緊急招集 ― 三つ首の巨獣 ―
「皇太子とクラリスを呼べ。あと、飛行部隊の隊長もだ」
皇帝は近くに控えていた侍従に命じた。
「……杞憂であってほしいものだ」
その後、皇帝の執務室には皇太子、クラリス、飛行部隊隊長、そしてシャローヌが集められた。
皇帝が口を開く。
「巨大生物が海を渡り、大陸に近づいているらしい。シャローヌがいた部族の者がわざわざここまで来て、警戒すべきだと告げてきた」
「飛行部隊隊長。飛行魔獣に乗れる者を現地へ監視に向かわせてくれ。念のためだ。移動部族の者たちと合流し、状況を確認せよ」
「はっ。すぐに手配いたします」
飛行部隊隊長は敬礼し、部屋を出ていった。
皇帝は残った者たちを見回す。
「そなたたちはどう思う?」
皇太子が答える。
「わざわざ南の地から飛んで来たのでしょう? そこまでするということは、本当に深刻なのではないでしょうか」
「私も……あの、お姉さまを、その……」
クラリスが言いよどむと、シャローヌが小さく笑った。
「いいのよ、クラリスちゃん。私のことは気にせず、思ったことを言って」
「すみません、お姉さま。……あの薄情としか言いようのない部族の方々が、こちらまで来たというのは、よほどのことではないかと思うのです」
クラリスの言葉に、シャローヌも真顔で頷いた。
「クラリスちゃんの言う通りです。うちの部族が皇帝陛下に直訴するなんて、よほどのことでなければありえません。もともと国を治める王政そのものを嫌っている人たちです。それが自分たちから接触してきたのですから……相当な事態だと思います」
皇帝は腕を組んだ。
「念のため、すぐに動ける準備をしておこう。何もなければ訓練で済む話だ」
「アストリアとエルドリアにも知らせましょう」
皇太子が言う。
「そうだな。エルドリアへの連絡はレオンハルトに頼む。アストリア国王には私が直接話そう」
クラリスは不安げにシャローヌを見る。
「お姉さま……いったい、何が起こるのでしょうか?」
シャローヌも顔を曇らせた。
「分からない……。だけど、覚悟だけはしておいた方がいいかもしれないわね」
数日後、皇帝の持つ連絡用魔石が光を放った。
「陛下、聞こえておりますか?」
「ああ、聞こえている。報告してくれ」
魔石の向こうから、緊迫した声が響く。
「大変です。巨大生物の姿を確認しました。部族の者の判定によれば、異常な量の魔力を持ち、体長は山ほどもあります。さらに、沖の浅瀬で立ち上がっておりました。二本脚で、頭が三つ……。こちらに攻撃を仕掛けてきたため、それ以上の観察はできませんでした。あれが大陸に上陸したら、大変なことになります。また何か分かりましたらご連絡いたします」
そこで光は消えた。
「緊急事態だ。議会を招集する」
皇帝が立ち上がる。
エルモンドは即座に各所へ伝令を飛ばした。
「まさか……大陸を横断するようなことにでもなったら……」
皇帝の顔から血の気が引いていた。
「一応、トリアノン王国にも使者を出し、対策会議への出席を促したのですが……」
エルモンドが報告書を読み上げる。
「自国のみで決着をつけるので、介入は不要――とのことでございます」
「一国だけで片づけられる規模ではなさそうだぞ……」
巨大魔獣の監視報告は、日に日に深刻さを増していった。
「首は三つ。それぞれが炎、氷、強風を吐き出すとのことです。尾も長く、近くにあるものをすべて薙ぎ倒すそうです。途中の小島に上陸し、幸い無人島だったとのことですが、茂っていた木々はすべて灰になったと……」
会議の場に、シャローヌの部族の族長も呼ばれていた。
「我々の透視能力を持つ者の観察によりますと、首は一つだけ破壊してもすぐ再生します。同時に三つとも切り落とさねばなりません」
会議室に緊張が走る。
「相当な魔力を持ち、なおかつ剣技に優れた者が最低でも三人必要です」
「失敗すれば?」
皇帝が問う。
族長は静かに答えた。
「大陸の者は、すべて死にます」
重い沈黙が落ちた。
「我々の部族は魔力こそありますが、刀剣に長けた者がおりません。魔獣を引きつける補助はできますが……」
魔力が豊富で、剣に長ける者。
「私が参ります」
最初に名乗りを上げたのは皇太子だった。
「私以外に誰がおります。たとえ私に万が一のことがあっても、弟のアルノルト、そして我らの息子がおります。皇族の血が絶える心配はありません」
「私も参ります」
続いてクラリスが言った。
「皇太子殿下とは常に魔獣討伐で共に行動しております。息の合った者が必要です。今まで育てていただいたご恩、ここでお返しさせてください」
「クラリス……すまない……。行ってくれるか?」
「はっ、皇帝陛下」
クラリスは各国の代表が見守る前で、皇帝に敬礼した。
「二人が名乗りを上げたならば、私も行かねばなりませんね」
フェルネスが静かに立ち上がる。
「ぜひ、私にもその役目をお引き受けさせてください」
「フェルネス……頼む……」
「はっ。全力を尽くします」
「首を落とす役は揃いましたな」
族長が言う。
「残るは囮役と、魔獣を足止めするためのシールド魔法を統率する役目です。囮役は我が部族から誰か出しましょう」
「足止めのシールドを張る統率役は、それほど魔力がなくとも先頭に立ってくれればよい。我々が補助できます」
「ならば、それは私が」
シャローヌが名乗り出た。
「クラリスちゃんも出るのよ。姉の私も役に立ちたい」
「却下だ」
皇帝がきっぱりと言った。
「そなたには子らを育てる義務がある。我が国はすでに二人も出している。もう充分だ」
「そんな……」
シャローヌはがっくりと肩を落とした。
その時、アストリア王国の国王が席を立った。
「我が国からは王太子を囮役の一人として出す」
場がざわめく。
「あれは魔力もそれほどではなく、これといった取り柄もない。それくらいの経験をさせなければ、王太子としての威厳も保てぬ」
「大丈夫なのか……?」
皇太子が小さくつぶやく。
クラリスも不安そうに皇太子と顔を見合わせた。
さらに、他国の王族たちからも足止めのシールド役に名乗りが上がった。
「シールドを張る者は、なるべく多い方がよい。それぞれの国で人員を出し、統率してくれ」
「重要な役割分担は決まったな。あとは、どこへ誘い込むかだ」
各国の騎士団長たちは、地図を囲んで議論を続けた。
その頃には、魔獣の姿はすでに陸地からも見えるようになっていた。
え?初回登場のあの王太子??国王陛下、無茶振りすぎます!




