2.精霊達との出会い⑤
今回はちょっと長めです。
二人はある一室に入ったが、お互いに黙ったままいると、
ダイのネックレスとジュリアのブレスレットが共鳴するように白い光を放ち、
いつもの白い空間に包まれた。
ジュリアは茫然と立ち尽くしていたが、ダイは慣れたように彼女に話しかけた。
「大丈夫だよ、これは精霊が出てくるときはこうなるみたいだから……。
なんか周りの空間からは隔離されていて、時間の流れも違うと思う」
「その通り!
私たち精霊は基本的にこの空間でしか存在を見せることはできないのだ」
二人の背後から、ウンディーの声が聞こえた。
その声に反応して二人がぱっと振り向くと、
ウンディーはジュリアの真後ろに立っていた。
そして、ウンディーは振り向いたジュリアの顎を掴み、
そのままキスをしそうなほどに顔をジュリアに近づけて問いかけた。
「私は水の精霊ウンディー。
単刀直入に聞きくが、貴女はこの世界を支配するつもりはあるのか?」
あまりにも無茶苦茶でストレートな問いかけに、
ジュリアは戸惑いの表情を浮かべた。
すると、それを見たダイは呆れた表情で、
「おいおい、ウンディー、おまえなぁ……。顔が近すぎないか?
ジュリアさんも答えに困っているぞ!
大体、いきなり過ぎるよ!」
ウンディーの行動と発言について非難した。
すると、ジュリアの頭上から別の声が聞こえてきた。
「相変わらずね、ウンディー。わかっていて言っているくせに……」
「へっ?」
意味がわからなくなったダイは、素っ頓狂な声を上げた。
ダイが混乱しているのを見たジュリアが説明を続けた。
「私の持つ風の力には攻撃的な力は全くないの。
あるのは癒しの力だけ。
だから私はこの世界の人を癒すためにこの世界へと導かれたのだと思う」
「そうか……。じゃあ、ジュリアさんとは争ったりする事はなさそうだね!
ジュリアさんさえよければ、この世界を守るのを手伝ってもらえないかな?
一人でも味方がいると心強いけどなぁ……」
ダイは少し照れたように自分の頭を掻きながら、ジュリアに向かって言った。
それを見たウンディーはにやにやとからかうような視線を送っていた。
そんな二人の様子を怪訝な表情で見ていたジュリアは、
「ごめんなさい。私は今、この国を離れるわけにはいかないの……」
ダイは一瞬、ショックを受けた表情になったが、平静を装いながら
「そっか……。何か理由があるみたいだね……、
残念だけど仕方ないか……」
と、精一杯の強がりを言った。
しかし、そんなダイを他所にジュリアは、
「実はこの国は流行り病が蔓延していて、殆どの国民がかかっているの……。
この国には私の癒しの力が間違いなく必要だと思うの。
だから、ダイさんには申し訳ないけど……」
「そういうことなら、仕方ないよ。気にするな!
俺の目的は貴方の意思を確認することだから」
ダイは無理に笑顔を作って、そう言った。
すると、ジュリアの背後から大きな鳥が現れ、ダイに向かって話しかけてきた。
「はじめまして、私は風の精霊『シルフィー』。
ダイさん、そんなに気を落とす事はありませんよ。
精霊の導きもの同士、必ずどこかに集まる定めにあるの、
それが敵か味方かは別として……」
とだけ言うとシルフィーはウンディーと共にすっと姿を消した。
そして、二人は元の空間へと戻された。
ドンドンドン激しく扉を叩く音で二人は我に返った。
扉の向こう側から、
「ジュリア様!流行り病の患者が押し掛けております。
女王様も体調不良でお倒れになっております。
何とか急ぎで治療をよろしくお願いします!」
切羽詰まった声が聞こえてくる。
ジュリアは急いで扉を開け、
「わかりました。すぐに行きます。
ダイさん、話が全然出来なくてごめんなさい。
急用ができましたので……」
そう言うと、一目散に駆け足で部屋を飛び出していった。
それを見たダイは慌てた様子で、ジュリアの後を追いかけた。
ダイが追いついた時には、
ジュリアはすでに小さな部屋の中で治療を行っていた。
ダイはしばらくの間、ダイは声もかけることすらできず、
少し離れたところでジュリアが治療している姿をじっと見つめていた。
ジュリアが患者に手をかざすと彼女の腕にある蛇を模った腕輪が光を発し、
苦しそうな患者が一変して落ち着きを取り戻していた。
その後、状態が安定した患者はすぐに部屋の外に連れ出された。
そして入れ替わるように、次の患者がジュリアの前に運びこまれていた。
その様子を見ていたダイは、ブリュレ国でウンディアーナから教わった
回復魔法を思い出した。
そして、一人の患者に近づき手をかざした。
一人の治療にジュリアの3倍ほどの時間を要していたが、
少しでもジュリアの手伝いができればと無我夢中で治療を続けた。
ダイは最後の一人をジュリアが治療したのを確認すると、
ふぅっと息をつきしゃがみこんでしまった。
そこにジュリアが近づき、笑顔で声をかけた。
「お疲れ様、手伝ってくれてありがとう。
おかげでいつもより早く治療ができたよ。」
「いやいや、全然ダメだよ……。
それより、ジュリアさんは毎日あんなに沢山の患者さんを治療しているの?」
「うん……。でも、私の回復魔法だと一時的には良くなるけど、
時間が経つと元に戻ってしまうの……。私の力不足かな?」
肩を落としながらジュリアは呟いた。
その姿を見て、ギュッと抱きしめたくなる感情を抑えてダイは言った。
「ジュリアさんはよくやっていると思うよ。
君がいなかったらこの国はすでに亡くなっていると思うよ」
「ありがとう、貴方も慣れない回復魔法を使ったから疲れたでしょう?
水でも入れるから飲んでね」
と言って、机の上にコップ一杯の水をダイに差し出した。
「もう、喉がカラカラ! 助かった~」
そう言うと、出されたコップの水を一気に飲み干した。
しかし、コップを机に置くと険しい顔でジュリアに尋ねた。
「ジュリアさん……。
もしかして、この水ってこの国の人はみんな飲んでいるのかな?」
「えっ!そうだけど、なんで?
ここには飲用水は一か所しかないはずだし……」
ジュリアはダイの剣幕に少し戸惑いながら答えた。
それを聞いたダイは一層難しい顔をしながら、黙り込んでしまった。
それをジュリアは不安そうに覗きこんだ。
しばらくして、ダイは厳しい表情で答えた。
「おそらく、ここの水に何か異物が混入されている可能性が高いと思う。
具体的には調べてみないとわからないけど……。
おそらく、塩素じゃないかな?」
「塩素? それって、普通じゃないの?」
「俺らのいた人間の世界ではね……。
この世界ではないと思うよ。
多分、ジュリアさんや俺はある程度慣れているから影響はないと思うけど、
この世界では異物に違いないからね……。
それに塩素そのものは自然界に普通に存在しにくいはずだから、
誰かが意図的に……。
まず、俺らがやらないといけないことは水を使わせないようにする事と
原因を見つけることだね!」
「そうだね~。
急いで女王様に言って、水の使用をやめてもらわないと!
あっ! けど、水を使わない訳にはいかないよね……。
どうしたらいいかな?」
ころころと表情を変えながら、
最終的にはダイにすがるように目をウルウルさせながら言った。
ダイは内心ドキドキしていたが冷静さを装って、
「それは、大丈夫。俺は水の魔法を使えるから」
と、言うと、手をコップの上にかざし軽く力を込めた。
すると、手から水が滴り落ちてコップを一杯に満たした。
それを、ジュリアの前に差し出すと、
「飲んでみて」
と、勧めた。
ジュリアは恐る恐るコップに口をつけ、コクリと喉を通した。
ぱっと明るい表情になり、ダイの手を取って言った。
「おいしい! 今までこの世界で飲んできた水とは全然違う。
早速、女王様のところへ行こう!」
ダイが手を握られて照れている間に、ジュリアは部屋を飛び出して行った。
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