父エリアス登場
「ターシャ! なぜこのような場所にいるのだ! 誰にはめられた?
王太子、またお前か! 陛下の息子とはいえ、我が娘に何かしたら許さぬと、さんざん申したであろう!」
「無礼だぞ! たかだか公爵子息の分際で、王太子の私にそのような口を利くとは!!
だいたい娘とは名ばかり、そなたは妻を寝取られた挙句、その間男の子供を育てているうつけではないか!!」
「貴様!! 私のことはともかく、クラウスのことを間男だと――!」
父が腰の刀に手をかけようとする。
「お父様、おやめくださいませ!!
本当に私が迷ったのでございます。申し訳ありません」
ターシャは男の腕からすり抜け、父の腕にしがみついた。
「王太子殿下、父が申し訳ございません。
私が至らないせいでございます。どうかお許しを」
王太子と父が腰の剣に手を取り、にらみ合いになったその時。
「やめよ!」
重々しい声が割って入った。
アストリア王国国王、その人である。
濃い紫の瞳に、銀の髪。
同じ色の口ひげを蓄えている。
紫の瞳と銀髪は、この国では王族の証であった。
「王太子よ。ターシャはエリアスと亡きロザーリアとの娘と申しておろう。
わしが認めておるのだ。何回言えば気が済むのだ?
まして今日は帝国から、我が妹とその息子である皇太子が訪問しているのであるぞ。
妹とターシャとの面会を妨害するとは、何というおろかなことをするのだ!」
国王は我が子に向かって厳しい声をかける。
「解せませぬ!
どう見てもこの娘は我が王国の血筋は引いておりませぬ!
あの黒髪の間男の娘であることは一目瞭然!
不貞の子を未来の公女として認めることなど、私には理解できませぬ!
ましてや帝国の皇后陛下である叔母上との面会など、許されるわけがありません!」
王太子が叫ぶ。
だが王はそれを制した。
「とにかくだまれ。後でじっくり話をしよう」
そしてターシャの父エリアスに向き直る。
「息子の無礼は詫びる。
だが、もう少し冷静になれ。守らなければならぬ娘に庇われてどうする」
「申し訳ございません」
エリアスは素直に詫びた。
「レオンハルト皇太子殿下。ごたごたに巻き込んで済まぬ。
ターシャ、妹が待っておる。エリアスと共に参ろう」
そう言って体を翻そうとしたその時。
男が立ち上がり、口を開いた。
「ダストス王太子よ。黒髪の間男とは、どういうことだ?」
怒気を含んだ声だった。
皇太子と呼ばれた大柄の男は立ち上がり、王太子をギロリとにらみつける。
その顔を見たターシャの父エリアスは、目を見開いた。
「クラウス……? そなた、生きていたのか?」
しかしすぐにはっとしたように言葉を続ける。
「失礼申し上げた。クラウスとは私の亡き親友。
先の帝国内乱の時に出兵し、戦死した騎士です。あまりに似ていたので、つい……」
「そうか。あの騎士もクラウスと名乗っていた。
クラウス殿を知っているのですか?」
皇太子はエリアスを見つめる。
「彼は母と私の命の恩人です。
そして彼は、私に似ていたのですか?」
「よく似ていらっしゃいます。
挨拶が遅れまして申し訳ありません。
私は国王陛下の甥、リラインド公爵家嫡男エリアス。
そしてこの子は、亡き妻と私との間に生まれたターシャと申します。
お見知りおきくださいませ」
王太子はその光景にぽかんとし、
エリアスは皇太子レオンハルトに跪いた。
その場は静寂に包まれたのであった。




