背中を押す者たち
フェルネスの地味だけど「亡き姉命」発動が見える回です
「あの二人、いい感じではなくて?」
公爵夫人がにこにこと笑う。
「いい方に話が向いてくれるといいのですが」
フェルネスも笑った。
「あら、大事な姪が他の男に取られても大丈夫なの?」
「亡き姉が『二人が将来いっしょになったらいいな』と時々言っていました。その通りになるのなら、私はうれしいです」
(この方は相変わらず『姉上がすべて』なのね)
公爵夫人は苦笑した。
「ところで、エリアス義兄上は亡くなったとずいぶん前に伺っていたのですが……」
「応接室で話しましょう」
夫人はそう言うと、フェルネスを応接室へ案内した。
部屋に入ると人払いをし、フェルネスをソファーに座らせ、自分は向かい側に腰を下ろす。
「あなたとターシャちゃんが帝国へ行った後、あの子はすっかりふさぎ込んでしまってね。ずっと部屋に閉じこもりがちだったの。そのすぐ後にカイレス様が帰国なさって、少し元気になったように見えたのだけれど……またふさぎ込むようになってしまって……」
夫人はゆっくりと話す。
「あなたは知っていたのでしょう?あの子の本来の願望を」
「ええ、姉との秘密でした。姉は『自分も男にしか見られないから気持ちが理解できる』と受け入れていましたが……私は正直、無理でした」
「ロザーリア様には本当に申し訳ないことをしたわ。クラウス様との婚約を、結局あの子の“不用意な一言”のせいで壊してしまった」
「夫人のせいではありません。誰も悪くないと思います。夫人は、いつ気が付かれたのですか?」
「あの子が自ら命を絶とうとした時……」
夫人は小さく息を吐いた。
「カイレス様が見つけて、寸前のところで止められました。もっと早く打ち明けてくれていたら……」
夫人はそっとハンカチで涙をぬぐう。
「アルフレッドという医師にずっと診てもらっていたのですが、
『自分が自認している性別にするしか命を助ける方法はない』と説明されてね……」
「だから、表向きは死んだことにして、あの別邸で女性として暮らせるように手配しました。ずいぶん驚いたでしょう?だけど、そうしないとあの子を永遠に失ってしまうと思ったの」
夫人は少し言葉を止める。
「だけど、公爵家の体面もあるから……。それに、私も正直、すべてを受け入れられているわけではないの。主人はなおさらよ」
「私でも受け入れられていないのです。実の親ならなおさらでしょう。ご自分を責めたりしないでください」
フェルネスは静かに言った。
「私には子供は居ませんが……もしカイレスだったとしたら、思っただけで胸が張り裂けそうになります」
「ありがとう」
夫人は小さく微笑む。
「でも、女性の格好をするようになったあの子は、とても明るくなって……生きていてくれてよかったとは思うの」
「私もそうです。再会した時には本当に驚きましたが……」
「びっくりしたでしょう?」
「はい。現実とは思えませんでした……過去の幻想を見ているのかと」
「場所が場所でしたものね」
「はい。あの別邸で、姉とドレスの着せ合いをしていました……姉も決して女性らしい体形ではなかったので……」
フェルネスの目が遠くなる。
その時、ドアがノックされた。
「入ってもよろしいですか?カイレスです」
「どうぞ」
夫人が返事をする。
カイレスが部屋に入ってきた。
「二人ともひどいですよ。クラリス皇女がターシャだったなんて。びっくりしました。どうして先に話してくださらなかったのです?」
「国王陛下に『カイレス様には話すな』と口止めされていたからです。皇女が実は皇帝の実の娘ではないということが、こちらで広まると困りますから」
夫人が言う。
「私には話してくれていてもよかったじゃありませんか!」
カイレスはむくれた。
「兄妹として共に暮らしたのは幼い頃だけ。しかも皇女殿下が物心つくと同時に海外に留学してしまった。そなたのことなど、クラリス皇女殿下はおそらくもう覚えていないと思っていた」
フェルネスは肩をすくめる。
「覚えていたことに、むしろ驚いた。そなたの方こそ、顔を見れば気が付くと思ったのに、まったく気が付いていなかったではないか。忘れ去っていたのは、そなたの方であろう」
「あれは仕方ないでしょう!」
カイレスは言い返す。
「皇帝陛下の身内の養女になった。養女だと知られると困るから、養女に行った先の身元は明かせないと言われたら、皇女になっているなんて思わないじゃないですか!」
フェルネスは少し表情を変えた。
「クラリス皇女がターシャだと知っていても、最初に見た時の気持ちは変わらなかったか?」
「そ、それは……」
カイレスは言葉に詰まる。
「わかりません……。わかりませんが、今も気持ちは変わっていません」
「命がけで王太子の座を勝ち取ったのだ。そうでなければ困る」
フェルネスは笑った。
「そうね」
夫人もやさしく微笑む。
「せっかく、あなたがその気になってくれたのですから」
読んでいただきありがとうございます
さあ、どうなるのか、お楽しみいただけますと幸いです




