皇帝との対面
そこには、小柄な男性が立っていた。
後ろには騎士と女官らしき者を従えている。
着地すると、フェルネスは鳥魔獣から飛び降り、ターシャを抱き下ろした。
小柄な男性が二人の方へ歩み寄ってくる。
「フェルネス殿、久しいな。内戦の時、皇太子を送ってくれた時以来だが、まるで変わっておらぬ」
そう言ってターシャを見る。
「その娘はそなたの娘か? そなたによく似ておる。私の娘はそなたが連れてくると聞いていたが、違ったのか?」
フェルネスとターシャは、思わず同時に声を出した。
「叔父です」
「姪です」
フェルネスは一瞬「しまった」という顔をしたが、すぐ表情を引き締め、ひざまずいた。
「皇帝陛下。この方が姫君でございます。姫君、陛下にご挨拶を」
ターシャはお辞儀をしながら、内心で驚いていた。
(この方が……皇帝陛下?)
あまりにも小柄なのだ。
フェルネスよりも背が低いだろう。
後ろに控えている騎士が、大男のように見える。
皇帝の頭は、その騎士の肩よりも低かった。
「顔を上げなさい」
皇帝はターシャを見つめる。
「ふむ……これは皇太子から聞いた通りだな。フェルネス、そなたは妃の血縁者だ。それを忘れるでないぞ」
そしてターシャを見て言った。
「しかし……小柄だな。この子は六歳で間違いないのだな?」
フェルネスの顔から血の気が引いた。
――それは禁句なのだ。
兄のことと、身長のことは、ターシャが癇癪を起こす起爆装置だった。
今は、あの癇癪を抑える魔法を使える侍女がいない。
ターシャの体が小刻みに震えている。
(さて……どうする……)
フェルネスの視線が宙をさまよう。
「はい。今は六歳で、もうすぐ七歳になります」
(どうか初対面で癇癪だけは……)
フェルネスは背中に冷たい汗が流れるのを感じていた。
しかし皇帝は、にっこりと微笑んだ。
「自分の体が小さいことが嫌か?」
ターシャは涙をためた目で、こくりとうなずいた。
ここで癇癪を起こしてはいけない。
ターシャもターシャなりに、必死で感情を抑えていた。
皇帝はしゃがみ込み、ターシャと目線を合わせる。
そして彼女の手をそっと取った。
「わかるぞ」
皇帝は静かに言う。
「私もかつて、自分が他の男たちより背が低いことに劣等感を持っていた」
「だが今は全く気にしておらぬ。そなたも気にする必要はない」
そして、少し悪戯っぽく笑う。
「それとも、背の低い男は嫌いか?」
皇帝は優しくターシャを見つめていた。
自分と同じ瞳の色。
同じ髪の色。
そして優しい顔立ち。
しかし他の者からは感じられない、威厳に満ちた雰囲気があった。
「いやではありません」
ターシャの周りは、皆背が高かった。
亡くなった母もかなりの高身長だったと聞いている。
フェルネスも騎士たちより背が高い。
エリアスもフェルネスに近い身長だった。
皇太子はさらに大柄だった。
皇后も、女性にしては背が高かった気がする。
初めて見る小柄な男性。
それが皇帝陛下。
その事実にターシャは少し面食らっていた。
しかし同時に、不思議な親しみがわいた。
ターシャ自身も、同じ年頃の子供たちより頭一つ低い。
やせっぽちでもあった。
それがずっとコンプレックスだった。
黒髪と緑の瞳。
そして小柄な体。
それを理由に、何度も馬鹿にされてきた。
目の前のこの男性も、きっと同じ思いをしてきたのだろう。
そう思った瞬間、胸の奥に共感が湧いた。
荒れていた感情が、ふっと静まる。
「失礼いたしました。ターシャと申します。皇帝陛下」
ターシャは笑顔を見せ、改めてお辞儀をした。
皇帝は微笑んだ。
「皇帝陛下ではなく、お父様と呼んでほしい」
「それから、これから覚えねばならぬことが多い。励んでくれ」
「はい……おとうさま。承知しております」
自分でも不思議なほど、その言葉は自然に出てきた。
後ろに控えていたフェルネスは、無表情でその様子を見ていた。
「フェルネス殿。我が娘は実に賢い。そなたたちがどれほど大切に育ててくれたかがよくわかる。礼を言うぞ」
「もったいないお言葉でございます。陛下のお血筋であると思われます」
正直フェルネスは舌を巻いていた。
癇癪を起こさせることなく、
しかもあっさりと「おとうさま」と呼ばせてしまった。
(ここに連れてきたのは間違いではなかった)
そう確信する。
皇帝は振り返り、少し離れた場所にいた男女を呼び寄せた。
「こちらは私の側近兼護衛のエルモンド。そして、こちらは娘付きの女官マリアだ」
「皇后陛下の血縁者でフェルネスと申します。姫君を公爵家にてお預かりしておりました。これからも護衛としてお仕えいたします」
「皇后陛下の血筋とは! ほお……しかし……姫君によく似ておられる」
二人を見比べるエルモンド。
「エルモンド、余計な詮索は無用だ。妃の実家もいろいろある。我が娘は妃の血を濃く引いておる」
「失礼いたしました。エルモンドと申します。今後ともよろしく」
「マリアと申します。姫様、お会いするのを心より楽しみにしておりました。これから何なりとお申し付けくださいませ」
三十歳近いと思われるマリアは、どこか皇后に意見していた女官と雰囲気が似ていた。
「さあ、挨拶は済んだ」
皇帝が言う。
「マリア、娘を部屋に案内して休ませてやってくれ。フェルネスは私と来てくれ。話したいことがある」
マリアはターシャの手を優しく取った。
「姫様のお部屋は、姫様が戻られる日を信じて皇后陛下がずっと整えておられました。衣装も揃っております。さあ参りましょう」
ターシャはフェルネスを見る。
フェルネスは唇だけ動かした。
――行きなさい。
「娘よ。フェルネス殿は消えたりせぬ。安心して部屋に行きなさい」
皇帝の言葉にターシャはうなずき、マリアに手を引かれて階段を下りていった。
その後ろに、扉の側に控えていた騎士が続く。
「あれは女騎士のジュリアンヌだ」
皇帝が言う。
「この城では皇后の住む区域には、私と皇太子以外の男性は入れぬ。そなたもだ。娘の護衛は共用区域までだ」
「かしこまりました」
フェルネスは敬礼する。
「帝国式の敬礼も覚えてくれ。そなたなら問題あるまい」
皇帝は豪快に笑った。
次回はターシャの血筋の秘密があかされます




