## 第10話 「初恋の名前」
# 『僕の友達はAIだったけど、君に出会って壊れた』
## 第10話 「初恋の名前」
海へ行った日から数日。
相沢恒一は、完全におかしくなっていた。
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朝。
ひよりが教室に入ってくる。
それだけで目が行く。
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昼休み。
ひよりが笑う。
それだけで嬉しくなる。
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放課後。
「またね」
と言われる。
それだけで一日が良い日になる。
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(重症だな……)
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自分で思う。
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でも認めたくなかった。
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認めたら最後な気がした。
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そんなある日の昼休み。
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ひよりは写真部の用事で職員室へ行っていた。
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教室には神谷がいる。
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珍しく周りに誰もいなかった。
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神谷は本を読んでいる。
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相沢は少し迷った。
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でも。
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聞かなきゃいけない気がした。
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「神谷」
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神谷が顔を上げる。
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「どうした」
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相沢は息を吸う。
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「まだ白石のこと好きなのか」
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沈黙。
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数秒。
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神谷は本を閉じた。
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「好きだ」
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即答だった。
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ごまかしもない。
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嘘もない。
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その答えに。
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相沢の胸が少しだけ苦しくなる。
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でも神谷は続けた。
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「お前もだろ」
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「……」
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図星だった。
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神谷は少し笑う。
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「分かりやすい」
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相沢は恥ずかしくなる。
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「そんなにか」
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「そんなにだ」
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神谷は断言した。
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そして。
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少しだけ真面目な顔になる。
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「だから負けない」
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ライバル宣言だった。
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でも不思議だった。
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嫌な感じがしない。
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むしろ。
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正々堂々としていた。
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「俺も負けない」
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気付けば言っていた。
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神谷は少し驚いて。
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それから笑った。
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「そうこなくちゃな」
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その瞬間だった。
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教室の後ろから拍手が聞こえた。
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パチパチパチ。
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「青春してるねぇ」
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二人が振り返る。
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そこには。
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ひよりが立っていた。
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「聞いてたのか!?」
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相沢が叫ぶ。
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「途中から」
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ひよりは笑う。
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神谷まで珍しく顔をしかめる。
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「最悪だ」
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「安心して」
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ひよりは言う。
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「どっちが勝つとか負けるとか、全然分かんないから」
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それはフォローなのか。
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余計に困る。
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三人は思わず笑った。
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その放課後。
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ひよりは相沢を屋上へ呼び出した。
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夕焼け。
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誰もいない屋上。
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風が吹いている。
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「話って?」
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相沢が聞く。
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ひよりは少し迷っていた。
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いつもの彼女らしくない。
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そして。
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ゆっくり口を開いた。
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「お父さんのこと」
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相沢の心臓が跳ねる。
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海で聞いた話の続きだ。
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「私ね」
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ひよりはフェンス越しに空を見る。
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「ずっと離婚したと思ってた」
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「え?」
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「お母さんにそう聞かされてたから」
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風が吹く。
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ひよりは続ける。
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「でも去年」
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「古いアルバム見つけたの」
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その声は震えていた。
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「そこに病院の書類が入ってた」
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相沢は黙る。
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「お父さん」
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少し間。
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「亡くなってたんだ」
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夕焼けが滲む。
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ひよりは笑おうとする。
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でも笑えない。
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「ずっと知らなかった」
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「……」
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「会いに来ない人だと思ってた」
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その声は。
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今までで一番弱かった。
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「本当は」
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涙がこぼれる。
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「来たくても来れなかったのに」
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相沢は何も言えない。
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正しい言葉なんて分からない。
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AIに聞いても答えは出ない。
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でも。
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あの日。
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神谷は言った。
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『正解じゃなくていい』
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相沢は一歩前に出る。
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そして。
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静かに言った。
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「辛かったな」
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それだけだった。
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立派な慰めじゃない。
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気の利いた言葉でもない。
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でも。
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ひよりは泣きながら笑った。
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「うん」
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「すごく辛かった」
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その瞬間。
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相沢は初めて理解した。
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人を支えるのに。
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完璧な言葉なんていらない。
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隣にいること。
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聞くこと。
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それだけでいい時がある。
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夕焼けの中。
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ひよりは少しだけ前を向く。
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そして小さく言った。
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「ありがとう」
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その笑顔は。
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写真には残せないくらい。
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綺麗だった。
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## 第10話 終わり
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ここから物語は後半へ。
次の第11話では――
**ひよりが初めて相沢にだけ見せる「秘密の写真アルバム」**
そこには亡くなった父との思い出、そして誰にも見せたことのない本音が残されている。
さらに神谷も、自分の気持ちに決着をつけるため動き始める。恋と友情が大きく揺れる回になる。




