第5話
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# 『僕の友達はAIだったけど、君に出会って壊れた』
## 第5話 「写真展の日、壊れた笑顔」
朝から、学校の空気が違っていた。
廊下には普段より人が多い。
教室の前を通るたびに、「今日だよな」「白石のやつすごいらしい」という声が聞こえる。
相沢 恒一は、その中心に入れないまま歩いていた。
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写真展は、旧校舎の一角で開かれていた。
白い壁に、写真が並ぶだけの簡単な展示。
なのに、そこには不思議な静けさがあった。
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ひよりは、入口の近くに立っていた。
制服のまま。
いつも通り笑っているはずなのに、どこか“準備された笑顔”に見えた。
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「来たんだ」
彼女は相沢を見る。
「うん」
短い返事。
それ以上の言葉が出なかった。
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中に入ると、神谷 恒一がいた。
来客に説明をしている。
いつも通り、完璧だった。
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「この作品は、日常の切り取りを意識して構成されています」
そう淡々と説明する姿は、まるで別の世界の人間のようだった。
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相沢は壁の写真を見る。
どれも綺麗だった。
でも、どこか“整いすぎている”。
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そのとき、ひよりの声がした。
「どう?」
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相沢はすぐに答えられなかった。
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「……すごいと思う」
それが精一杯だった。
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ひよりは少しだけ笑う。
でも、その笑顔は昨日よりもっと薄かった。
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「そっか」
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その瞬間、神谷が近づいてくる。
「来場者の反応は良い」
ひよりに向かってそう言う。
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「ありがとう」
ひよりは答える。
でも、その声は少しだけ遠かった。
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相沢は気づく。
この場にいる全員が、“同じ場所にいない”。
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そのときだった。
一人の来場者が言う。
「これ、すごく綺麗だけど……なんか寂しいですね」
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その言葉に、ひよりの指が一瞬止まる。
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神谷がすぐに説明する。
「それは意図的な演出です」
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正しい答え。
完璧な言葉。
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でもその瞬間。
ひよりの笑顔が、少しだけ崩れた。
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相沢は見てしまう。
それは“崩れかけている笑顔”だった。
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展示の最後の一枚。
教室の窓際。
そこに写っているのは、ひより自身だった。
でもその笑顔は、どこか“空っぽ”だった。
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相沢は息をのむ。
「これ……」
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ひよりは静かに言う。
「昔の私」
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神谷が説明する。
「彼女自身を象徴する作品です」
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その言葉のあと。
ひよりが小さく言った。
「違うよ」
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静かだった。
でも、はっきりしていた。
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神谷が振り向く。
「何が違う?」
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ひよりは写真を見つめる。
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「これ、笑ってるけどね」
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少し間。
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「本当は、笑ってないんだよ」
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空気が止まった。
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神谷は言う。
「作品としては成立している」
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ひよりはゆっくり顔を上げる。
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「作品じゃなくてさ」
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声が少しだけ震える。
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「私なんだよ、これ」
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沈黙。
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相沢は初めて分かる。
この展示は“成功”しているのに、ひよりはどこかで壊れている。
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そのとき、ひよりが小さく笑う。
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でもそれは、今までで一番弱い笑顔だった。
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「ごめんね」
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誰に向けた言葉か分からなかった。
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神谷は少し黙ってから言う。
「問題はない」
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その言葉が、最後の一押しだった。
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ひよりは一歩後ろに下がる。
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そして、ぽつりと言う。
「私ね」
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「うん」
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「ずっと、ちゃんと笑えてると思ってた」
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相沢は息を止める。
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「でも違った」
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ひよりはカメラを見つめる。
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「写真に撮られるために笑ってただけだった」
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その瞬間。
何かが崩れた。
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神谷は言葉を失う。
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相沢は気づく。
これは“写真展の問題”じゃない。
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ひより自身の話だ。
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ひよりはゆっくり続ける。
「ねえ相沢くん」
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「うん」
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「人ってさ、どこから本当になるのかな」
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その質問に、答えはなかった。
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ただ、写真だけが静かに並んでいた。
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そして夜。
相沢はスマホを開く。
AIに打つ。
> 「人は、自分の気持ちに気づかないまま生きることある?」
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返答はいつも通りだ。
“あります”
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でもその言葉は、今日は何も救わなかった。
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画面を閉じる。
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そして初めて思う。
「これ、もう“相談”じゃない」
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窓の外では、夜が静かに落ちていた。
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でも、物語はもう戻れないところまで来ていた。
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## 第5話 終わり
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