成人の舞踏会 ― 皇女の最初の相手 ―
クラリスは十六歳になっていた。
グランディル帝国では、十六歳で成人と見なされる。
修繕を終えた城の大ホールには、各国から招かれた要人たちが集い、色とりどりのドレスと礼装であふれていた。
その中に、兄である王太子と並び、王子の正装に身を包んだフェルネスの姿があった。
「ねえ、あの方はどなた? なんて素敵な方なのでしょう」
若い女性たちの多くがフェルネスを見つめ、うっとりとしている。
「……何だか寒気がします、兄上」
フェルネスは心なしか顔色が悪い。
「まだ女性恐怖症が残っていたとはな……。そなたの周りには女性はいなかったのか?」
「年上の方々なら……。若い侍女や女官は、皇族の身の回りの世話などいたしませんので」
王太子はため息をついた。
「年上ならいいのか?」
「話すだけなら平気です」
そのとき、高らかな声が響いた。
「皇族方のご入場でございます」
上座には皇帝、続いて皇后、皇太子夫妻、そしてクラリスが姿を現した。
「皆、よく来てくれた。本日はどうぞ楽しんでほしい。
そして、これが本日の主役――我が娘クラリスである。どうぞ見知ってやってくれ」
クラリスは一歩前に進み出て、優雅に一礼した。
黒髪と深い緑の瞳によく映える、淡い桜色のドレスを見事に着こなしている。
「昔はロザーリアとそなたに瓜二つだと思っていたが……少し雰囲気が変わったようだな」
王太子がつぶやく。
「そうですね。どことなく、皇太子殿下に似てきているようにも見えます」
フェルネスが目を細めて言った。
皇帝が穏やかに告げる。
「ではここで、皇女にダンスを披露してもらう。相手は独身であり、なおかつ皇女より背の高い男性に限る。クラリス、相手を指名しなさい」
クラリスは迷いなく口を開いた。
「それでは、エルドリア王国第二王子フェルネス殿下に、お相手をお願いいたしたく存じます」
「フェルネス第二王子殿下、前へ」
フェルネスは一瞬だけ目を見開いた。
だがすぐに歩み出て、クラリスの前で片膝をつく。
「ご指名、ありがたき幸せにございます。お相手を務めさせていただきます」
会場から、若い女性たちの高い声が上がった。
「第二王子ですって? しかも独身? 素敵……!」
「もしかして皇女様の婚約者なのでは?」
さまざまな声が飛び交う。
皇帝が軽く手を上げると、楽団が演奏を始めた。
フェルネスはクラリスの手を取り、静かにフロアの中央へ導く。
二人は音楽に合わせて歩み出し、やがてゆるやかに旋回した。
正確に刻まれる足運び。
無駄のない優雅な所作。
クラリスのドレスの裾がふわりと広がり、そのたびに会場の空気まで華やいで見えた。
どちらかが無理に目立つのではなく、二人で一つの光景を作り上げている。
その美しさに、誰もが見入っていた。
やがて曲が終わる。
クラリスは軽く会釈した。
「ありがとうございました」
「こちらこそ。まさか、そなたと踊れるとは……そういうことだったのですね」
フェルネスは微笑んだ。
すると、すぐに若い女性たちがフェルネスのもとへ集まってくる。
「次は私と踊ってくださいませ」
「いいえ、私と!」
だがクラリスは一歩前に出ると、彼女たちをやんわりと制した。
「申し訳ありません。今日、フェルネス殿下は私とだけ踊ってくださるのです。
それが皇帝陛下から私への成人祝いなのですから」
そしてフェルネスを見上げる。
「では、次の曲もお相手をお願いいたします」
「かしこまりました。喜んでお付き合いいたします。成人、おめでとうございます」
フェルネスは丁寧に礼をした。
再び曲が流れ始める。
二人はもう一度手を取り合い、今度は先ほどよりも自然に、息の合った動きで踊り始めた。
周囲から、感嘆のため息が漏れる。
かつては瓜二つと言われていた二人の面差しも、年齢を重ねるにつれて変わっていた。
フェルネスは男性らしい精悍さと落ち着きを帯び、クラリスは柔らかく上品な女性らしさをまとっている。
今では「よく見ればどこか似ている」と思う程度で、並んだ姿はむしろひどく絵になっていた。
熱い視線を向けているのは、若い女性たちだけではなかった。
独身の王族や有力貴族の子息たちもまた、クラリスを見つめていた。
「あの第二王子は何者だ? あの美しい皇女を独占するとは」
「独身だと言っていたな。まさか婚約者なのか?」
「婚約者なら、そうと発表があるはずだ」
「まだ婚約していないのなら……早い者勝ちではないか? エルドリアは小国だ。我々にも勝機はあるぞ」
男たちの目がぎらつく。
そんな中、少し離れた場所で二人の男がその様子を見ていた。
「あのチビ……あんなに背が伸びたのか……」
アストリア王国の王太子の隣には、背が高く、精悍な顔立ちをした、がっしりとした若い男が立っていた。
「皇女殿下とお知り合いなのですか?」
「ああ……少しな。だが、その話はするなと父上から厳しく禁じられている。今の話は聞かなかったことにしてくれ」
「かしこまりました」
そう答えながらも、その男の視線は自然とクラリスを追っていた。
――自分が正式な直系王族になれば、可能性はあるだろうか。
そんなことを考えた自分に気づき、はっとする。
「殿下も、どなたかと踊られては?」
「いや、いい。ダンスは嫌いだ。女の機嫌など取りたくない。そなたこそ踊らぬのか?」
「殿下が踊られないのであれば、私も遠慮いたします」
そう言いながらも、その目は再びクラリスを追っていた。
なぜフェルネスが指名されたのかは分からない。
だが、羨ましいと思わずにはいられなかった。
やがて舞踏会は終わりの時を迎え、にぎわいも少しずつ静まっていく。
招待客たちはそれぞれ、帰路につく者、城に泊まる者に分かれていった。
この話を書き始めた頃、2人を正装で踊らせる場面を描きたくて、(フェルネスが臣下のままだと王子の正装にはならない)
必死に不自然にならない設定を考えまくりました
チャットGTPに「この構成なら大丈夫?」と確認しながら、作業しました
無事に書けてよかったです♪ちなみにダンスの事は全然わかりません。適当に書きました。
おかしかったらすみません・・・




