皇女の証明
いよいよ、帝国での生活が始まります
「内戦中に行方不明になっていた皇女さまが見つかったそうだ」
「隣の王国で育てられていたそうだぞ」
という噂が帝国中を駆け巡った。
「皇帝陛下にそっくりの、たいそう可愛らしい姫君だそうだ」
国内は歓喜に沸き、あちこちで祝いの準備が始まっていた。
到着の翌日、ターシャは皇帝陛下から自分が「皇帝の弟の娘」だったと告げられて驚いた。
「実の親子ではないが、すでに私の娘として公表してある。そなたは私の姪でもあるのだから、皇族であることに変わりはない」
そう説明された。
到着から一週間後。
「まずは『命名の儀』が城内の神殿で執り行われる。
皇族は七歳になるまで子に正式な名前は与えられない。適当に呼ばれるのだ。皇子さまとか姫さまとかな。
七歳の誕生日に皇子、皇女の称号が与えられ、その時に皇帝から正式な名を授けられる。
そなたの帰国を急いだのは七歳の誕生日が近かったからだ。
名前はあらかじめ皇帝陛下が中心となって、重臣たちとともに決められる。
その儀式を経て、そなたは正式にこの国の皇女と認められる」
レオンハルト皇太子がターシャに説明する。
「それでだ、その後に『皇族の血の証明』をする儀式がある。神殿の前にある丸い透明な石にそなたが魔力を流し、神殿中央にある龍の像を光らせる必要がある。光らせられない者はその場で皇子皇女の称号をはく奪される」
「それを先にしてから命名した方が効率いいのでは?」
ターシャは首を傾げた。
皇太子はケラケラと笑う。
「いきなりさせるわけあるまい。ちゃんと前もって魔法を流す練習がある」
ターシャがマリアと部屋で話していると、いきなり皇太子が現れて「行くぞ」と連れ出されたのだった。
長い廊下を侍従に案内されながら、二人は話しつつ歩く。
廊下の途中では別の侍従が待っており、そこからさらに奥へと進んだ。
「うーん、やはり足の長さの違いはいたしかたないな」
そう言って、ひょいとターシャを抱き上げた。
「自分で歩けます!」
「フェルネスばかりずるいのでな。私にも慣れてほしい」
また癇癪を起こされると困るので、注意深く言葉を選ぶ。
「兄」は禁句だ。
あの癇癪ぶりは実に面白く可愛らしかったが、城内であれをやられてはたまったものではない。皇女の評判は地に落ちてしまう。
しばらく歩くと白い扉が見えた。
その中に入ると、荘厳な雰囲気の天井の高い、しかしそれほど広くはない部屋だった。
「おお、来たか」
部屋の奥の祭壇の前には、皇帝夫妻、エルモンド、そしてフェルネスが立っていた。
フェルネスは、なぜか一週間しか経っていないのに、ターシャの護衛兼教育係から皇帝陛下の側近になってしまっていた。
……解せぬ。
「命名の儀の説明は聞いたか?」
「はい。だいたい皇太子殿下から伺いました」
「ふふ、抱き上げられるところまで心を広げてくれたのですね」
皇后陛下がにこにこと笑う。
フェルネスも目を細めていた。
ターシャはそっと下に降ろしてもらう。殿下は本当にお優しい。
あの王太子とは似ても似つかない。同じ国の最高位を継ぐ立場でも、ずいぶん違うものだなとターシャは思った。
「では、さっそくここにそなたの魔力を流してもらう。試しにやってみてくれ」
皇帝はターシャの右手を取り、大人の手のひらほどの平らな透明の石の上にその手を置いた。
「手のひらに神経を集中しろ。最初は少量、そっと流して」
皇太子がそばで言葉をかける。
次の瞬間、目の前の龍の形をした白い像全体が、黄金にまばゆく光った。
「少量だと申したであろう。もうやめよ」
皇帝は慌ててターシャの手をつかみ、石から離させた。
「そんなに最初から全力でいかなくても……体は大丈夫か?」
両陛下も慌てている。
ターシャはきょとんとしていた。
フェルネスだけが皆に背を向け、肩をふるわせている。
明らかに笑いをこらえていた。
「足りませんでしたか? 少量と言われたので、ちょっとだけ流したつもりだったのですが」
「万が一を心配したが杞憂だったようだ。練習は必要なかったな。当日も今ぐらいの量を流せばよい。しかし、とんでもない魔力量だな」
皇后も目を見開いていた。
「普通は少しずつ流していって、目から光らせ、だんだん強くしていって全体を光らせるのだ。慣れるのに数日はかかる。いきなり全体を光らせるとは……」
「必要ならそのように練習いたしますが……」
「いや、もうよい。像を光らせさえすればいいのだ。普通の七歳の魔力量では、いきなりはできない」
「いえ、陛下と亡きアルノルト様とレオンハルト様は同じことをなさいましたぞ」
エルモンドが懐かしそうに口を開く。
「とにかく、皇族が増えたというのは実に喜ばしいことだ。では、後は妃とマリアに任せる」
「はい、かしこまりました。陛下」
皇帝はエルモンドとともに部屋を出ようとして言った。
「予定より時間が余った。フェルネス、久しぶりに娘の相手をしてやってくれ」
「はっ」
フェルネスが胸に拳を当て、直立不動になる。
皇帝とエルモンドが部屋を出ると、皇后陛下も言った。
「ちょっと疲れたわ。私も近くの部屋で休むので、フェルネス。娘のことはお願いね」
マリアと侍女を連れ、皇后も部屋を出ていく。
部屋には静寂が落ちた。
二人きりになった。
フェルネスが笑ったのは結果が予測できていたからです
両陛下と皇太子のあわてぶりがおかしかったのです




