仕組まれた皇女
扉が閉じ、足音が遠ざかるのを確認してからエリアスが口を開いた。
「さあ、話してもらおう、フェルネス」
「さもありなん」
フェルネスは静かに答えた。
「私はただ、愛する姉上の名誉を守りたかっただけだ。婚姻中に浮気しただの、ふしだらだの……そんな噂をされるのは許せない。それだけだ。
ターシャが皇帝の娘であったということになれば、そんな噂は消し飛ぶ。それだけの話だ」
――そう、この男はそういう者なのだ。
亡き姉のことしか考えていない。
フェルネスはさらに続けた。
「他にいい方法があるならそれに従う。どうですか、義兄上。
あの子が孤児院にいた時、義兄上が現れ、国王陛下も認めてくださった。公爵夫妻も歓迎してくれているというので、私は信頼して義兄上に預けた」
一度言葉を切る。
「私個人の力では、あの子を育てることは不可能だったからだ。今まで本当に感謝している。
だが、その結果が宮廷内での『不義の子』呼ばわりだ。私がそのままにしておくわけがあるまい」
エリアスは苦くうなずいた。
「それは……私の考えが甘かったことは認める。だが、いきなり皇帝の娘という話はいったいどうして出たのだ?」
「最初は国王陛下からの提案だった」
フェルネスは語り始める。
「ターシャを皇帝の養女にしてはどうか、と」
エリアスが眉をひそめる。
「陛下はこうおっしゃった。
『妹が内乱の時に別れてしまった娘を探してくれと言っている。だが本物はもう亡くなってしまっている。両親を亡くしたターシャを代わりにできないか』と」
フェルネスは続ける。
「ターシャに対する噂があまりにもひどかったからな。国王陛下も非常に胸を痛めておられた。
自分の命令で命を落とした妹君の恩人が、間男扱いされている事実はお辛かったのだろう」
フェルネスは淡々と言った。
「私も姉上がいろいろ言われるのが嫌だった。それで陛下の提案に乗った」
少し息をつく。
「だが、奇跡というのは本当にあるものだな。
まさかターシャが本物の皇族だとは」
「国王は薄々感づいていたようだが」
エリアスが問い返す。
「皇太子もグルだったのか?」
「ああ」
フェルネスはうなずく。
「母親が、自分の産んだ娘がまだ生きていると信じて探そうとしている。それを見て胸を痛めていたのだ。
事実を伝えるのは辛すぎると」
フェルネスは腕を組んだ。
「そこで私は、ターシャの身の上とクラウス兄上の娘であること、そして現在の境遇を話した。すると皇太子は進んで話に乗ってくれた」
「最初の計画はこうだった」
「ターシャと皇后陛下を引き合わせる。
その後、養女として引き取っていただく」
「そして様子を見てから、本物の皇女が亡くなったことを正直に伝える。髪と瞳の色が似ているから都合がよい、と」
フェルネスは肩をすくめた。
「そして周囲には『皇女が見つかった』と触れ回り、既成事実を作る。……そのはずだった」
少し沈黙が落ちる。
「ところがだ」
フェルネスは言った。
「耳飾りが光り、皇后陛下はいきなりターシャを我が子と認めてしまった」
エリアスは深く息をつく。
「真実はいずれ知られるであろうが、少なくとも皇族の血筋である娘を皇帝陛下は悪いようにはするまい。ここにいて不義の子扱いされる未来より、はるかにいい」
「皇帝陛下がどう動くかわからぬではないか」
「確かにそれはわからぬ。だが少なくとも、悪いようにはなさるまい」
エリアスは低くつぶやいた。
「しかし皇族の血筋とは……。ロザーリアはれっきとした王女だ。では父親のクラウスは何者だったのだろう?」
フェルネスは首を振った。
「わからぬ……。いずれそれも明かされるだろう」
エリアスは思い出したように言う。
「皇太子殿下とクラウス。
他人の空似にしては似すぎていると思わなかったか?」
フェルネスは少し考えた。
「私が会ったのは殿下がまだ幼い頃だ。その時は似ているとは思わなかった。だが今回再会して、本当に驚いた」
エリアスはつぶやく。
「クラウスはいったい何者だったのだろう……」
二人はそのまま黙り込んだ。
外の闇は静かに深さを増していく。
その時、部屋の扉の向こうから執事が来客を告げた。
「来客でございます」
エリアスは顔をしかめた。
「大事な話の最中だ。前触れもなく来るような者は追い返――」
そこまで言いかけた時だった。
執事の背後から、黒髪の大男がずかずかと部屋に入ってきた。
「私もその話に入れてもらおうか」
男は当然のように椅子に腰を下ろす。
「お茶を頼んでいいかな?」
執事は一礼した。
「かしこまりました。皇太子殿下」
長身男、3人が揃いました
部屋狭そう・・・・




