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皇女の帰還 ―約束の耳飾り―  作者: 鶴見 日向子


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救世主登場

魔力切れで瀕死となったクラリスを、フェルネス、王太子、エリアス、そして医師が囲んでいた。


フェルネスは必死にクラリスの手を握り、


「頼む……少しでも私の魔力を吸ってくれ」


しかし無情にも、手から吸収される魔力量はわずかだった。


「本人の魔力があれば一番なのですが……。しかし、わずかでも吸収されているのなら、望みを持つしかありません」


医師が静かに言う。


この場でクラリスと魔力が最も近いのはフェルネスしかいない。

だが、そのフェルネスの魔力ですら役に立たないのだ。


「せめて、ご両親がいらっしゃれば……」


医師がつぶやいた。


フェルネスは「はっ」とした表情を浮かべ、懐から肌身離さず持ち歩いていた袋を取り出した。

袋の中から指輪を取り出し、クラリスの指にはめる。


すると指輪が淡く光り、その魔力が少しずつ吸収されていくのが分かった。


皆の目に、わずかな希望の光が宿る。


「姉上、クラウス兄上……どうか、この子を助けてください」


フェルネスはさらに自分の魔力を流し続けようとする。


「フェルネス叔父上、もうおやめください。叔父上が魔力切れを起こしてしまいます。私も魔力を流してみましたが、全く吸収されませんでした」


王太子が止めた。


「少しは増えましたが……足りません」


医師の言葉に、皆の顔は再び絶望に染まる。


その直後だった。


屋敷の上方から轟音がとどろき、何かが吹き飛ばされるような音が響いた。


皆が驚く間もなく、ほぼ同時に


バーン!


と勢いよく部屋のドアが開かれる。


「クラリスちゃん!!間に合った!!」


女性の声が響いた。


そして部屋に勢いよく入ろうとして、その女性はけつまずき、顔面から床へと倒れ込んだ。

顔を強打し、何かが壊れる音がする。


「そ、その声は……シャローヌ様?」


フェルネスが驚いて叫ぶ。


「その声はフェルネス様!こ、これをクラリスちゃんに!」


女性は、手に握りしめていた小さな袋を必死に持ち上げる。


それを受け取り、中を開けると小さな箱が入っていた。


「その中の物に、クラリスちゃんの魔力が詰まっています。肌に当ててください!すぐに、早く!クラリスちゃんの魔力がもうわずかしかない!!」


赤毛の女性は、血だらけになった顔を上げて叫んだ。


箱を開けると、中には昔クラリスがつけていた耳飾りが入っている。


「承知いたした」


フェルネスはすぐにその耳飾りをクラリスの額に当てた。


まばゆい光がクラリスの体を包む。

さらにもう一つも当てると、真っ青だったクラリスの顔色が、はっきりと肌色に戻っていく。


「やりました。最低限の魔力が戻りました。持ち直しましたぞ!」


医師が歓喜の声を上げた。


クラリスはその声に反応し、うっすらと目を覚ます。


「ここは……どこ?

ま、魔獣は?」


あわてて起き上がろうとするのをフェルネスが止めた。


「魔獣は駆除できた。そなたは魔力切れを起こし、命を落とす寸前だったのだ」


「クラリスちゃん、間に合った……よかった……なんだけど、誰か助けて……」


床に突っ伏した女性が弱々しく声を上げた。


「も、申し訳ありません。ついクラリス様の方ばかりに気を取られてしまって……」


フェルネスが慌てて駆け寄ろうとする。


「わ、わかります。私もクラリスちゃんの近くに行きたいのですが……目が……。

私のメガネ、そこら辺にありません?」


王太子が気の毒そうに、片方が粉々になり、もう片方にヒビが入った残骸を差し出した。


シャローヌはそれを触り、絶望的な顔をする。


「眼鏡がないと何も見えないのです……。誰か、起こして……助けて……」


王太子がシャローヌの手を取り、


「立ち上がれますか?」


と優しく声をかけた。


シャローヌは、クラリス皇女の耳飾りを守るため、顔面から倒れ込んだのだ。

自分の身を挺して、クラリスの魔力を守ったのである。


王太子は感動していた。


彼はシャローヌを立ち上がらせると、軽々と抱き上げた。


クラリスは枕に頭をつけたままシャローヌの声を聞き、目を丸くする。


「クラリスちゃんが魔力切れで危篤って聞いて、陛下からそれをお預かりしたの。あの場で飛行魔獣に乗れるのが私しかいなかったのよ。飛竜じゃ間に合わないから。間に合ってよかった」


シャローヌの顔は、涙とずるむけになった皮膚からの出血、鼻血などでぐちゃぐちゃである。

耳には壊れたメガネのつるが残ったままだった。


「すぐに手当を。クラリス様はもう大丈夫でございます」


王太子がシャローヌをそっと降ろした。


医師がシャローヌの手を取り椅子に座らせ、手から魔力を出して傷口をふさいでいく。


出血は止まり、ずるむけた皮膚は元通りになった。


「ついでです。その眼鏡の残骸を見せてください」


医師がヒビの入ったレンズをいろいろな角度から見る。


「ふむ、これくらいであれば……ちょっと目を触りますよ」


医師がシャローヌのまぶたを開け、瞳をじっと見つめる。


「ふむ、いけるぞ」


そうつぶやくと同時に、医師の指から細い光が出てシャローヌの目に当たった。


「もう片方もします。少しまぶしいですが我慢してください」


同じようにもう片方の目にも魔力の光が当たる。


「一度目を閉じてください。……では開けてみてください」


「え?み、見えます!メガネかけていませんよね?」


シャローヌが自分の目の周りを手でなぞった。


いつも分厚い瓶の底のようなメガネをかけた顔しか知らなかったフェルネスは、面食らったような顔をした。


それをクラリスは見逃さなかった。


「クラリスちゃん、よかったあああ!!」


シャローヌは叫び、ベッドに駆け寄りクラリスの手を握りしめて頬ずりした。


そしてわあわあと声を上げて泣いた。


せっかくきれいになった顔が、また涙と鼻水でぐちゃぐちゃになる。


「あの方は?お姉さま?」


王太子が不思議そうな顔をする。


「グランディルの皇太子妃殿下だ」


「へっ???」


その場にいた一同は一瞬唖然としたが――


一斉にその場で跪いた。


「皇女さまをお救いいただき、深く感謝いたします」


フェルネスの言葉とともに、全員が頭を下げた。


「ううん、姉が妹を助けるのは当たり前。こちらこそ、クラリスちゃんを守ってくれてありがとう。私の大事な大事な妹が助かってよかった。ありがとう、ありがとう」


そしてまたボロボロと涙を流す。


「お姉さま、本当にありがとう。私はもう大丈夫です。だから、少しお休みください。相当急いで飛んできたのでは?」


彼女のボサボサに広がった赤毛を見てクラリスは言った。


「クラリスちゃんのためなら何でもないわ。でも確かに、ちょっと疲れたかも……」


シャローヌはクラリスの寝ているベッドの上にどさっと倒れ込んだ。


「お姉さま?」


クラリスが慌てる。


医師がそっと脈を取り、全身を見る。


「緊張から解放されて気持ちが緩み、失神されたようです」


クラリスも驚きと安堵で再び気が遠くなり、目を閉じた。


こうしてクラリスは、生死の境から生還を果たした。

ほっと一息です。シャローヌがんばりました

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