皇太子妃の来訪
「ああ、あれだな」
皇帝が空を見上げ、指さした。
「嫁になる娘と、その両親、それに侍女が来ると聞いているが……四羽だな。各自、飛行魔獣を操れる体格ということか……」
なぜか皇帝の肩が少し落ちたように見えた。
初対面の時は「気にしておらぬ」と言っていたのになあ……。
飛行魔獣は、ある程度背が高くなければ乗ることができないのだ。
婚約発表から半年以上が経ち、クラリスは八歳になった。
身長もどんどん伸びている。
一羽目が降りる。
最初に侍女らしき女性が飛び降り、すぐに魔獣を空へ返した。
次に長身の初老の男性。
同じように魔獣を空へ放つ。
三人目は初老の女性。
そして最後に若い女性が降りてきた。
四羽同時に降りられる場所がないため、順番に降りては場所を空けているのだ。
しかし最後の女性は、自分で降りようとしない。
侍女が手を差し出し、その手にすがるようにして地面に足をつけた。
「長旅でお疲れでございましょう。私はこの国の皇帝、アルベルトと申します。ようこそおいでくださいました」
初老の男性は背が高いが、フェルネスよりは少し低い。
「シャローヌの父です。どうか娘をよろしくお願いします」
女性も続く。
「母でございます。これからよろしくお願いいたします。娘のシャローヌでございます」
侍女に手を取られ、ゆっくりと足元を確かめるように歩く女性に、皇帝は目を向けた。
そして、顔を伏せて礼をする。
「娘は目が悪く……。子供の頃はちゃんと見えていたのですが、今では周りがかすんで見えてしまうようです」
「承知しております。まったく構いません。こちらの医者に診せましょう。顔を見せてもらえないか?」
「はい……」
小さくか細い声と共に、顔を上げた。
真っ赤な髪に灰色の瞳。
くりっとした目、すっと通った鼻筋、優しい口元。
そしてすらりとした体形にフェルネスより少し低いぐらいの高身長である
皇后ほどではないが、美しい女性だった。
「こちらがレオンハルト。そなたの夫となる者だ。レオンハルト、挨拶をしなさい」
レオンハルトは正直、かなりほっとしていた。
(不細工でなかった……まともだ)
「レオンハルトです。至らぬ点もあると思いますが、よろしく頼みます」
レオンハルトはシャローヌの手を取り、ひざまずいてその甲に口づけた。
シャローヌは真っ赤になる。
(三歳上と聞いていたが……うぶなのだな。かわいい)
皇太子はそう思った。
「こちらは妹のクラリスだ。事情があってこちらに来てまだ一年ほどだ。仲良くしてやってくれ」
「シャローヌ様、クラリスと申します。お見知りおきください」
クラリスは最高のお辞儀をした。
「妹君でございますか?」
シャローヌの顔が、なぜか少し曇ったように見えた。
「母は臨月で動けません。後ほど挨拶に参りましょう」
レオンハルトはシャローヌの手を取り、足元を気遣いながらゆっくりと案内する。
その後ろを侍女がついていった。
「やっぱりお兄様は優しいわ。妹であることを誇りに思います」
クラリスはにこにこと、その二人を見ていた。
「そうでございますね」
側にいたマリアも微笑ましく見つめる。
しかし――
「妹君? おかしいのう。レオンハルト殿とは魔力があまり似ておらぬ」
厳しい声がした。
「皇帝陛下とも血のつながりはあるようですが、親子ではございませんね。どういうことです?」
母親も声を低くしてクラリスを見つめる。
魔力探知。
相手の魔力の色や感覚で血筋を見抜く魔法だ。
帝国では皇帝と皇太子しか使えない。
それを使えてしまうとは。
しかも皇帝よりはるかに正確だ。
「参りました」
皇帝は小さく息をついた。
「おっしゃる通りです。この娘は私の姪。亡き弟の忘れ形見でございます。実の娘として引き取り、正式な皇女として扱っております。どうか口外はなさらぬようお願い申し上げます」
皇帝は頭を下げた。
「そういうことですか。安心しました。わかりました。口外はしません」
「あなた、やっとあの子の居場所ができたのです。多少のことは目をつぶりましょう」
母親が言った。
「では、お約束通り私共はこれで帰らせていただきます」
「もう少しゆっくりなされては……」
「いえ。一族が移動して次の拠点に着く前に帰らなければなりません。それでは」
二人はそれぞれ鳥型魔獣に飛び乗り、空へ舞い上がった。
「すごく慌ただしかったですね……」
マリアがつぶやく。
「あまり帝国に居たくないのであろう。エルドリア出身者がいると漏れてしまったらしい」
クラリスはぎょっとする。
「いや、フェルネスのことらしい。アストリア国王がつい漏らしてしまったらしい。血縁だからよかろうと……」
「なるほど……念の入った嫌いよう……」
マリアがさらに小さくつぶやく。
「陛下もお下がりください」
扉の前からエルモンドが声をかける。
「今行く」
三人は階段を下っていった。
赤毛で灰色の瞳・・・
そばかすはやりすぎるのでやめました。
わかる人は「あ、あれ?」って思ってくださるとうれしいです




