## 第9話 「君と見る景色」
# 『僕の友達はAIだったけど、君に出会って壊れた』
## 第9話 「君と見る景色」
日曜日。
朝七時。
相沢恒一は、人生で初めてと言っていいほど早く目が覚めた。
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昨夜はほとんど眠れなかった。
何を着ればいいのか。
何を話せばいいのか。
そもそも二人で出かけるのはデートなのか。
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分からない。
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分からないことだらけだった。
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それでも。
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不思議と嫌じゃなかった。
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待ち合わせ場所は駅前。
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十分前に着いた。
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そして。
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「おはよう」
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声がした。
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振り返る。
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白石ひよりだった。
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私服姿。
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白いブラウス。
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薄い青色のスカート。
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肩からカメラを下げている。
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相沢は一瞬言葉を失った。
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「どうしたの?」
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ひよりが首を傾げる。
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「いや……」
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言えない。
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可愛いなんて。
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恥ずかしすぎる。
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「何でもない」
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するとひよりは笑った。
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「変なの」
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その笑顔だけで心臓が忙しい。
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二人が向かったのは海だった。
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電車で一時間ほど。
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大きな観光地ではない。
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人も少ない。
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ひよりが好きな場所らしい。
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海風が気持ちいい。
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青空が広がる。
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波の音が聞こえる。
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ひよりは楽しそうに写真を撮り始めた。
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空。
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波。
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カモメ。
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防波堤。
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そして。
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相沢。
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「また撮った!」
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「いい顔だったから」
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「絶対嘘だ」
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「本当だよ」
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ひよりは笑う。
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相沢も少し笑う。
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最近、自分でも驚くくらい笑うことが増えた。
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昼過ぎ。
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二人は海辺のベンチに座った。
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コンビニで買ったパンを食べながら休憩する。
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波の音。
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心地いい沈黙。
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その時だった。
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ひよりがぽつりと言った。
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「私ね」
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相沢は顔を上げる。
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ひよりは海を見ていた。
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「お父さんがいないんだ」
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静かな声だった。
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相沢は黙って聞く。
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「小さい頃に離婚したの」
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海風が吹く。
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「それからお母さんずっと働いてて」
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少し笑う。
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「だから私、心配かけないようにしてた」
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その笑顔は少しだけ寂しい。
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相沢は気付く。
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これが。
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ひよりの秘密の一部なんだと。
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「辛くなかった?」
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思わず聞いた。
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ひよりは少し考える。
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「辛かったよ」
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あっさり答えた。
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「でもね」
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そして空を見る。
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「お母さんの方が辛そうだったから」
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その言葉に。
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相沢は胸が痛くなった。
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ひよりは昔から。
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誰かのために笑ってきたのだ。
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自分のためじゃなく。
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誰かを安心させるために。
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「だから写真撮ってた」
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ひよりが言う。
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「楽しい瞬間を残したかった」
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「忘れないために?」
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相沢が聞く。
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ひよりは嬉しそうに笑う。
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「覚えてたんだ」
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もちろん覚えていた。
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最初の日に聞いた言葉だから。
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ひよりは静かに言う。
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「いつか悲しくなっても」
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「写真を見たら思い出せるかなって」
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相沢は空を見る。
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青い空。
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白い雲。
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波の音。
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そして隣のひより。
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その瞬間。
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相沢は思った。
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この景色を忘れたくない。
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初めてだった。
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そんな風に思ったのは。
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夕方。
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帰りの電車。
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ひよりは少し疲れたのか眠っていた。
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窓際。
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夕陽に照らされながら。
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静かな寝顔。
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相沢はそっと目を逸らした。
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見すぎると心臓に悪い。
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その時。
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ひよりのカメラケースから一枚の写真が少しだけ見えた。
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偶然だった。
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本当に偶然。
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そこに写っていたのは。
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幼い頃のひより。
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そして。
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知らない男の人。
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優しく笑っている。
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たぶん父親だ。
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でも。
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写真の端が少しだけ破れていた。
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まるで。
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誰かが何度も触ったみたいに。
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相沢はそれ以上見なかった。
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見てはいけない気がした。
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ただ。
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ひよりの過去は。
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まだ終わっていない。
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そんな気がした。
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## 第9話 終わり
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次の第10話
### 「初恋」
相沢はついに自分の恋心を自覚する。
しかし同時に、神谷も本気で動き始める。
そしてひよりがずっと隠していた、
**父親に関する本当の秘密**
が少しずつ明らかになっていく――。




