そしてダイは胡坐、ジュリアは膝を抱えるような体勢で座った。
二人が座った事を確認するとオスカーナが話始めた。
「まず、最初に昨日はシズクと私の配下のモノ達が
お二人に攻撃を仕掛けたとの事を聞きました。
本当に申し訳ない事をした、この国の長としてお詫び申し上げる」
オスカーナは再び、深く頭を下げた。
ダイとジュリアも再度、慌てて、
「こちらこそ、攻撃的な対応をしてしまい、申し訳ありませんでした。
お互いに事情があり、
これからいい関係を築ければいいと思いますのでなかった事にしませんか?」
と、いった提案をすると、オスカーナは安堵の表情を浮かべた。
「そう言って貰えると助かります。
ところで、ダイ殿は水の精霊、ジュリア殿は風の精霊の導きで
この世界にやってきたと聞きましたが……」
オスカーナは、二人は無言で頷くのをみると、話を続けた。
「やはりそうですか……。シズクがこの国に現れ、貴方達二人を連れてきた。
これは『精霊預言書』に書かれている内容に……」
「ちょっと待て!精霊預言書って、
『世界が混沌に陥りしとき、精霊の意思を受けし異形なるもの共現れ、
世界を真なる方向へと導かん。』
ってやつでしょうか?」
ダイは話を遮り、ブリュレ国で聞いた精霊預言書の内容を思い出していた。
それを聞いたオスカーナは首を横に振りながら、続けた。
「そなたが聞いたのはおそらく、水の国に伝わる預言であろう……。
各国に伝わる預言はそれぞれの国に関する事が多い。
我が国の預言書には
『世界が明るく輝きし時、そよぐ癒しと流れる知性に守られし闇が現れる。
黒き攻と白き防が集結した時、一筋の影が光を貫くだろう。』
とある」
「つまり、俺達はここに集まるべくして集まった訳だ」
ダイは一人納得して、呟いた。さらに、
「そして、この国は非常にまずい状態にあるんですよね?」
と続けた。それを聞いたジュリアが問いかけた。
「どういう事?なんか分かる様な、分からない様な……」
「さすが、ダイ殿。一度聞いただけで、理解頂けるとは……」
微妙な表情を浮かべているジュリアとシズクに簡単に、
自分の解釈を説明した後、オスカーナに問いかけた。
「この国は現状、どのような状況なのでしょうか?」
「現状は、防戦一方だ。
光の国からこの国への侵入経路は一か所しかない故、
そこの守りを強化している。
昨日はあっさりと、誰かさんに突破されてしまったが……」
オスカーナは苦笑いをしながら答えた。
「俺はジョヌ国とブリュレ国が光の国ルミネ国に
攻め込まれた事を知っています。
その時の話を聞く限り、光の国は突然、
城を包囲して一気に攻め落とす戦法を取っているようです。
この戦法を可能にするには光の国では転移魔法を使用できる
可能性が高いと思っていました。
それであれば、この国も同じ攻め方をすれば終わりのような気がしますが……」
ダイはオスカーナの回答に対して、感じた疑問を投げかけた。
「確かに、ルミネ国は転移魔法を得意としている。
我が国以外では簡単に使用できるのだが、
この国の大部分は転移魔法不可の領域になっており使用できぬ。
そのため、あの道を通る以外にこの国に入ることはない。
我が国は守る事に特化している故、
何とか凌いでいるが長期間に渡る侵攻に対して国が
疲弊し始めているのは事実だ」
そう答えるオスカーナの表情にも若干の疲れが見えた。
ダイは気付かないふりをして、質問を続けた。
「やはり、そうですか……。今後はどうなされるおつもりでしょうか?
いつまでも守ってばかりだとジリ貧になると思うのですが……」
「その通り!この国は光の国の侵攻を止められない状況まで来ている。
しかし、ぎりぎりのタイミングで精霊預言書の通り、
そなた達三人が現れたのだ。
私はここまで来たらそれに賭けてみたいと思っておる。
何とか助けて貰えないだろうか?」
オスカーナは再び、三人に対して頭を下げた。
それを見て、今まで黙ってダイとオスカーナの話を聞いていた
シズクが問いかけた。
「僕はこの国に来てからずっと、守るために戦ってきたつもりだよ。
けど、昨日ダイさんと戦ってみて、自分が弱い存在だって思い知ったんだ。
だから、もっと強くなりたい。
僕が強くなればこの国も助かるんだよね?」
オスカーナはシズクに対して、頷くだけで答える事はなかったが、
ダイが静かに話始めた。
「おそらく俺の水の力いや闇の力以外の力は全く通用しないと思っている。
光の国の暴走を止める事が出来るのは、闇の力を使えるシズク、
お前だけなんだ。
正直、今の力だけでみると全く望みがないようにも感じるが、
お前の気持ちとこの国の預言にある
『黒き攻と白き防が集結した時、一筋の影が光を貫く』
という一文を信じたいと思う。
オスカーナ王、この預言書にある『黒き攻と白き防』はおそらく、
闇の力を持つ武器と光耐性の強い防具の事だと思います。
何か心当たりはありますか?」
その言葉に三人の視線がオスカーナに集まった。
しばらくの沈黙した後、ふぅっと大きく深呼吸をした闇の女王は、
立ちあがって言った。
「着いて来い。」




