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皇女の帰還 ―約束の耳飾り―  作者: 鶴見 日向子


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婚約

グランディル帝国では・・・・

「とてもいいお話だと思いますわ」


皇后陛下はうれしそうに声を上げた。


「見たところ、とても好青年でしたよ。移動の馬車の中で聞いたのですが、侍女たちの評判もとてもよかったです。魔力も問題なし。昔クラリスちゃんをいじめていた方とは別人だったのなら、何も問題ないと思いますわ」


シャローヌも言う。


「父上、こんな良縁、まさか断るつもりではないでしょうね?」


皇太子も口をはさむが、少々棒読み気味である。


(シャローヌに言いくるめられているな)


と皇帝はひそかに思った。


皇太子はシャローヌの目が治ってから、さらにシャローヌに弱くなっている。


クラリスの帰国後、一週間も経たぬうちに、カイレス王太子とクラリス皇女との縁談が持ち込まれた。


「本当に血のつながりはないのだな?」


皇帝が資料を見ながら言う。


「この資料には、元はロザーリア王女とエリアス公子の実子と書いてある。その通りなら異父兄妹になるではないか」


「大丈夫です。私がちゃんとそれも確認いたしました」


シャローヌが胸を張る。


「まったくの赤の他人。血のつながりはございません」


「それがなぜ王太子なのだ?実際の親は誰なのだ?」


「そこはまあ……フェルネスもあまり触れてほしくないみたいで……。詳しいことをこっそり調べさせたのですが、皆口が堅くて何もわからず……。仕方がないので、エルドリアの王太子に相談したところ、事情を話してくれました」


「ほお……話してみよ」


「前国王が、公爵家の養女であったカトリーナ嬢を、自分の話し相手にと呼び出して……そこで……」


「前国王といえば、かなりの年寄りだったではないか。カトリーナ嬢はいくつだったのだ?」


「十四歳になったばかりだったそうでございます」


「気分が悪くなってきた……そのようなことをする人物だったとは……」


「呆けておられて……見境がなくなっていたようです」


「それで?」


「カトリーナ嬢はショックで正気を失ってしまい、ロザーリア王女が『嫌な記憶のある場所にいない方がよい』と自国へ連れ帰られたそうです」


「そこでカトリーナ嬢がフェルネスを見て気に入ってしまい、お腹の子はフェルネスとの子だと妄想してしまったそうです」


「フェルネスは何もかも承知の上で『生まれたら自分の子として育てる。カトリーナ嬢があまりにも気の毒だから、自分でよければ結婚してもいい』と言ったそうです」


「実際、夫婦のように振る舞っていたと……表面上だけですが。フェルネスもまだ子供でしたから。ただ背が高かったため、大人の男に見られてしまったそうです」


「フェルネスは、自己肯定感が低すぎる。その頃からだったのか……」


皇帝がつぶやく。


「それからどうなったのだ?」


「カトリーナ嬢は、生まれた我が子を見て真実を思い出し……侍女が目を離したわずかな隙に……窓から身を……」


全員が言葉を失った。


「それで、生まれた子はエアリス殿が父親で、ロザーリア王女が産んだことにして、そのままエルドリアで育てられたそうです」


「まだ子供だったフェルネスは『自分のせいではないか』と悩み、女性に対して強い苦手意識を持つようになったと……」


「哀れだな……フェルネスにそんな過去があったのか……」


「アストリアの王太子もそう言っていました。『フェルネスをもっと理解してほしいから事実を話す』と。くれぐれも皇帝ご夫妻と皇太子夫妻以外には話さないでほしいとのことです」


