## 第3話 「写真展の名前と、言えなかった一言」
## 第3話 「写真展の名前と、言えなかった一言」
次の日の昼休み。
相沢 恒一は、いつものように弁当を食べていた。
でも、味があまり分からない。
理由は分かっている。
昨日のひよりの言葉が、頭から離れないからだ。
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「写真展、準備進んでる?」
神谷 恒一の声。
あの一瞬、ひよりの表情がわずかに揺れた。
(なんだ、あれ)
“なんでもない”と言っていた。
でも、本当にそうだったのか。
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相沢はスマホを取り出す。
AIのチャット画面。
少しだけ迷って打つ。
> 「人が嘘をつく理由って?」
すぐに返答。
“自己防衛や他者への配慮などが理由です”
(正しい。けど、違う)
昨日の“違和感”は、そんな簡単な説明じゃなかった。
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放課後。
足は自然に写真部へ向かっていた。
もう「たまたま」ではない。
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部室の扉を開けると、ひよりが机に座っていた。
プリントされた写真が机いっぱいに広がっている。
「来たんだ」
彼女は少し嬉しそうに言う。
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「ちょっと気になって」
そう答えると、ひよりは笑った。
「十分な理由だね」
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机の上には、一枚の大きな紙。
そこに書かれていた文字。
**『写真展テーマ:忘れられない日常』**
相沢はそれを見て言う。
「これ、展示するの?」
「うん」
ひよりは頷く。
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でも、その言い方は少しだけ弱かった。
相沢は気づいてしまう。
(本当に“うん”って感じじゃない)
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「神谷も関わってるのか?」
その名前を出した瞬間。
ひよりの手が一瞬止まった。
ほんの一秒。
でも、それが答えだった。
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「……まあ、少しね」
それ以上は言わない。
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沈黙。
窓の外では、部活の掛け声が遠く響いている。
ひよりはカメラを手に取りながら、ぽつりと言った。
「神谷くんってさ」
「うん」
「ちゃんと“正しいこと”を選ぶ人なんだよね」
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相沢は少し考える。
正しいこと。
それは一見、いい言葉だ。
でも今のひよりの声は、少しだけ寂しかった。
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「それ、悪いことなのか?」
相沢が聞くと、ひよりは少し笑う。
「悪くはないよ」
でもすぐに続けた。
「でもね、正しいだけだと、残らないこともあるんだよ」
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その言葉は、妙に胸に残った。
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そのとき、廊下から足音。
神谷 恒一が現れる。
「まだいたのか」
いつもの落ち着いた声。
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机の上の資料を見る。
「テーマ、決まったんだな」
ひよりは軽く頷く。
「うん」
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神谷は少しだけ間を置いて言う。
「この構成なら、評価は取れる」
その言葉は褒め言葉のはずだった。
でも、ひよりは少しだけ目を伏せた。
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相沢は、その空気を見てしまう。
(“評価”って何だ?)
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神谷は続ける。
「去年より良くなってる。ちゃんと“見せるための作品”になってる」
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その瞬間。
ひよりが小さく言った。
「見せるため、か……」
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静かだった。
でも、その一言だけが重かった。
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神谷は気づいていないのか、気づいていて言っているのか。
「問題あるか?」
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ひよりは少し笑って、首を振る。
「ううん、大丈夫」
でもその笑顔は、昨日よりも少しだけ固かった。
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神谷が去ったあと。
相沢は思わず言ってしまう。
「さっきの、なんか変じゃなかったか」
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ひよりはすぐには答えない。
カメラを見つめたまま、少しだけ沈黙する。
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そして小さく言った。
「神谷くんはね、間違ってないんだよ」
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「でも?」
相沢が聞くと、ひよりは笑った。
「でもね、たまに“正しさ”って、誰かを置いていくんだよ」
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その言葉の意味を、相沢はまだ完全には理解できなかった。
でも、胸の奥に引っかかった。
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帰り際。
ひよりがふと振り返る。
「相沢くん」
「うん」
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少しだけ間があって。
彼女は言った。
「もし、写真展来るなら……ちゃんと見てほしい」
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相沢は頷く。
「行くと思う」
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ひよりは少しだけ笑った。
でもその笑顔の奥に、何かが隠れている気がした。
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夜。
相沢はAIを開く。
でも、今日は質問が違った。
> 「正しいことを選ぶ人は、間違ってることをしてることになる?」
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返答はすぐ来る。
“倫理は状況により変化します”
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(また、正しい答えだ)
でも、心には落ちてこない。
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相沢はスマホを閉じる。
そして小さく呟く。
「……分からないこと、増えてる気がする」
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窓の外では、静かな夜。
でも物語は、もう戻れない場所に少しずつ進んでいた。
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