表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
12/14

第5話



---


# 『僕の友達はAIだったけど、君に出会って壊れた』


## 第5話 「写真展の日、壊れた笑顔」


朝から、学校の空気が違っていた。


廊下には普段より人が多い。


教室の前を通るたびに、「今日だよな」「白石のやつすごいらしい」という声が聞こえる。


相沢 恒一は、その中心に入れないまま歩いていた。


---


写真展は、旧校舎の一角で開かれていた。


白い壁に、写真が並ぶだけの簡単な展示。


なのに、そこには不思議な静けさがあった。


---


ひよりは、入口の近くに立っていた。


制服のまま。


いつも通り笑っているはずなのに、どこか“準備された笑顔”に見えた。


---


「来たんだ」


彼女は相沢を見る。


「うん」


短い返事。


それ以上の言葉が出なかった。


---


中に入ると、神谷 恒一がいた。


来客に説明をしている。


いつも通り、完璧だった。


---


「この作品は、日常の切り取りを意識して構成されています」


そう淡々と説明する姿は、まるで別の世界の人間のようだった。


---


相沢は壁の写真を見る。


どれも綺麗だった。


でも、どこか“整いすぎている”。


---


そのとき、ひよりの声がした。


「どう?」


---


相沢はすぐに答えられなかった。


---


「……すごいと思う」


それが精一杯だった。


---


ひよりは少しだけ笑う。


でも、その笑顔は昨日よりもっと薄かった。


---


「そっか」


---


その瞬間、神谷が近づいてくる。


「来場者の反応は良い」


ひよりに向かってそう言う。


---


「ありがとう」


ひよりは答える。


でも、その声は少しだけ遠かった。


---


相沢は気づく。


この場にいる全員が、“同じ場所にいない”。


---


そのときだった。


一人の来場者が言う。


「これ、すごく綺麗だけど……なんか寂しいですね」


---


その言葉に、ひよりの指が一瞬止まる。


---


神谷がすぐに説明する。


「それは意図的な演出です」


---


正しい答え。


完璧な言葉。


---


でもその瞬間。


ひよりの笑顔が、少しだけ崩れた。


---


相沢は見てしまう。


それは“崩れかけている笑顔”だった。


---


展示の最後の一枚。


教室の窓際。


そこに写っているのは、ひより自身だった。


でもその笑顔は、どこか“空っぽ”だった。


---


相沢は息をのむ。


「これ……」


---


ひよりは静かに言う。


「昔の私」


---


神谷が説明する。


「彼女自身を象徴する作品です」


---


その言葉のあと。


ひよりが小さく言った。


「違うよ」


---


静かだった。


でも、はっきりしていた。


---


神谷が振り向く。


「何が違う?」


---


ひよりは写真を見つめる。


---


「これ、笑ってるけどね」


---


少し間。


---


「本当は、笑ってないんだよ」


---


空気が止まった。


---


神谷は言う。


「作品としては成立している」


---


ひよりはゆっくり顔を上げる。


---


「作品じゃなくてさ」


---


声が少しだけ震える。


---


「私なんだよ、これ」


---


沈黙。


---


相沢は初めて分かる。


この展示は“成功”しているのに、ひよりはどこかで壊れている。


---


そのとき、ひよりが小さく笑う。


---


でもそれは、今までで一番弱い笑顔だった。


---


「ごめんね」


---


誰に向けた言葉か分からなかった。


---


神谷は少し黙ってから言う。


「問題はない」


---


その言葉が、最後の一押しだった。


---


ひよりは一歩後ろに下がる。


---


そして、ぽつりと言う。


「私ね」


---


「うん」


---


「ずっと、ちゃんと笑えてると思ってた」


---


相沢は息を止める。


---


「でも違った」


---


ひよりはカメラを見つめる。


---


「写真に撮られるために笑ってただけだった」


---


その瞬間。


何かが崩れた。


---


神谷は言葉を失う。


---


相沢は気づく。


これは“写真展の問題”じゃない。


---


ひより自身の話だ。


---


ひよりはゆっくり続ける。


「ねえ相沢くん」


---


「うん」


---


「人ってさ、どこから本当になるのかな」


---


その質問に、答えはなかった。


---


ただ、写真だけが静かに並んでいた。


---


そして夜。


相沢はスマホを開く。


AIに打つ。


> 「人は、自分の気持ちに気づかないまま生きることある?」


---


返答はいつも通りだ。


“あります”


---


でもその言葉は、今日は何も救わなかった。


---


画面を閉じる。


---


そして初めて思う。


「これ、もう“相談”じゃない」


---


窓の外では、夜が静かに落ちていた。


---


でも、物語はもう戻れないところまで来ていた。


---


## 第5話 終わり


---



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