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殿下との遭遇

「やっぱり……」


そう思ったとき、ドアが開いた。


顔を上げると、長身の男性が立っている。

その斜め後ろには、にやりと笑った王太子が腕組みをして立っていた。

そのほかにも、従者らしき人間が数人見える。


(あの女官は見えないなあ……)


ターシャは立ち上がり、ドレスのスカートをつまみ上げる。

膝を曲げ、背筋を伸ばし、華麗なお辞儀をした。


そのまま頭を下げ続ける。


公爵家の娘としての礼儀は、嫌というほど叩き込まれている。


(殿下って呼ばれていたな……どなたのことだろう?)


自分は公爵の孫という身分ではある。

だが相手は国王の息子である王太子。

そして、その王太子が「殿下」と呼んでいるのだ。

自分より身分が高い人物に違いない。


「顔を上げなさい」


男性は優しい声でターシャに声をかけた。


そっと顔を上げ、男性の顔を見て息をのむ。


(私と同じ髪色……?)


思わず出そうになる声を飲み込む。


相手も、まじまじとターシャの顔を見つめていた。

驚いているのが伝わってくる。


男の深い緑色の瞳が、大きく見開かれている。


その瞳の色も、おそらく自分とほぼ同じ色だ。


そして男は膝をつき、ターシャの髪をかき上げると、耳たぶにつけている耳飾りに手をやった。


「これは……。そなたはいったい……」


その耳飾りは、物心ついた時からつけているものだった。


「無理に外そうとするな」


亡き母から、父から、そして叔父からもそう言い含められていた。


外そうとしても、魔力でがっちりとはめ込まれていて、どうすることもできなかったのだ。


「この耳飾りは、そなたの物か?」


男性が尋ねる。


「はい。物心ついた頃から、ずっと付いているものでございます」


男はさらに目を見開き、耳飾りにそっと触れた。


(あれ……? 魔力を流している)


耳飾りに魔力が流れ、暖かな光が灯るのを、ターシャは何となく感じた。


初めての感覚だった。

今までは、ただの透明な楕円形の石だったのに……。


男はたくましい上体をかがめ、目線をターシャに合わせる。


「そなたはいくつだ?」


「六歳です。もうすぐ七歳になります」


男は大きな手をターシャの肩に置いた。

そして、急にその手を背中に回し、抱きすくめた。


大柄な男に力強く抱きしめられ、身動きが取れない。


「殿下、何をしておられるのです。その者は殿下の部屋に忍び込んで――」


王太子が口を挟む。


「だまれ!!」


男の声が鋭く響いた。


「このような小さき者が、この部屋に一人で来られるわけがあるまい。何か事情があったのであろう。申してみよ」


男は腕をゆるめ、再びターシャの肩に手を置いた。


事実を告げるべきか迷う。


だが、王太子に命じられただけの女官が罰せられるのはかわいそうだ。

父は、本当に容赦がない。


「ちょっと廊下に出てしまい、元の部屋が分からなくなって……。うっかり入り込んでしまいました。ごめんなさい」


とりあえず、自分に罪がかかる心配がなさそうなので、口から出まかせを言う。


「そうか。それなら仕方あるまい。それよりも、そなたは……」


男性の目じりが、ほんのりと赤くなる。


その時、騒ぎを聞きつけたらしい人々の声が近づいてきた。


中には、聞き慣れた父の声もある。


ドアが開き、数人の男女が部屋の中へなだれ込んできた。


父を先頭に、その後ろには、さっきの女官の姿もあった。


(父に知らせてくれたのだ)


ターシャは、女官にとがめがなさそうなのを見て、ほっと胸をなで下ろした。

ターシャちゃん、いきなり大きい男性に抱き着かれたらびっくりだよね

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