兄ではなかった人
短いけど前話と分けたかったので同時公開にします
二人は顔を見合わせた。
「一週間ぶりでございます。少しは慣れましたか?」
フェルネスが優しい目を向けて語りかける。
「はい。皇后陛下、マーサ、マリアにとてもよくしていただいております。
マーサは王国で皇后陛下と皇太子殿下に意見した女官でございます。マリアとは母子だそうです。びっくりいたしました」
「そうですか。それは驚きますね」
フェルネスの目はますます優しいまなざしになった。
「実は、どうしても大切なお話をしたくて、陛下から特別に二人きりになる時間をいただきました」
「そうなのですか?」
ターシャは目を丸くした。
「時間がありませんので簡潔にお話しします。姫君の兄上殿のことです」
ターシャの体がびくりと跳ねた。
「お兄様?」
ターシャは怪訝そうな顔でフェルネスを見る。
お兄様。
ターシャのたった一人の、母と同じ血を引く兄。
ターシャが公爵家に引き取られるのと、ほぼ同時に国外へ旅立ってしまった兄。
せっかくこれからまた一緒に暮らせると思っていたのに、直後に突然旅立ってしまった。
旅立ちの時、泣いて、泣いて、泣いて。
帰りを待ちわびたのに、それきり会えることはなかった。
「もっと早くお話しするべきでしたが……兄上殿はロザーリア王女の息子ではないのです。姫君とは血のつながりのない、赤の他人なのです」
ターシャは目を見開いた。
まさか、あの兄が兄ではなかった……?
「姫君は、兄上殿に見捨てられたような気がしていたのでしょう?
ですが、そうではないのです。兄上殿は、姫君と自分が赤の他人だと知り、もう妹として接することはできないと……自ら距離を置いたのです」
なんとなく、避けられていたような気がしていた。
それを認めたくなくて、兄を思い出すたび、ターシャは感情を爆発させていた。
しかし――
実の兄ではなかったという事実で、何かが自分の中でつながった。
「兄上殿はお元気に過ごされているそうです。帰国を望む知らせも届いていたのですが……姫君の旅立ちと入れ違ってしまいました」
「そうだったのですか……」
ターシャは小さく息を吐いた。
「どちらにしても、私はもう……お兄様と気楽にお会いできる立場ではなくなるのですよね……」
ターシャは自分に言い聞かせるように言った。
皇后陛下から。
マーサから。
マリアから。
何度も言い聞かされた。
数少ない生き残った皇族としての義務と責任を。
「もう癇癪は起こされませんね。安心しました。それだけが気がかりでした」
フェルネスが微笑む。
「事実が分かったので、皇太子殿下の呼び方を安心して変えることができます」
ターシャはまじめな顔で言った。
フェルネスはうなずいた。
「お話はこれで終わりです。では皇后陛下のもとへ参りましょう」
ターシャはほんのりと微笑んだ。
たった一週間離れていただけだったのに、どこか皇后陛下に似た気品が漂い始めている。
フェルネスはそれを見つめながら、嬉しいような、寂しいような気持ちになる。
自分から少しずつ離れていくような気がするターシャを、複雑な思いで見つめていた。




