叔父と皇女
今回も短いので前話と同時公開です
「どうした? 気分が悪いのか? 魔力を流しすぎたのか?」
皇太子が焦った声を出す。
クラリスは首を横に振る。
「ではどうした?」
クラリスは答えず、ただうつむいたままだった。
「フェルネス、クラリスを抱き上げて途中まで運びなさい」
皇后陛下が指示を出す。
「はっ」
フェルネスは鎧を解除し、普段の姿に戻る。
クラリスを抱き上げると、クラリスはそのままフェルネスの胸に顔を埋めた。
「少々、熱があるようでございます」
フェルネスが言う。
「そうか。それでは、とりあえず医務室へ運べ。我々は次の用事がある」
皇帝が声をかけた。
「はっ、かしこまりました!」
フェルネスは急ぎ足で医務室へ向かう廊下を歩き出した。
「クラリス様、どうなさいました? 儀式でのお姿はご立派でございました」
医務室へ向かう廊下を歩きながら、フェルネスは優しく尋ねた。
「フェルネス……」
クラリスは小さく声を出す。
「私は怖くなったのです。
私は本当は皇帝陛下や皇后陛下の実の娘ではないのに、なぜここにいるのか分からなくなってしまったのです。
来賓や聴衆の歓声を聞いて……
皆を裏切っている、嘘をついている自分が恐ろしくなったのです」
フェルネスは優しくクラリスの背中をさする。
「陛下と皇后陛下、そして皇太子殿下を信じなさい」
小さな声で、しかし以前と同じ口調でフェルネスは言った。
「そなたはもう皇女となった。逃げることはできぬ」
クラリスはしばらく黙っていたが、やがてぽつりと言った。
「時々こうやって……前みたいにお話してくれますか?
私の叔父様に戻ってくれますか?」
フェルネスは優しく微笑む。
「もちろんだ。
そなたは皇女となっても、私の実の姪であることに変わりはない。
さあ、元気を出しなさい。私はずっとそばにいる」
医務室が近づいてきた。
「さあ、皇女殿下。お医者様に診ていただきましょう」
部屋の前で待っていた侍医が見えると、フェルネスの口調は変わった。
医務室のベッドに寝かされ、侍医が脈を取り観察する。
「お疲れになったのでございましょう。数日はお部屋でゆっくりなさってくださいませ」
そこへ、心配そうな顔のマリアと女性騎士が医務室に入ってきた。
「フェルネス殿。クラリス様はすでに皇女となられました。
今回は目をつぶりますが、これからは気軽に肌に触れることのないようご注意ください。
あなた様は皇后陛下の血縁とはいえ異性です。
そして皇族ではございません」
「わかった。気をつける。皇女殿下を部屋へお連れしてくれ」
女性騎士がクラリスを抱き上げようとする。
「甲冑のままではクラリス様が痛かろう」
フェルネスが言う。
「ご心配には及びません。見た目だけでございます。今は柔らかくしております」
女性騎士は自分の胸の辺りを軽く押してみせた。
「失礼した。それでは頼む」
女性騎士はクラリスを軽々と抱き上げ、マリアと共に医務室を出て行った。
「『甲冑を柔らかくする』か……私にはできない発想だ」
フェルネスは小さくつぶやいた。
公爵夫人の言葉が頭の中に蘇る。
「あの子には母親が必要です」
異性というだけで、隔てられる肉親への愛情。
それを嫌というほど味わうフェルネスだった。




