余波
まもなく、公爵家から迎えの馬車が数台到着した。
シャローヌを出迎えた兵士が後を追いかけて一部始終を目撃し、公爵家へ報告していたのだ。
すでに、グランディル帝国へも国王からクラリス蘇生の知らせが送られていた。
一命を取りとめたクラリスと、心労で気絶してしまったシャローヌは、公爵家の私兵たちによって馬車で公爵邸へ運ばれることになった。
倒れた二人が乗る寝台付きの大型馬車には、侍女たちとエリアスが一緒に乗り込んでいた。
「男性は邪魔です」
と、フェルネスと王太子は追い払われた。
二人は顔を見合わせ、つぶやく。
「解せぬ」
先導する馬車の中で、フェルネスと王太子が話していた。
「すみません。私にはもう、飛竜に乗る魔力が残っておりません。あれは……思った以上に硬かった。切れてよかった」
王太子がフェルネスに詫びる。
「私も動くだけで精一杯だ。かなり魔力を消耗した。公爵邸でしばらく休ませてもらう予定だ」
フェルネスも言った。
「そなたが来てくれてよかった。クラリス皇女では魔力があっても、力で押し負けたかもしれぬ」
「お役に立ててよかったです。クラリス皇女さまも助かってよかった。あの妃殿下のおかげですね。
あの妃殿下の様子を見ると、ターシャも帝国でとても大事にしてもらっているのでしょうね」
「ああ。本当に実の娘以上に大事にされている。皇太子妃殿下は自分も他所から来られた方なので、余計にクラリス様がかわいくて仕方がないのだ」
「義理の妹のために自ら飛行魔獣で飛んでくるくらいですから。しかし、すごい魔力量なのですね。あの短時間で飛行魔獣を到着させるとは……。ついでに、別邸もかなり破壊されましたね」
そう、シャローヌが別邸の屋根に飛び降りた際、その衝撃で屋根に大穴が開いた。
さらに、クラリスのいる部屋へ向かうため、前を阻む壁や窓ガラスを魔法で破壊しながら一直線に突き進んだため、別邸は使い物にならなくなってしまったのだ。
そのため、公爵邸へ移動することになったのである。
「ほぼ魔力量だけで皇太子妃に選ばれたお方だからな……」
フェルネスが遠い目をする。
「そうなのですね。初対面は強烈でしたが、お顔が治られた後はとてもおきれいで、てっきりそれで皇太子に見初められたのかと思いました」
「実は、メガネをかけていないお顔を拝見するのは私も初めてでびっくりした」
「そうなのですか?」
「いつも分厚いメガネをかけておられた。皇太子が『妃の素顔を見ることができる男は私だけだ』と時々言うのがわずらわしかった……」
「お熱いですね」
王太子は少し顔を赤くした。
「メガネが必要なくなったと知ったら、皇太子殿下はどういう反応をされるのでしょうか?」
王太子がふと笑う。
「そうだな……それは私も見てみたかった」
フェルネスも笑った。
2人はそのまま黙り込んだ。疲れが2人を無言にさせていた
1時間ぐらい経過した後
「もうすぐ公爵邸に着きます」
従者から声がかかる。
「わかった」
王太子が頷いた。
馬車が停まる。
二人は馬車から飛び降り、クラリスとシャローヌの乗った馬車を出迎えた。
シャローヌが先に馬車から降りてきた。
その後に、クラリスが寝かされた寝台が従者たちによって屋敷の中へ運ばれていく。
「ごめんなさいね……夢中だったから……。お屋敷、修繕できるかしら?」
シャローヌが申し訳なさそうに言う。
「そのおかげで間に合ったのですから。別邸ぐらい惜しくはありません」
後から出迎えた公爵が言った。
「初めてお目にかかります。皇太子妃殿下。この屋敷の主人、この国の国王の弟で公爵をしております」
公爵が跪く。
「妻でございます。どうぞ、しばらくゆるりとお過ごしくださいませ」
「ありがとう。でも、今すぐレオンハルト様がいる屋敷に向かいます。もうすぐ迎えの者がやってきます。馬車の中から連絡を取りました。」
「もう少し休まれた方が」
「馬車の中で休めたわ。クラリスちゃんは落ち着いているし、レオンハルト様も重傷を負われているそうです。妻の私が看病しないで、誰がするのです?」
シャローヌはにっこりと笑った。
「双子を育てた体力は並大抵ではないのよ。心配しないで。それにね、目が完全に治ったって、早く殿下にお知らせしたいの」
シャローヌは頬を赤く染めた。
「あのお医者さま、すごすぎます。あっという間に目を治してくださって、びっくりです。お礼を言いたかったのに、もういらっしゃらないのですね」
「ええ、負傷者の治療に向かいました。昔からの知人でございます」
王太子は笑った。
フェルネスは、たまたま別邸に居合わせたのが本当に偶然だったのか、よくわからないと感じていた。
「とても不思議な男でして……昔から神出鬼没です。何かあると現れて手助けしてくれるのです」
王太子がさらに言う。
「フェルネス様、クラリスちゃんと久しぶりの対面ね。積もる話もあるでしょう」
シャローヌはにっこりと笑う。
「なつかしいわ……初対面の時、親子と間違えちゃったのよね、私。今回の魔力騒動で思い出してしまいました」
耳元で小声でささやかれ、フェルネスは冷や汗をかく。
「あのね、あの時は言わなかったけど、『たまにいる』の。見た目の性別と中身の性別が違う人。オーラでわかるの。『あの方』もそうなのだと思うわ。見た目じゃなくて中身を見て差し上げて」
シャローヌはエリアスの方を見つめた。
そこに飛竜に乗った二人の騎士がやってきた。
「妃殿下、お迎えにまいりました」
ジュリアンヌである。
ジュリアンヌは今回の討伐に参加していた。
「それでは確かに案内いたしました」
もう一人のアストリアの騎士が帰っていった。
ジュリアンヌを公爵邸まで案内してくれたようだ。
「妃殿下、メガネがないようですが、大丈夫でございますか?」
「治ったのよ。こちらのお医者様が治してくださったの」
「それはようございました。皇太子殿下も喜ばれるでしょう。命に別状はありませんが、魔力減少と火傷でうなられておられます。妃殿下が看病されたら回復も早まると思います」
ジュリアンヌは笑う。
「フェルネス様、お久しぶりでございます。今回のご活躍、見事でございました。クラリス様をくれぐれもお願いいたします」
「あの頃は世話になった。ここは皇女様が帝国に戻られる直前まで住んでいた屋敷。祖父母の家のようなものだ。心配しないでほしい」
「フェルネス様がご一緒であれば、心配などいたしません。それでは私達は参ります」
ジュリアンヌが敬礼した。
「挨拶はもういいわね。飛竜じゃ遅いから、私の飛行魔獣で飛びます。ジュリアンヌは私の後ろに乗って道案内しなさい」
「かしこまりました」
シャローヌは片手を上げ、自分の飛行魔獣を呼び寄せた。
ジュリアンヌが先に乗り、その後にシャローヌがジュリアンヌの前に乗る。
「では、みなさまごきげんよう。クラリスちゃんをお願いします」
二人が乗った飛行魔獣は、あっという間に空の向こうへ消えていった。
なつかしい公爵家、再登場です
フェルネス、当時は居候でしたね(笑)




