皇女発覚
皇后はターシャの手を取り、隣に座らせて懸命に話しかけている。
その横ではレオンハルトが部下に命じていた。
「父上に伝令を出せ。行方不明だった皇女を見つけた。連れて帰るとな」
その言葉がはっきりと耳に入った。
「やめてくれ……連れていかないでくれ……私の大事な娘なのだ……」
エリアスの小さなうめき声は、周囲の物々しい空気にかき消されてしまった。
ターシャは皇后からこれまでのことを次々と尋ねられ、適当に答えを流していた。
しかし、父がうなだれている姿を見た瞬間、胸が締めつけられる。
話を遮り、立ち上がる。
そして駆け寄り、その腕にしがみついた。
「ありえません!」
はっきりと言い切る。
「私の母はエルドリア王国王女ロザーリア!
そして父は、この国の国王陛下の甥で公爵の嫡子であるエリアスお父様です!」
「ターシャ……」
エリアスはかすれた声でつぶやき、娘を強く抱きしめた。
その様子を見ていた初老の女官が、静かに前へ進み出る。
衣装からして帝国側の女官だった。
「奥様、それにぼっちゃま」
落ち着いた声が場を包む。
「これほど賢い姫様に、いきなり母親だと名乗られても簡単には受け入れられないでしょう」
女官はゆっくり続けた。
「ここは一度、公子様のもとへお返しになり、もう少し段取りを整えられてはいかがでしょうか。
公子様も姫様を大切に育ててこられたご様子。いきなり連れ去るのは、いささか無慈悲ではございませんか」
場が静まり返る。
しばしの沈黙の後、皇太子が口を開いた。
「……そうだな。こちらにも迎える準備が必要だ。少し時間を置こう」
低く続ける。
「だが猶予はない。皇族とわかった娘をこのままにしておくことはできない。
我が国へ連れて帰ることは決定事項だ」
皇后が目を真っ赤に腫らしたまま言った。
「わかりました。エリアス、急に押しかけてしまって悪かったわ。わたくしも感激のあまり我を忘れてしまいました」
ターシャの手をそっと握る。
「少し時間をかけましょう。ターシャちゃん。私たちは必ず親子になれると信じています」
「私からもよく言い聞かせよう。少し待ってくれ」
国王も重々しく言葉を添えた。
エリアスは立ち上がりながら考えていた。
――フェルネスと話をしなければ。
亡き元妻の実弟、フェルネス。
あれほど姉を慕い、その忘れ形見であるターシャを溺愛していた男だ。
それなのに、遠く離れた帝国へ引き渡すことを承諾した。
なぜだ。
エリアスは「とにかく時間をください」とだけ告げ、ターシャを連れて供の者と共に帰路についた。
ターシャは他人なのに自分を娘として溺愛してくれる父を本当に慕っています
次回、やっと準主役(と私が勝手に思っている)フェルネス登場です




