序章 王太子の罠
いつか書いてみたいと思っていたファンタジーを書きはじめました
お読みくだされば幸いです
「どうしてこうなってしまったのか……」
ターシャは途方に暮れていた。
王宮の女官の案内に従い付いて行ったら、立派な扉の中に押し込まれ、外側から鍵をかけられてしまったのだ。
ターシャは六歳。もうすぐ七歳になる。
漆黒に青みを帯びた、不思議な輝きの髪。
そして瞳は、とても深い緑色。
幼いながら、とても整った顔立ちの少女だった。
今日は、国王の妹であり、隣国グランディル帝国の皇后が里帰りをしている。
その皇后陛下に面会するため、父――国王の弟の息子であり、公爵家の嫡男であるエリアス――と共に王宮へやってきたのだ。
控室で父だけが先に呼ばれ、「ここで待っていなさい」と言われた。
しばらくして、「迎えです」と言って現れた女官に連れられて歩いていくと、なぜか見知らぬ方向へと進んでいく。
不審に思う間もなく、突然この部屋へ押し込まれ、外から鍵をかけられてしまったのだった。
王宮にはめったに来ないため、造りが全くわからない。
つい女官を信じてしまったことが悔やまれる。
「今思えば、あの女官……なんだかビクビクしていたような」
あの女官は、王太子の手の者だったのだろう。
おそらく脅されていたに違いない。
王太子は、表向きは肉親であるはずなのだが、なぜかターシャを憎んでいた。
「不義の子」
そう言ってターシャをなじり、取り巻きたちは陰口を言い募る。
もっとも、直接手を出されたことはなかったため、ターシャは何も言わずやり過ごしていた。
そのため、王宮に来ることもほとんどなかった。
だが今日は、皇后が自分に会いたがっていると聞き、父と共にやむなく王宮へ足を踏み入れたのだ。
こんなことになるとは思いもしなかった。
そのうち父が探しに来てくれるだろう。
しかし――なぜ隣国の皇后陛下は、私と会いたがったのだろう?
ターシャは父と血がつながっていない。
それは誰の目にも明らかだった。
髪の色も、瞳の色も、顔立ちも、すべてが違う。
それでも亡き母は父の妻であり、母が産んだ自分を、父は実の娘として育ててくれている。
父からの愛情は十分に感じていた。
だが、自分に向けられるその情が、時に過剰に思えるほど深いことが、不思議でならなかった。
ターシャは壁際に腰を下ろし、膝を抱えながら部屋を見渡す。
見たこともない壁紙。
高価そうな調度品。
「ここは……お城のどこら辺だろう」
父はきっと、自分がいないことに気づき、必死に探しているはずだ。
……あの女官、無事だといいが。
父は、ターシャのこととなると見境がなくなる。
王太子の嫌がらせに手を貸したとなれば、ただでは済まないだろう。
「本当に、ここはどこなのかな……」
見渡してみるが、動き回る気にはなれなかった。
部屋の隅にうずくまり、顔を膝の中に埋める。
ターシャの魔力を使えば、扉を破壊することは可能だ。
脱出して元の場所へ戻ることもできる。
だが――。
そうすれば、あの女官がどうなるかわからない。
それに、この部屋はどう見ても身分の高い者が使う客室だ。
王宮の個室を理由はどうあれ破壊すれば、父に迷惑がかかるだろう。
しかし、このままここにいるのもまずい。
もし高貴な人物の部屋だった場合――
自分が勝手に忍び込んだことにされてしまう可能性がある。
今までの陰口とは、わけが違う。
「やられた!」
ターシャは唇をかむ。
おそらく、ターシャを閉じ込めたのは客室を整える女官だろう。
普通の女官は、賓客室の外鍵など持っていない。
その高級女官を動かせる人物といえば――。
そして案の定、しばらくして扉の外から声が聞こえてきた。
「黒髪の子供が勝手に『殿下』の部屋を覗き込み、入り込んでいきました」
聞き覚えのある声だった。
「きっと何か盗み出すつもりだったに違いありません。卑しい女の娘、手癖も悪いに決まっています」
ターシャの心臓が強く鳴る。
「外鍵をかけて閉じ込めてあります。どうかお仕置きを」
その声の主は――
王太子だった。
さて、ターシャはどうなるのでしょう?
お読みくださりありがとうございます。




