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皇太子の花嫁探し

「小さい姿もかわいかったのだが、大きくなった姿もまた感慨深いものだな」


皇帝は目を細めた。


「髪もずいぶん伸びましたね」


皇后が言う。


「用意していた洋服のサイズがすべて合わなくなりました。とりあえず城下に降りて、ドレスを調達してきた方がよろしいかと思います」


マリアが言う。

確かに、今クラリスが着ている服は少しきつそうである。


「そうなのよね……お針子を城に呼ぶのも難しいし……」


皇后が困った顔をする。


皇帝が腕を組んだ。


「城全体をしっかり管理するには、皇族の魔力が必要だ。今のままではまだ足りない。皇太子に早く結婚してもらい、子をもうけてもらわねばならぬ。今、大陸のあちこちの国を当たっているが、魔力の釣り合いが取れる相手がおらぬ」


クラリスが首を傾げた。


「恋愛結婚じゃダメなのですか?」


「皇太子にそのような結婚は許されない。相手が相当な魔力の持ち主であれば別だが、そのような者は王族クラスにしかいない。そして年齢の釣り合いも考えねばならぬ」


「どうやって探すのです?」


「伝手だよ」


皇帝は軽く流した。


そしてクラリスを見る。


「そなたの結婚はまだまだ先であるが、できれば婿養子をもらい、この国に残ってもらいたい。嫁に出す気はない」


そんなものなのだろうか、とクラリスは思う。


「離婚はできるのですか?」


「国同士の政略結婚では、あまりない。国益が絡むからな」


クラリスは自分の母とエリアス公子のことを思い出す。

離婚したと聞いていた。だが、離婚後もたびたび会いに来ていた。


小さい頃は、時々やってくる大きなおじさんだと思っていた。

母とは親しそうだった気がする。


「どうしたのだ?」


考え込んでいるクラリスに皇帝が声をかけた。


「エリアス公子様とロザーリア王女様の関係って、不思議だったなあと思いまして……」


つい口から出てしまう。


「そこはフェルネスが詳しそうだが、まだそなたには早い」


陛下に一蹴されてしまった。


「わかりました」


「それで、ドレスの話に戻りましょう」


皇后が話を切り出す。


「これからの分も作らないといけませんから、直接お店に出向きましょう。護衛が必要ですね」


クラリスは少し残念そうに言った。


「私がもう少し大きければ、お母様とマリアぐらい守れますのに……」


その時、皇帝が急に話に割り込んだ。


「そなたの実の母の実家は、たしかエルドリアだったな? アストリア王国に属する小さな国だと聞いておる。我が国とは交流がない。そなたの家系で年頃の女子はいないか?」


皇帝の目が真剣だ。


「えっと……女性はおりません。いとこがいるそうですが、二人とも男の子と聞いています」


「残念だ。皇太子の嫁にと思ったのだが」


「王族でなくてもよろしいのでしたら、私の母方の祖母の一族は、とても魔力が高いと聞きました。フェルネスクラスの魔力を持つ者が何人もいるとか……」


「その者たちはどこにおる!」


「エルドリアに住んでいる民だったかと……。私も詳しいことはわかりません。かなり前にエリアス公子様から少し聞いただけでございます」


皇帝はすぐに命じた。


「おい、フェルネスを呼べ」


皇后とマリアは、ドレスの話がまったく進まないため、少し苛立ってきていた。


クラリスが言う。


「お母様、もし陛下の許可が下りましたら、ジュリアンヌも連れて町に降りますか?」


「あら、そうだった。ジュリアンヌがいたわ。存在をすっかり忘れていました。今日は非番かしら?」


「聞いてみます」


マリアは手でこぶしを作り口元に当て、口だけ動かした。

すると光の玉が現れ、飛んでいく。


「何度見ても便利ですね、その通話魔法」


クラリスは楽しそうに見つめる。


「我が家に代々伝わる魔法でございます。両親と子供の間でしか通話できませんが。しかも伝言程度ですし」


すると光の玉が戻ってきて、マリアの手の上に乗った。


耳を当てて話を聞く。


「ジュリアンヌと母も一緒に来るそうでございます。午後からなら時間があるとのことです」


「まあ、それは楽しそうな買い物になりそうですわね」


皇后はころころと笑った。


そこへフェルネスが入ってきた。


「お呼びでございますか?」


「こっちだ。女たちは出かける支度をするがよい」


「かしこまりました」


皇后に続き、クラリスがちらりとフェルネスの顔を見てから、マリアと共に部屋を出ていった。


フェルネスは扉の方を見つめながらつぶやいた。


「わずかな間に、本当に背が伸びられました。信じられない気持ちです」


皇帝が言う。


「午後からあの者たちで城下に降り、クラリスのドレスを新調するそうだ。ジュリアンヌが付いていくそうだが、そなたも護衛として一緒に行ってもよいぞ」


「謹んでご遠慮申し上げます」


フェルネスはなぜか必死な目つきになり、激しく首を振った。


「本当によいのか?」


フェルネスは何度もうなずく。


「ならよいが……実は皇太子の伴侶を探しているのだが、めぼしい者がいない。先ほどクラリスから『エルドリアの亡き王妃の一族に魔力が強い者がいる』と聞いた。そなたなら何か知っているかと思って来てもらった」


「ああ……あの家の者たちの中なら、魔力が強い者がいるかもしれませぬ。私の母の実家なのですが、私とは交流がまったくございません」


「どこか伝手はないか?」


フェルネスは少し考える。


「一般の部族とは少し違っているようでして……領地の場所も定かではございません」


「なんだかますます興味がわく。詳しく話せ」


「私もこれ以上詳しくは……父か兄なら、もっと知っているかもしれません。何分、私は国を追放された身。元々父からはいない者として扱われてきました。本国アストリア王国から命令が出れば、何か報告が上がってくると思います」


皇帝は複雑な表情でフェルネスを見る。


「姉上がいましたし、クラウス兄上もいました。何も思うところはありません」


フェルネスはふっと笑った。


「わかった。皇后が帰ってきたらアストリアと話をつなげてもらおう。本当にクラリスにつきそわなくていいのか?」


「いいのです! 仕事に戻ります!」


「そなたのおかげで仕事量が減って助かっている。少しは休んでくれ」


「男の私にはドレスのことはさっぱりわかりません。ご勘弁を!」


皇帝はふと首を傾げた。


「まさか、あの時の話が聞こえていたのか?」


「あの時? とは?」


「クラリスのお披露目の後、クラリスが熱を出したであろう。あの時だ」


「呼び出されましたが、両陛下はいらっしゃいませんでした。あの時ですか?」


「聞いていないのならよい」


皇帝はそう言いながら、どこかフェルネスらしくない態度に引っかかりを覚えた。


フェルネスは慌てて敬礼し、部屋を出ていった。


「絶対、何かあるな」


皇帝はそう思うのだった。

フェルネスが女性のドレスを拒否する本当の理由は物語終盤で出てきます。帝国での周りの思惑とは関係ありません

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