「カイレス王太子はその事実を知っているのか?」


「ご存じだそうです。国王自ら話をされて、王室に迎え入れたそうです」


「そういう事情か……」


皇帝はゆっくり息を吐く。


「まあ、異父兄妹ではないことはわかった。クラリスも表向きは私と后の娘。いとこ同士の結婚だ。何も言われることはあるまい」


「それでは?」


皇太子が身を乗り出す。


「嫁に出す気はなかったのだが……」


皇帝は一度、目を閉じた。


「葬儀の支度をする覚悟までしたのだ。それに比べれば、嫁に出すなど安いものだ」


「アストリアなら皇后の母国でもあるし近い。正式にこちらからも話を受けると使者を出せ」


皇帝は鐘を鳴らした。


ドアの外に立っていた侍従が入ってくる。


皇帝は自ら書いた書面を封書に入れて封をし、


「アストリア国王に至急届けよ」


と侍従に渡した。


侍従は礼をして、すぐに部屋を出ていく。


「よかったです!あの方ならクラリスちゃんも幸せになれます!」


シャローヌは皇后と抱き合って喜んだ。


しばらくしてクラリスが呼ばれて入ってきた。


「お呼びでしょうか?」


「そなたの婚約が決まった」


クラリスは一瞬、さみしそうな表情を浮かべたが、すぐに表情を整えた。


「わかりました。私もお兄様とお姉さまのような夫婦になれるよう努力いたします」


「相手だが……」


「はい……領内の方ですよね?どなたでしょうか?皇女として国に残り、帝国のために……」


「待て待て、早とちりをするな」


皇帝は笑う。


「嫁には出さないと言っていたが取り消す。アストリアから、そなたを王太子妃として迎えたいという正式な申し出があった。それを受諾した」


クラリスの顔が少し曇る。


「ダストス様ですか?」


前の王太子の可能性を思ったのだ。


「違う。カイレス殿だ」


皇帝は言った。


「そなたの成人の舞踏会で、フェルネスと踊るそなたを見初めたそうだ。まあ簡単に言えば『一目惚れ』なのだろう」


「それから一緒に魔獣を討伐し、そなたと療養中に話をして、さらに惹かれたと」


「昔の妹だったことは関係ない。今のそなた、『皇女クラリス』に惹かれたそうだ」


クラリスは全身真っ赤になった。


「本当に? 本当ですか?」


信じられないという顔をする。


「うれしいです……カイレス様が私を娶ってくださるなんて」


「やったわね、クラリスちゃん!よかった!」


シャローヌが抱きつく。


「お姉さま、気が付いて……」


「当たり前でしょう?帰国してからのあなた、ずっと上の空で誰かを想っていたの。すぐにわかったわ。カイレス様以外いないもの」


クラリスは恥ずかしそうに下を向いた。


「もう下がってよい。これから嫁入りの準備が必要だ。皇后と皇太子妃にいろいろ教えてもらいなさい」


「はい」


クラリスは満面の笑顔で部屋を出ていった。


「これでフェルネスも肩の荷がおりるであろうな。自分の姪と姉と義兄と一緒に育てた甥の二人が夫婦になるのだ……こんな奇跡はあるまい」


皇太子がつぶやく。


「そうなのか?フェルネスも賛成しているのか?」


皇帝が驚く。


「ええ。もしかしたら、このような未来を予測していたのかもしれません。最初から」


皇后が微笑む。


「予測というより、そうなるようにフェルネス様が仕向けた気がしますわ」


「頭が切れる方ですから、十分あり得ます」


シャローヌも笑う。


四人は顔を見合わせて笑い合った。


「娘を嫁に出すとは、複雑な気持ちになるものだな……」


「そうですね。私も同じような気持ちです」


父子二人は少し暗い顔をする。


その横で――


「近い国なのですから、すぐに会いに行けますわ。私も里帰りの回数を増やしますわ」


「お義母さま、留守番はお任せください。でも時々私と交代してくださいね」


「陛下、移動の魔法陣をアストリアとの間にも作ってくださいませ」


姑と嫁は楽しそうにはしゃぐ。


「女性は強いな」


皇帝と皇太子は顔を見合わせ、思わず笑った。


「エルモンド。城内と国内に皇女の婚約を知らせる触れを出せ」


「はっ!」


エルモンドの軽やかな足音が廊下に響いた。

私も願いが叶って胸がいっぱいです

「昔兄妹として、育った2人が別れて、後に再会して結ばれる」というのをベースにして、この話を書いてきました。

とうとう婚約まで描く事ができました

あと数話お付き合いください

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